2025年8月27日水曜日

「深読み」が必要なプロパガンダ絵画

Propaganda Painting

日経新聞(8 / 13 ~ 8 / 27)の文化欄に「プロパガンダの威力 10 選」という連載コラム記事があった。絵画、彫刻、建築、映画などの各分野における代表的なプロパガンダ作品を 10 個選んでいる。とくに題名に「威力」とあるように、プロパガンダとして「威力」のあった作品を取り上げている。

例えばこの「神兵パレンバンに降下す」は、太平洋戦争中の落下傘部隊の活躍を、従軍画家が描いたもので、国民の戦意高揚をねらった有名な戦争プロパガンダ絵画だ。

しかしこのようなわかりやすいプロパガンダばかりではない。同記事も言っているように、プロパガンダには「深読み」が必要な場合が多い。国の政策が国民に本当に支持されているならば、わざわざその政策を強調する必要などないからだ。歴史的にみると、一見プロパガンダには見えない巧妙なプロパガンダ絵画が多くあり、それらは「深読み」が必要になる。「全体主義芸術」(イーゴリ・ゴロムシトク著)という本は、ナチスドイツと、社会主義ソ連との二つの全体主義国家のプロパガンダ芸術を研究している。そのなかから「深読み」が必要な作品のいくつかを紹介する。(写真は同書より)


ソ連の集団農場のコルホーズを描いた「コルホーズの祝日」という絵で、祝日に労働者たちが集まって食事をする光景が描かれている。食卓には豊かな食事が並び、人々の顔は喜びに満ちて、コルホーズの豊かさを表している。何も知らずにこの絵を見れば農村の平和な風景に見える。しかしこの絵が描かれた1930 年代は、農業集団化政策の失敗のため、ソ連全土で無数の餓死者が出る凄まじい飢饉が起きていた。社会主義の計画経済の失敗を隠そうとするソ連政府が、飢饉などなかったように見せるためのプロパガンダ絵画だ。

S・ゲラシモフ 「コルホーズの祝日」(1936 年)

同じくコルホーズ農場の絵画で、「昼食は母たちのもとで」がある。昼食時間に母乳をやるために連れてこられた赤ん坊と母親が対面するという喜びに満ちた明るい絵だ。しかし子供を産んだばかりの母たちが家庭から引き離されて、コルホーズでつらい肉体労働をさせられているという事実の裏返しだ。

ガポネンコ 「昼食は母たちのもとに」(1935 年)

ソ連では、社会主義イデオロギーの成功を誇示して、 ”偉大な国” としてのイメージを高めるための、工業力の発展をテーマにするプロパガンダ絵画で溢れていた。溶鉱炉や、煙を吐く工場や、疾走する列車などの工業的風景がモチーフだった。

コトフ 「第一溶鉱炉」(1931 年)

戦後の米ソ冷戦時代の作品「新しい制服」で、新しく支給された制服を、家庭で試着している光景を描いている。裕福そうな住居と、幸福そうな家庭生活を強調している。当時の社会主義経済 対 資本主義経済の競争時代に、社会主義経済が成功し、市民たちが豊かさを獲得したことをうたっている。しかしやがて経済は破綻して、ソ連の崩壊へ向かっていくのだが。

ポノマリョフ 「新しい制服」(1952 年)

0 件のコメント:

コメントを投稿