2022年12月17日土曜日

映画「影なき狙撃者」

 The Manchurian Candidate

最近、某宗教団体の「マインド・コントロール」が問題になっているが、かつては「洗脳」と呼ばれ、マインドコントロールのような生やさしいものではなかった。終戦直後にソ連や中国で捕虜になった日本の兵士たちが共産主義の思想教育の洗脳を受けた話がよく報じられた。


この映画は、東西冷戦が厳しかった時代を舞台に、朝鮮戦争で中国・ソ連の捕虜になって洗脳され、帰還したあとも洗脳が解けずにいるアメリカ兵が主人公。


元兵士は普段は普通の人間だが、ハートのクイーンを見るとスイッチが入って、殺人マシーンと化すように洗脳されている。


主人公は大統領選に出馬している政治家(赤狩りで有名なマッカーシー上院議員がモデル)の息子なのだが、対立候補を暗殺するように指令を受ける。(しかし最後は意外なオチが待っている。)


以上のようにこれは、冷戦時代を舞台にした反共映画なのだが、興味ふかいシーンが出てくる。今日本で問題になっている宗教団体は、もともと韓国の反共団体で、それに日本の岸首相が深く関わっていたことは最近よく報じられている。その岸首相の画像が出てくるのだ。


2022年12月14日水曜日

危ない映画 ベスト3

 Dangerous Movies

”危ない映画” について今までも書いたが、あらためてベスト3(ワースト3)をまとめてみた。いずれも古い映画だが、その価値観が現在も現実の世界でしっかりと生き続けていていることが ”危うい” 。


黒人のデモが起きると、インディアンをやっつける騎兵よろしく
KKK 軍団が勇ましく駆けつけて、黒人にリンチを加える。
代表的なのが「国民の創生」で ”史上最悪の名画” と呼ばれている。”名画” と呼ばれるのはグリフィス監督の画期的な映画手法によるのだが、内容的には酷評されてきた。黒人への人種差別をあおり、悪名高い KKK を正義の味方として賛美している。しかし、トランプ政権時代には、 KKK が復活したり、警官が黒人に暴行するなどの事件が多発した。また大統領自身も差別的な発言を繰り返して人気を得ていた。100年前のこの映画が主張する差別主義が現在も堂々と生きているのが怖い。

メロドラマの形をとっている映画だが、
男尊女卑的で、うっとりした表情の女性
が見あげているのは、摩天楼のてっぺんに
すっくと立っている主人公の建築家だ。

トンデモ映画の ”怪作” とされる「摩天楼」も悪名高い。極端な自由主義の思想家アイン・ランドの原作を映画化したもので、主人公の天才的な建築家に、その思想を代弁させている。才能のある人や努力した人が成功して豊かになるのは当然で、国がそれを規制するべきでないと演説する。そして、成功した人から税金を取って、それを貧しい人を救済する社会福祉に使うのは止めろと主張する。 今でもアイン・ランド思想を信奉する政治家は多く、彼らは”新自由主義者” と呼ばれる。トランプ政権下で、国民健康保険制度を廃止してしまい、貧富の差がますますひどくなったのもそれだ。


党大会で支持者が熱狂している。しかし
この直後、男がフェイクであること
がバレると一転して怒号の嵐になる。
現在、世界じゅうでポピュリズムが(日本も含めて)勢いを増している。「群衆」は、ポピュリズム政治家が生まれ、大衆に支持されていくメカニズムをドラマにしている。古い映画だが、いまだに現代性のあるテーマだ。ある新聞社が、適当に選んだ普通の男をヒーローにでっち上げて、男を売り出す大キャンペーンを張る。国民が友愛の精神で助け合う理想社会を作るという、新聞社が書いた原稿で演説を男に繰り返させる。国民の熱狂的な人気を得て、政党まで結成するようになる。しかしそれは新聞社の社長が大統領選挙に出馬するために仕組んだ罠で、男は利用されていただけだった。今の時代なら新聞ではなく SNS だが、メディアによって「群衆」が簡単に操られてしまう恐ろしさを描いている。


2022年12月12日月曜日

パステル画 鑑賞 人物編

 Figures with Pastel

パステルは、石膏デッサンの木炭と同じ性質の画材だから、デッサン力が命の人物画に向いている。(写真は「Pure Color : The Best of Pastel」より)

カラーペーパーに白と黒だけで描くのは、ミケランジェロなどの習作デッサンから続く、パステル画のもっとも基本的な手法。これを土台にして着色すれば以下のようなタブローになる。





2022年12月9日金曜日

悪評のディズニー映画「南部の唄」

 Song of the South

現在 NHK の Eテレ で放映中のシリーズ「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」の、 12 / 7 放送でウォルト・ディズニーが特集されていた。ディズニーは巨額の制作費をかけてヒット作を狙うが、失敗することが多く、いつも借金をかかえていた。

中でも「南部の唄」は猛烈な批判を浴びた。舞台は奴隷解放以前の農場で、使用人の黒人と白人の農場主の子供たちの交流を描いている。主人公の黒人の年寄りが古い民話を白人の子供たちに語って聞かせるという内容で、実写とアニメを融合した美しく牧歌的な映画だ。

まるで奴隷制の人種差別など存在しなかったかのように、白人と黒人の関係を美化していることに批判が集まった。現実に存在する問題や、歴史的事実を無視した、ファンタジックで夢のような世界を描く、いつものディズニー映画なのだ。

批判を浴びたディズニーは現在ではこの映画を封印してしまい、無かったことにしているので、全編をビデオでもネットでも見ることができない。

ディズニーが無かったことにしている映画は他にもいろいろあって、人種差別的なシーンは今では全てカットしている。また第二次世界対戦中に作った「空軍力の勝利」は長距離爆撃機で日本を空襲すべきという提案をしている映画だが、さらに「ドナルドの襲撃部隊」は、ドナルドが落下傘で降下して日本軍をやっつけるという冒険アニメで、日本人を人種差別的に描いている。これももちろん今では見ることができない。


2022年12月6日火曜日

パステル画の、「ルーズ」な絵と、「タイト」な絵

 Loose & Tight, Pastel painting

パステル画の表現力の多様さのひとつが、「ルーズ」と「タイト」が自在に描けるという点。(写真は「Creative Painting with Pastel」より)

「ルーズ」の例。細部にとらわれず、太いストロークで動きを活き活きと描いている。

「タイト」の例。細部まで正確に描写し、質感をリアルに表現している。

2022年12月3日土曜日

映画「イワン雷帝」

 「Ivan the Terrible」

「戦艦ポチョムキン」のエイゼンシュタイン監督による古典的名作で、中世ロシアのイワン雷帝を描いた歴史絵巻的な大作。2部構成で、第1部では、帝位についたイワンが、中央アジアの周辺国(今のカザフスタンなど)を制圧し、ロシアを強力な統一国家にする。第2部では、国内の反皇帝勢力との激しい権力闘争が描かれ、イワンは反対派の大粛清を決行する。スターリン独裁時代に制作されたこの映画、第1部の完成時にスターリンはエイゼンシュタインに勲章を与えたが、第2部の完成時には、スターリンは一転して激怒し、上映禁止にしてしまう。映画は、イワン雷帝をスターリンに重ねて、その強圧的な独裁政治を批判しているのだ。


上の場面は、イギリスと敵対していたイワンが、イギリスに派遣する大使と面会しているシーン。イギリスに対して、バルト海制覇という自分の野望を伝え、相手を威圧するように命令している。この場面で、壁に巨大なイワンの顔の影が投影されていて、机には地球儀が置かれている。世界を手中に収めたいというイワンの欲望がシンボリックに表現されている。


粛清によって政敵を倒した後のラストだけカラーになるが、しかしカラーといっても赤一色だけ。その場面でイワンは言う。「皇帝に逆らう逆臣には、残酷と怒りで闘う。」「ロシアの主権を犯そうとする外国勢力には、断固として反撃の正義の剣を振るうであろう。」 だから、エイゼンシュタインのこの赤は、共産主義のシンボルカラーの赤と、粛清で流された血の赤、を意味していると想像できる。

もしエイゼンシュタインが今も生きていたら、「プーチン雷帝」を撮るかもしれないと、つい思ってしまう映画だ。

2022年12月1日木曜日

パステル画 鑑賞 静物編

Pastel painting : Still life 

趣味で絵を描く人は多いが、ほとんどが水彩か油彩で、パステルをやる人は少ない。また普段からパステル画に接する機会は多くない。だから、パステル画について偏ったイメージが世にはびこっている。柔らかくて優しい色調を「パステル調」と言ったりするのもそのひとつだ。パステル画のプロたちの作品を見ると、パステルの可能性を知ることができる。(写真は「Pure Color, The Best of Pastel」および「Creative Painting with Pastel」より)


繊細なストロークを重ねて、布の柔らかさを表現している。計算された構図が空間を感じさせている。

初心者がよくやる指でこすることはしていないので色が輝いている。物の輪郭をソフトエッジにして、背景との間の空間を感じさせている。

上の例と対照的に、徹底してタイトにハードエッジで描いている。モチーフの質感が写真的なリアルさで表現されている。

窓から差しこむ光がテーマになっている。曲がりくねった細いストロークを重ねて、ガラス器に反射する光を表現している。

エキゾチックな壺の絵柄を主題にしたユニークな絵。小物やタピストリなども含めて、パステルならではのカラフルな色で画面を埋め尽くしている。