Propaganda Architecture
前回書いた日経新聞の連載コラム「プロパガンダの威力 10 選」の9回目で「クレメンス・クロッツ設計『プローラ』」という建築が取り上げられていた。ドイツの島にある一般労働者のための保養施設で、最大2万人が宿泊できる巨大施設だったそうだ。ヒトラーは政権を握ると、産業の近代化をはかり、大恐慌以来あふれていた失業者をゼロにし、労働者の所得を大幅に増やした。そして労働者を優遇する社会保障政策を推し進めた。子育て世代の育児支援、8時間労働と住職接近、新婚者の新築住宅の税金免除、福利厚生施設の拡充、などで、ドイツは福祉大国になった。(池内 紀 著「ヒトラーの時代」による)
その福利厚生の一つとして、労働者が誰でも休日に旅行ができるようにする政策を強力に進めていた。安く泊まれるリゾート地の開発や、誰でも旅行ができるための安い国民車(フォルクスワーゲン)の提供などは有名だ。おそらくこの施設もその一貫として建てられたのだろう。
こういう政策が次々に実現していくのを見て、反ヒトラーだった人たちも熱烈なヒトラー支持者に変わっていったという。そのプロパガンダ役を果たしたものの一つが、この保養施設だった。「プロパガンダの威力10 選」の一つに選ばれたのはそのためだろう。
この写真で、窓が一列に機械的に並んでいて、味も素っ気もない。室内の造りも全室均一だそうで、リゾートの施設らしいうるおいがまったくない。だから戦後は軍隊の兵舎として利用されたという。同記事によると、地位や職業に関係なく、ドイツ民族であれば同じ空間で同じように余暇を過ごす。それがナチスの「民族共同体」思想のプロパガンダの具現化だったとしている。
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