2013年12月11日水曜日

「フェルメールのカメラ」

「フェルメールのカメラ」
フィリップス • ステドマン著、鈴木光太郎訳
2010、新曜社

とても面白い本だったので紹介します。著者はイギリス人の建築家です。

フェルメールが絵を描く時、「カメラ • オブスクラ」というカメラを利用していたというのは、定説になっているようで、たいていのフェルメールの解説書にもそのことが書いてあります。それはボックス型をしたピンホールカメラですが、フェルメールに関する文書類の記録がほとんど残っていないため、これを実際にどのように使っていたのかは謎のままだったわけです。

当時の「カメラ • オブスクラ」には、ボッックス型の他に小部屋型というのがあって、光を遮断した暗室の壁の穴にレンズをはめて、その反対側の壁に映った像を部屋の中に入った人がトレースする、というものです。「カメラ • オブスクラ」というのは「暗い部屋」という意味なので、こちらが本家のようです。フェルメールが絵を描くのに使っていたのはこのタイプだというのが著者の仮説で、そのことを客観的に証明するために緻密な論証をしていく過程が書かれているのがこの本です。腕利きの探偵が物的証拠を集めて謎解きをしていくミステリー小説のようです。

証明のしかたをかいつまんで言うと、こうです。まずフェルメールの絵はほとんど室内画なので、絵から彼が画いた実際の室内空間を再現していきます。描かれている窓、床のタイル、壁にかかった絵、家具などを手がかりに透視図法を駆使して室内の3面図を作り、その中のどの地点が視点になっていたかを割り出します。ところが、どの絵も窓は2つないし1つしか描かれていないのに、実際の部屋には手前にもうひとつ第3の窓があったことまでつきとめます。こうやって再現された室内空間を検証するために、作った図面をもとに室内模型を作り、それを視点の位置に置いたカメラで写真を撮ります。その写真と実際のフェルメールの絵を重ね合わせるとぴったり一致したのです。

フェルメールがカメラを使って像をトレースしていたことが分かっても、それは別に「ズル」をしていたのではないのはもちろんです。他の人が同じことをやったとしてもあのようには描けないわけで、やっぱり彼の偉大さには変わりないでしょう。

なお、この内容は、http://www.vermeerscamera.co.uk で見ることができます。各作品の室内空間の再原図なども載っています。


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