2024年9月11日水曜日

キリコの絵と映画「パンドラ」

Chirico  &「Pandora and the Flying Dutchman」


もう終わってしまった「キリコ展」(東京都美術館、~ 8 / 29 )だが、出品されていた「ヘクトルとアンドロマケ」を引用した面白い映画があった。

「ヘクトルとアンドロマケ」は、表情のないツルンとした顔を描いている。背後には建設中の建物があり、人物が持っているのは定規と図面らしく、2人は建物の設計者なのだろう。人々が均質化して個々の顔が見えくなった現代に対するキリコの批判が込められているようだ。

この絵を引用していた映画は、 7 0 年も前のメロドラマ「パンドラ」( 1 9 5 1 年)だ。監督のアルバート・リューインは、現代美術に精通していて、特にc抽象絵画やキリコが大好きだったという。

主人公の女性の名前が「パンドラ」だ。「パンドラの箱を開ける」という慣用句は、封じられていたことを表に出すと厄災がもたらされるという意味だが、映画の妖艶な美女「パンドラ」は、まわりの男たちを惑わしてさまざまな厄災をもたらす。

パンドラはある時偶然に一人の男に出会う。彼は画家で、そのとき美しい女性の肖像画を描いているが、初対面なのにその絵が自分にそっくりなのに驚く。しかも絵のパンドラは「パンドラの箱」を手に持っている。


この女性が厄災をもたらすパンドラであることに気付いた画家は絵を直してしまう。それがキリコの人物画とそっくりな、のっぺらぼうの顔だ。背景にギリシャ神殿風の建物があるのもキリコの引用になっている。そして「具象化したり美化したりするよりも、抽象化こそがこの絵の女に似合っている。」と言う。


現代美術の愛好者であるリューイン監督は、キリコの引用を行うことで、それまでの平凡な写実主義の絵画に対する論争を仕掛けているように見える。


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