2013年10月19日土曜日

「光」の絵(その7)

光といえば、「光の巨匠」と言われるフェルメールだ。映画「真珠の耳飾りの少女」にその作品の制作秘話が描かれている。フェルメールは使用人の少女をモデルに描くのだが、唇を2度、3度となめさせる。唇がぬれて光り、ハイライトを拾う。それを強い白の点で描く。このように、物のテクスチャーの細かい凹凸をそこに当たる光の点々で表現する手法をフェルメールは開発したが、この技法を「ポワンティエ」というそうだ。これも初めて知った。有名な「牛乳を注ぐ女」でもパンやかごや壷などのハイライトが白の点々で描かれている。
映画「真珠の耳飾りの少女」より

映画「真珠の耳飾りの少女」より

 フェルメール「真珠の耳飾りの少女」

フェルメール「牛乳を注ぐ女」部分


2013年10月17日木曜日

「光」の絵(その6)

キアロスクーロの静物画を見て、自分も勉強のつもりで、やってみようと思った。ゼロから描くのは大変なので、ずっと以前に描いた絵の改造でやることにした。アクリルで描いたふつうの静物画だが、これに薄く溶いた暗いグレーを太いハケで何度か塗り重ねて、画面全体を暗くする。そのとき、元の絵を塗りつぶすのではなく、うっすらと元の絵が透けて見えているようにする。それから、ハイライト部分に真っ白か、白に近い明るい色を強く乗せていく。できたのが下の絵で、できばえは別にして、それっぽくはなったか。やってみて分かったのは、この描き方は昔、学生のときに習った「ハイライトレンダリング」の感覚とソックリだ。暗い色のカラーペーパーに白鉛筆やガッシュの白で、ハイライトだけで描いた、あれだ。


2013年10月16日水曜日

「光」の絵(その5)

昨日書いた「キアロスクーロ」の続き。17世紀後半になると、カルバッジョのような歴史画がすたり、室内画(例:フェルメール)や風景画(例:ロイスダール)のような新しい絵のジャンルが生まれ、それとともにキアロスクーロのような、物語をドラマチックに演出するための光の手法もすたれ、より自然な光を表現するようになっていった。このように美術史の解説書に書かれている。現代ではまったくすたれたこの手法だが、静物画の分野では、今でもこれをやっている人がけっこういるようだ。下の例は、デーヴィッド • レフェルという人の絵だが、本人自身が自分はキアロスクーロの画家だと自認しているという。薄暗い空間に差し込む細い光でぽっと対象物が浮かびあがりドラマチックだ。


2013年10月15日火曜日

「光」の絵(その4)

最近、絵画の用語で「キアロスクーロ」(Chiaroscuro)という言葉があるのを初めて知った。これはイタリア語の「明暗」という意味だそうで、絵画の世界では、光の明暗によって対象物を表現する技法を指し、明暗法とか陰影法と呼ばれている。この技法は中世から始まり、やがて、より強烈な明暗表現に発展していく。17世紀に、それが最高潮に達し、その代表的作家がカラバッジオで、「聖マタイの召命」がこの技法を使った代表例として必ずあげられている。画面の大半が闇で、人物はその闇にとけ込んでいるが、光の当たった部分だけが強烈に浮かび上がり、とても劇的な効果を出している。この絵自体は知っていたが、この描き方が、ちゃんと名前のついた技法だとは知らなかった。


2013年10月14日月曜日

「光」の絵(その3)

トレバー • チェンバレンの画集に「光」の絵について、とても興味深く分かりやすい本人の説明があったので、紹介したい。上の絵は、彼が12才のころ、絵画教室で習っているとき、近所の風景を描いた絵だそうだ。彼がプロになってから、この子供のころの絵を見て、同じ場所で同じ時間帯に描いたのが下の絵で、二つを比較して彼はこう言っている。「上の絵を見た人は、この絵が晴れた夕方の絵だとは誰も思わないだろう。それは、物の固有色を描こうとすることに一生懸命になってしまうという初心者によくある間違いに落ち入っていて、「光」によって影響を受けた物の色をとらえようとしていないからだ。下の絵では、暗い空を背景に、建物や水面などに投げかけている夕方の光の色やトーンのドラマを描いている。」
(「Trevor Chamberlain、 A personal view」より)






「光」の絵(その2)

ジョン • ヤードリーと共に光を描くのがうまいのが、同じくイギリスの画家トレバー • チェンバレン(Trevor Chamberlain)だと思う。彼の画集を見ると、すばらしい作品だらけで、ひとつだけ選ぶのに苦労するが、下はその一例。光を描くことで、その場の空気感がたっぷり伝わってくる。
「Townpath at Marlow」(「Trevor Chamberlain, England and Beyondより)


「光」の絵(その1)

いろんな人のさまざまな絵を見ていると、絵は3種類に分けられるのではないか、と思っている。「形」の絵、「色」の絵、「光」の絵、の3つに。このなかで閑人は「光」の絵にとても惹かれる。その代表チャンピオンのような人が、イギリスの水彩画家ジョン•ヤードレー(John Yardley)。下の例でいうと、「形」の輪郭はとてもあいまいで、「色」はわずかでモノトーンに近く、画家が描こうとしているのは明らかに「光」だと思う。画面のあちこちにちりばめられた塗り残しの紙の白が光輝いている。うまさに感心するばかり。


「LATE AFTERNOON, NICE MARKET」(Ron Ranson:「The paintings of John Yardley」より)