Railway painting
蒸気機関車を初めて描いたのは、ターナーだった。「雨、蒸気、速度:グレイト・ウエスタン鉄道」(1 8 8 4 年)は、降りしきる雨を切り裂いてばく進する列車を描いている。
印象派の時代、近代的な都市の風景が描かれるようになる。モネは機関車、列車、駅、線路などをモチーフにした連作を描いた。「サン・ラザール駅の外、列車の到着」(1 9 7 7 年)は蒸気を吹き上げる機関車がいきいきと描かれている。
2 0 世紀初頭、近代産業を賛美するイタリア未来派たちの一貫したテーマは、「スピード」だった。ウンベルト・ボッチョーニの「村を通過する赤十字の列車」(1 9 1 2 年)では、煙を上げて疾走する列車と、後ろへ飛んでいく風景の断片がコラージュ風に描かれている。
ツアー旅行が盛んになった時代、カッサンドルは、大型客船や列車をモチーフにした観光ポスターを得意にした。「北方急行」( 1 9 2 7 年)は、ローアングルと、極端なパースで、蒸気機関車のスピード感と力強さを表現している。
キリコは父が鉄道技師だったことから、機関車や駅舎など鉄道が登場する絵を描いたが、キリコの他の絵と同様に、現代社会の不安を象徴的に描いている。この絵は工場の向こうに機関車が小さく見えている。
ポール・デルヴォーは子供の頃から鉄道マニアだったそうで、鉄道を繰り返し描いた。貨車や駅舎と、それを見つめる女性が夢幻的に描かれている。
エドワード・ホッパーは有名な「線路ぎわの家」のように、風景に線路がよく登場する。この「ペンシルヴァニアの夜明け」(1 9 4 2 年)では、駅のホームと、停車している列車が描かれている。背景が殺風景な工場なのもホッパーらしい。
チャールズ・シーラーは、工場、倉庫、運河、鉄道などの近代産業の風景を専門に描いた。直線的なモチーフをそのまま幾何的に正確に描き「プレシジョニスト」と呼ばれた。この「クラシックな風景」(1 9 3 1 年)では、フォードの自動車工場に向かう引き込み線が力強く描かれている。
ナチス・ドイツの負の歴史をテーマに象徴主義的に描いたアンセルム・キーファーは、「鉄路」(1 9 8 6 年)で、アウシュビッツ収容所へユダヤ人を運ぶ貨物列車の引き込み線のイメージを描いている。(写真家でもあったキーファーは収容所の線路跡の写真を実際に撮っている。)