Intuitive Light
パステルという画材は、レオナルド・ダ・ヴィンチが「光を描く」目的で発明したと言われている。だからパステル画の指導書はすべて、光を描かずして、何のためのパステル画だと言わんばかりに「光」の描き方に重点を置いている。対象を漫然と見ているだけでは「光」の存在に気づかず、「形」と「色」だけを描いて満足してしまう。「Intuitive Light」という本でも、光の捉え方と、その表現方法を集中的に解説している。
「黄色いスカート」 真夏の日差しが溢れる庭に立つ女性。太陽の強い光は、白でなく、黄色に感じるものだが、その黄色を主調色にしている。左肩、左腰、が強烈な太陽の直射光を受けて、強い黄色になっている。背中は陰になっているが、そこにも肌色の上に黄色が重ねられているのがわかる。それは地面からの反射光で、生き生きした肌を感じさせている。
「土塀の入口」 太陽の直射光を受けているのは、塀の上端と手前の道路だけだが、絵全体が光輝いている。赤茶色の塀が道路からの反射光を受けて、明るい黄色味を帯びているためだ。まるで塀自体が発光体のように感じられる。作者は「ほんの数分後、太陽の角度が変わって、反射が無くなり、もとのくすんだ赤茶色に戻ってしまった。」と言っている。
「メイン・エントランス」 光は色に大きな影響を与える。時間帯によって太陽の光は変化して、物の固有色の見え方を変化させる。例えば、朝の光は寒色で、夕方の光は暖色になる。この絵は、夕方に近い遅い午後の風景を描いている。雪が残っている冬で、全体的に寒色だが、陽が当たった塀の一部だけが暖色になっている。寒色と暖色の対比が美しい。
「バラノフ島」 家とその手前の木道を描いている。作者は「曇っていた空が、急に日が差して明るくなったが、その瞬間、バラバラだったいろんな要素が、共通して輝くような黄色い光を浴びて、風景全体が一体感を持ち、まるでマジックのようだった」と言っている。
「店じまいの時間」 女性が露店の店じまいを始めた。陽が傾いてきて、物の影が真横に長く伸びている。外しかけたテントは画面の外にあるが、その影が、後ろの明るい建物と強いコントラストでくっきりと映っている。影が太陽の方向を知らせていて、見えていないテントの形や大きさもわかる。そして影のおかげで、手前にいる女性をくっきりと浮かび上がらせている。この絵は、物の組み合わせで構図を作るのではなく、光と影で画面を構成している。
「真昼のマーケット」 光には「直射光」や「反射光」の他に「透過光」があるが、この絵は透過光の効果を活かしている。手前のおばあさんや木箱は直射光を受けて明るいが、奥の方はテントが光を遮っていて暗い。しかし布のテントは光を透過するので、テントの内部をわずかに明るくしている。そのため奥にある木箱などのカラー・バリューが微妙に高くなっているのがわかる。
「冬の静けさ」 細く明るい光が左から右へ差し込んでいる。空がややピンクがかった色だから、雪があっても暖かい日のようだ。その暖色の光が黒っぽい色の塀に当たってややオレンジがかった暖色になっている。そしてその暖色がさらに、手前の寒色の雪の中にかすかに反射しているのがわかる。いろいろな物どうしの色がお互いに反射しあい、影響しあっていることを作者は気づいている。
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