2023年9月15日金曜日

「食べる西洋美術史」

 History of Eating

「食べる西洋美術史」(宮下規久朗)は、西洋では重要な絵画のテーマだった「食事」や「食物」の絵画を通して、西洋における「食べる」ことの意味を読み解いている。日本には「食」の絵画という歴史がないから、目からウロコの本だ。

食事の絵といえば何といってもレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」で、キリスト教において、食事が神聖な意味を持っていることがわかる。この宗教的な意味の食事というテーマは、それ以後もずっと描き続けられてきた。

例えば、17 世紀のカラヴァッジョの「エマオの晩餐」は、復活したキリストが二人の弟子と夕食を共にし、パンとワインを分け与えている。ただこの作品では、それ以外にローストチキンや果物など豪華な食べ物が並んでいる。しかし、パンだけが命の食べ物であり、キリストの肉体の象徴とされていたから、パンはキリストのすぐそばに置かれている。それ以外は、果物籠がテーブルから落ちそうになっていていたりして、やがて”朽ちていく食物” であるという意味が込められている。


食の絵画は、宗教的なものばかりではない。宴会や乱痴気騒ぎなど単純に飲み食いの楽しみを描いた絵画もたくさん描かれた。この「リコッタチーズを食べる人々」(16世紀)は食欲むき出しの4人が大皿のチーズをすくいながら食べている。各人自分のスプーンを手にしているが、左端の男のスプーンは巨大だ。


17 世紀のオランダで、宗教画の一部に描かれていた食べ物が独立して、「食卓画」という新しいジャンルが生まれた。それが発展して「静物画」になっていく。ファン・ダイクの「チーズのある静物」では様々な食物が並んでいて、それぞれは味覚が表現されているという。りんごは酸味、チーズは辛味、ぶどうは甘み、木ノ実は苦味、といった具合に、視覚だけでなく、味覚も刺激しようとしている。


時代が下って、印象派なども食べることをテーマにした絵がたくさんある。ルノワールの「舟遊びたちの昼食」では、明るい水辺のテラスで男女が談笑している。昼食はもう終わったらしく、瓶やグラスのワインはほとんど残っていない。デザートの果物だけが残っている。享楽的な近代生活での食事を描いている。


ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を、ダリがシュール・リアリズム的に再現した。舞台は SF 映画的で、空には巨大なキリストが浮かんでいる。キリストは指を立てて説教していて、弟子たちは頭を垂れている。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」以上にキリストの”強さ” が強調されている。テーブルの上には2切れのパンと、ワイングラスが一つだけしかないから、食べ物は弟子たちに分け与えられていない。キリストの後光がワイングラスに当たって、赤い透過光がテーブル上に落ちているのが美しい。スペイン市民戦争の時代だから、キリストの力による平和の到来を願っているのだろうか。


0 件のコメント:

コメントを投稿