2017年12月31日日曜日

ゴールディングの小説「後継者たち」

William Golding  " The Inheritors "

カズオ・イシグロがノーベル賞を受賞したので、同じくイギリス人作家で 1984 年のノーベル文学賞受賞者ウィリアム・ゴールディングを思い出した。「後継者たち」という面白い作品がある。「後継者」とは数万年前にネアンデルタール人の後にそれに代わった人類ホモサピエンスのこと。両者の勢力がいれ替わっていく様子を架空の村の物語として描いている。人類が今の文明を作ってきた原点の物語だ。

村の近くに川が流れている。しかしネアンデルタール人の村人たちは川を渡れないので限られた土地でささやかに生活している。やがて彼らが「新しい人たち」と呼ぶホモサピエンスがやってくる。しばらくするとサピエンスたちは木を倒し、その丸太を川に渡して橋を作ってしまう。そして橋によって自分たちの生活圏を広げていく。橋というまだ存在しないものを頭に思い浮かべることができる能力はネアンデルタール人には無かったものだ。橋を作るときサピエンスは「頭の中に絵が見える」と言う。まさにデザインをしている。この力が生存競争に勝って人類が現在まで続いてきた原動力だった。

しかしゴールディングが言いたいのはそういう人間の力を賛美することではない。逆に橋を作ることは、今の時代の開発による自然破壊や富を奪い合う争いなどにつながる出発点だった、と言いたいようだ。自然のままにピュアに生きていたネアンデルタール人を滅ぼして、その後の人類が作ってきた「進歩」への懐疑を投げかけている。

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