ある映画を見ていたら「作家はウソで真実を語る」というセリフが出てきた。シンプルに核心をついた言い方で感心した。同様に「映画監督はウソで真実を語る」とか「画家はウソで真実を語る」とも言い替えられると思う。「リアリティ」は本当らしさだが、ありのままをその通りに描けば本当らしくなるとは限らず、逆にウソが必要ということだろう。
例えば、普通 SF は100% ウソだが、いい SF は普段見えていない現実をウソを通して見せてくれる。ノーベル賞のカズオ・イシグロの「私を離さないで」は一応 SF に分類されているが SF という感じがしないのはウソが高度だからだろう。
映画化された「私を離さないで」にこんな印象的なシーンがあった。特殊な施設で育ったこの若者たちは普通の社会経験がない。初めて入ったカフェで「ご注文は?」と聞かれて固まってしまう。"純粋培養"された若者たちの悲しさがリアルに表現されていた。イシグロのこの作品は、誰もが決められた運命のもとで生きているにすぎない(真実)ことを語るために、この特殊な若者たちをメタファー(ウソ)として使っている。
0 件のコメント:
コメントを投稿