「The Man from London」
カラー時代にあえて白黒で撮っている監督は何人かいるが、ハンガリーのタル・ベーラ監督はその一人。前々回に「ニーチェの馬」について書いたが、続いて「倫敦から来た男」について。これはサスペンス映画で、謎めいた夜のシーンが続く。白黒映画の「光と影」の効果を最大限に活かして、ミステリアスな雰囲気を全編に醸し出している。
船着場で、船から降りた客が列車に乗り換えているシーン。カメラがゆっくりと上にあがりながら 10 分くらいの長回しで撮っている。これから何が始まるのかという観客の期待感をあおっている。最後に上まで登り切ったとき、これを見ているのは、監視塔の上で線路の切り替えをしている転轍手の主人公であることがわかる。
主人公は、一人の船客が反対側の岸に何かを投げて、それを何者かが持ち去ったのを目撃し、不審に思いその場所へ行ってみる。ここで事件が起きているようなのだが、白黒でしかもロングショットなので、詳しいことはわからない。豊富な情報を伝えるカラーを白黒映画はカットしているので、謎めいた雰囲気を出すのに効果的だ。
主人公は、自分が尾行されていると気づき、塔の上から男を見ている。光と影の強烈なコントラストが主人公の不安感を表現している。こういう光と影による造形は、昔の表現主義映画の時代から使われていた手法で、映画という芸術メディアの根本にかかわる要素だ。
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