Vermeer's perspective
前回投稿の補足。
フェルメールの「牛乳を注ぐ女」の遠近法は「おかしい」と著書だけでなく新聞にも書いているが、この「おかしい」主張を多くの人が信じてしまうのではないかと心配する。そこで前回書いたことをもう少し補足しておく。
この絵の室内の平面図を描くとこのようになっている。(テーブルが斜めに置かれていると考える根拠については以前に書いた。) テーブルと足温器は、窓と平行ではなく、それぞれ違った角度で置かれている。平行でない物の消失点は違う所にできるのは遠近法の常識で、この場合も、それぞれの消失点は別々の位置に3つできる。しかしこの本では、消失点が一致しないことを理由にフェルメールは「消失点を無視している」と言っているのだが、著者は、消失点は常に一点でなければならないと信じていることが分かる。
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(テーブルと足温器は斜めなので2点透視になるが左の消失点は省略した) |
絵に補助線を引いて消失点の位置を調べるとこのようになる。ここで最も重要なのは、3つの消失点すべてが、アイレベル(見ている人の目の高さ)の線上に見事なくらいぴったり乗っている点で、このことがフェルメールの遠近法がきわめて正確であることを証明している。このように消失点が画面の外にあると、著者のように「消失点を無視している」と思いがちになる。また地平線がはっきり見えている風景画のような場合以外は「アイレベル」は目に見えない概念なので理解が難しく、しかもそれは作図してみないと確認できない。だから「フェルメールは遠近法に違反しており、ありえない空間を描いている」と的外れな解釈になってしまう。遠近法に忠実だったフェルメールに対して、この「視覚心理学者」が「実はおかしいことがわかった」という「大発見」をあちこちで言いふらしているのは残念だ。
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