2013年10月31日木曜日

「ユートピアを求めて」展

ユートピアを求めて   
〜ポスターに見るロシア • アヴァンギャルドとソヴィエト • モダニズム〜
神奈川県立近代美術館  葉山館、10/26~1/26 
                 
歴史好きの閑人にとって、この展覧会は、見応えがあった。1917年のロシア革命のころ、ロシアで起った時代の先端をいく芸術 • デザインの運動がロシア • アヴァンギャルドで、ほぼ同時代のドイツのバウハウスと並ぶモダンデザインの元祖だ。建築分野でも構成主義のタトリンなどが有名だ。この展覧会は、そのなかのポスターに焦点をあてている。「人々が社会変革に希望を抱いていた革命の時代に、芸術家も芸術の革命によってユートピアの実現を夢見ていた。」(展覧会パンフレットより) だから革命政府と芸術家は完全に連帯していた。しかし、やがてソ連が成立し、スターリンが権力を握り、1930年代に入ると、国家による芸術の中央集権化と統制が始まる。ロシア • アヴァンギャルドは否定され、例の社会主義リアリズムが唯一の公認芸術となり、ユートピアへの希望は消滅していく。展覧会は3部構成になっているが、第3部はこの30年代のポスターである。この室に入ったとたん今までのデザインの先進性が消えて、昔よく見たおきまりのパターンの政治プロパガンダのポスターになる(下の写真)。そこで連想するのが、ドイツのバウハウスで、1919年に設立され、ヒトラーが政権を握った1933年に閉校に追い込まれる。これはロシア • アヴァンギャルドの歴史とぴったり一致している。モダンデザインのたどった不思議な運命を感じる。






              

2013年10月27日日曜日

大分の石橋探訪(続き)

石橋の多くは、だいたいこんな感じの場所にある。橋自体の上に乗ってしまうと橋が見えないので、横のほうから見える場所を見つけなければならないが、それが大変。道もなく雑草が生い茂っていて、なかなか近づけない。





こんな小さいのもある。要するにこの地域では、橋というのは木ではなく、石橋というのが当たり前だったということらしい。東京近辺で石橋というと、皇居の二重橋くらいしか思い浮かばないが。                      




 これらの橋の多くは、国の登録有形文化財に指定されているが、ほとんどが今でも住民の道として使われていて、あまり観光地化されていない。だから写真スポットなども一部をのぞいて用意されていない。これは、民家の敷地に無断侵入させてもらって撮った写真。





2013年10月25日金曜日

大分の石橋探訪

九州には石橋の遺跡が多く残っていて、とくに大分県宇佐市の院内という地区には大小合わせて100以上が集中している。それを見学しに行った。それらは江戸時代から明治大正にかけて作られたもので、文化遺産として貴重なものだが、現在でも周囲の住民が生活のために利用している。下の写真のうち3枚は大きいものだが、大部分はいちばん下の写真のように小さい。どれも周囲の景色とマッチして絵にしたくなる。






2013年10月19日土曜日

「光」の絵(その7)

光といえば、「光の巨匠」と言われるフェルメールだ。映画「真珠の耳飾りの少女」にその作品の制作秘話が描かれている。フェルメールは使用人の少女をモデルに描くのだが、唇を2度、3度となめさせる。唇がぬれて光り、ハイライトを拾う。それを強い白の点で描く。このように、物のテクスチャーの細かい凹凸をそこに当たる光の点々で表現する手法をフェルメールは開発したが、この技法を「ポワンティエ」というそうだ。これも初めて知った。有名な「牛乳を注ぐ女」でもパンやかごや壷などのハイライトが白の点々で描かれている。
映画「真珠の耳飾りの少女」より

映画「真珠の耳飾りの少女」より

 フェルメール「真珠の耳飾りの少女」

フェルメール「牛乳を注ぐ女」部分


2013年10月17日木曜日

「光」の絵(その6)

キアロスクーロの静物画を見て、自分も勉強のつもりで、やってみようと思った。ゼロから描くのは大変なので、ずっと以前に描いた絵の改造でやることにした。アクリルで描いたふつうの静物画だが、これに薄く溶いた暗いグレーを太いハケで何度か塗り重ねて、画面全体を暗くする。そのとき、元の絵を塗りつぶすのではなく、うっすらと元の絵が透けて見えているようにする。それから、ハイライト部分に真っ白か、白に近い明るい色を強く乗せていく。できたのが下の絵で、できばえは別にして、それっぽくはなったか。やってみて分かったのは、この描き方は昔、学生のときに習った「ハイライトレンダリング」の感覚とソックリだ。暗い色のカラーペーパーに白鉛筆やガッシュの白で、ハイライトだけで描いた、あれだ。


2013年10月16日水曜日

「光」の絵(その5)

昨日書いた「キアロスクーロ」の続き。17世紀後半になると、カルバッジョのような歴史画がすたり、室内画(例:フェルメール)や風景画(例:ロイスダール)のような新しい絵のジャンルが生まれ、それとともにキアロスクーロのような、物語をドラマチックに演出するための光の手法もすたれ、より自然な光を表現するようになっていった。このように美術史の解説書に書かれている。現代ではまったくすたれたこの手法だが、静物画の分野では、今でもこれをやっている人がけっこういるようだ。下の例は、デーヴィッド • レフェルという人の絵だが、本人自身が自分はキアロスクーロの画家だと自認しているという。薄暗い空間に差し込む細い光でぽっと対象物が浮かびあがりドラマチックだ。


2013年10月15日火曜日

「光」の絵(その4)

最近、絵画の用語で「キアロスクーロ」(Chiaroscuro)という言葉があるのを初めて知った。これはイタリア語の「明暗」という意味だそうで、絵画の世界では、光の明暗によって対象物を表現する技法を指し、明暗法とか陰影法と呼ばれている。この技法は中世から始まり、やがて、より強烈な明暗表現に発展していく。17世紀に、それが最高潮に達し、その代表的作家がカラバッジオで、「聖マタイの召命」がこの技法を使った代表例として必ずあげられている。画面の大半が闇で、人物はその闇にとけ込んでいるが、光の当たった部分だけが強烈に浮かび上がり、とても劇的な効果を出している。この絵自体は知っていたが、この描き方が、ちゃんと名前のついた技法だとは知らなかった。


2013年10月14日月曜日

「光」の絵(その3)

トレバー • チェンバレンの画集に「光」の絵について、とても興味深く分かりやすい本人の説明があったので、紹介したい。上の絵は、彼が12才のころ、絵画教室で習っているとき、近所の風景を描いた絵だそうだ。彼がプロになってから、この子供のころの絵を見て、同じ場所で同じ時間帯に描いたのが下の絵で、二つを比較して彼はこう言っている。「上の絵を見た人は、この絵が晴れた夕方の絵だとは誰も思わないだろう。それは、物の固有色を描こうとすることに一生懸命になってしまうという初心者によくある間違いに落ち入っていて、「光」によって影響を受けた物の色をとらえようとしていないからだ。下の絵では、暗い空を背景に、建物や水面などに投げかけている夕方の光の色やトーンのドラマを描いている。」
(「Trevor Chamberlain、 A personal view」より)






「光」の絵(その2)

ジョン • ヤードリーと共に光を描くのがうまいのが、同じくイギリスの画家トレバー • チェンバレン(Trevor Chamberlain)だと思う。彼の画集を見ると、すばらしい作品だらけで、ひとつだけ選ぶのに苦労するが、下はその一例。光を描くことで、その場の空気感がたっぷり伝わってくる。
「Townpath at Marlow」(「Trevor Chamberlain, England and Beyondより)


「光」の絵(その1)

いろんな人のさまざまな絵を見ていると、絵は3種類に分けられるのではないか、と思っている。「形」の絵、「色」の絵、「光」の絵、の3つに。このなかで閑人は「光」の絵にとても惹かれる。その代表チャンピオンのような人が、イギリスの水彩画家ジョン•ヤードレー(John Yardley)。下の例でいうと、「形」の輪郭はとてもあいまいで、「色」はわずかでモノトーンに近く、画家が描こうとしているのは明らかに「光」だと思う。画面のあちこちにちりばめられた塗り残しの紙の白が光輝いている。うまさに感心するばかり。


「LATE AFTERNOON, NICE MARKET」(Ron Ranson:「The paintings of John Yardley」より)

2013年10月12日土曜日

映画「トランス」

公開されたばかりの映画「トランス」を閑人は早速観にいった。オークションで40億円の名画が落札されたその瞬間、ガス弾が投げ込まれ、その絵が強奪される、というところから始まるサスペンス映画。どんでん返しが3重、4重にはりめぐらされていて、楽しめる。その絵がゴヤの「悪魔たちの飛翔」で、映画の重要な道具立てになっているが、絵自体が主題の映画ではない。

2013年10月10日木曜日

ターナー展


現在開催中のターナー展(東京都美術館、10/8 〜 12/18)を観た。
出展作品数は多いが、ほとんどがスケッチや習作で、タブローは少なく、しかも代表作と
いわれるような有名作品はあまりない。そのため、かえってターナーの創作プロセスが見
えて面白い。例えばこれは、生前に発表されなかった作品だそうだが、完成作なのか、途
中でやめたものなのか、それとも単に実験なのか? 空と海が混然とした空気感に包まれ
て気持ちのいい絵だ。



ターナー展リンク:www.turner2013-14.jp/

2013年10月8日火曜日

忍野を描く(その6)

ハイライトを強め、光を強調する。とりあずこれで完成とする。


忍野を描く(その5)

草や木などにテクスチャーを加えながら、細部を描きこんでいく。だいぶできてきたので、ここでマットを当てて様子を見る。現場で見た光のきらめきがほしい。




2013年10月6日日曜日

忍野を描く(その4)

下塗りの上にパステルをおおまかにザックリと色を乗せる。エスキースのイメージとずれてはいないと思うが、うーん、いまいち。第一段階なので、これからどうするか。


2013年10月3日木曜日

忍野を描く(その3)

水彩で下塗りをする。エスキースのイメージを大切にしながら、セピア色一色だけを使って明暗のコントラスト(バリューコントラスト)を描く。対象物の形を描くのではなく、あくまでも「光」の明と暗を意識して描く。遠景の光が手前に差し込んで、木漏れ日の陰をつくったり、水面に木々の反射が面白いパターンを作ったりなどなど • • • •



2013年10月2日水曜日

忍野を描く(その2)

今日は、本番にかかる。
パステル画にするつもりなので、いつもどうりキャンソンの「ミ • タント」紙を使う。このパステル専用紙は、カラーペーパーで、いろいろな色があるが、愛用のウォームグレーにする。下塗りを水彩ですることにしたので、水張りをする。これをしないと、でこぼこになり、後でパステルでの着色がしにくくなる。
昨日描いたエスキースを拡大するのだが、昔からやられている古典的手法のグリッドによるやりかたではなく、自分はコピー機で拡大コピーをして、それをカーボン紙でトレースする方法をとっている。手間がかからずとても簡単だ。今日はここまでで明日水彩で着色にかかることにする。