2025年7月28日月曜日

大谷選手とリトル・トーキョー

Little Tokyo 

大谷選手の活躍で、最近この写真がよく TV に登場する。LA のリトル・トーキョーのビルの壁に大谷選手の大壁画が描かれている。その横に日本風の赤い建物があるのがリトル・トーキョーの入り口ゲートだ。いま日系人の誇りだろう。

昔、リトル・トーキョーに行った時、記念にと思って街の売店で新聞を買った。リトル・トーキョーにある新聞社が発行している「羅府新報」という日系人むけの新聞だ(羅府とは LA のこと)日付が 1971 年8月24 日だ。漢字にカナを振っているのは2世3世のためだろう。紙質や印刷が戦前の新聞のように劣悪だ。


この当時すでに街には日本車が走り、電気店には日本製 TV が並んでいて、日本はハイテク先進国だった。しかしこの新聞に象徴されるように、リトル・トーキョーは本物の日本から取り残された昔のままの日本のようだった。

リトル・トーキョーはダウンタウンの中にあるのだが、そこは治安が悪いことで有名で、何か暗いイメージの、あまり近づきたくない場所だった。ある時ダウンタウンへ行ったのは、そこにある LA 市警察本部(犯罪もの映画によく出てくる「 LAPD」)に用事があったからだ。交通違反をしてパトカーに捕まり、切符を切られて、その罰金を払うためだった。ついでにリトルトーキョーへ寄って上の新聞を買ったのだが、その一度だけだった。しかし今では大谷選手が描かれた明るいリトル・トーキョーなのだろう。


2025年7月26日土曜日

ビジネスの文化戦争 「イケア」「アップル」「スターバックス」

 Culture as Weapon

最近はやりの「文化戦争」(Cultural War)といえば、もっぱら政治分野の話しだ。アメリカの大統領選でトランプが叫んでいたのが、人工妊娠中絶反対だったし、日本の今度の選挙でも、選択的夫婦別姓制度や外国人排斥などの文化的問題が争点になっていた。

アメリカのネイトー・トンプソンというジャーナリストの「文化戦争 やわらかいプロパガンダがあなたを支配する」という本は、政治での文化戦争以外にもさまざまな分野での文化戦争の実態について書いていて面白い。

そのなかで取り上げているビジネス分野での文化戦争について紹介する。ビジネスの文化戦争とは「文化」を武器に使って自社のブランド価値を高める戦略だが、同書はその成功例として「イケア」「アップル」「スターバックス」の3社をあげている。この3社は日本でもビジネス展開をしているので、誰でも ”あるある” の体験があると思う。

例えば「イケア」について、『消費者の心に強い印象を残すのは、製品のイメージだけではないことを理解している。消費者との社会的な関係性が人々の心をとらえることを知っている』としている。

イケアの店舗を思い出すと確かにそうで、巨大な建物に入るとまず専門のスタッフがいる託児室がある。子供を預けて両親はゆっくりとショールームを見て歩くことができる。広大なショールームは一方通行になっていて、曲がりくねった通路の両側に、憧れを誘うようなモデルルームがあり購買意欲を誘う。単なる家具売り場ではない。数時間かけて一周するとインテリア雑貨のゾーンになる。さっきショールームに飾ってあった雑貨類を見て客は衝動買いをする。そこをすぎると、梱包のままの商品が天井まで積み上げられた倉庫ゾーンになる。今まで見てきた芝居の楽屋裏をのぞいている気分になる。それは外国から船で運ばれてきたばかりのコンテナーのようでイケアに対する信頼感を感じさせる。そして最後にスウェーデン料理のフードコートになり、ほぼ全員がそこで長い旅の疲れを癒す。

見終わるまでほぼ半日かかる店舗は、ちょっとしたテーマパークのようで、そこでは家具という「モノ価値」の提供よりも、そこでの客の「体験価値」を提供する。さらに家に帰って買った家具を自分の労力で組み立てるのが「体験価値」の総仕上げになる。自分のイケアとの一体感を感じさせることで、イケアのブランドブランド価値を高めている。


2025年7月24日木曜日

”洞窟の壁に映る影” とSNS

 Plato

ルネサンスの巨匠ラファエロの「アテネの学堂」はギリシャの哲学
者たちを描いている。中央の二人がプラトンと、アリストテレス。
紀元前5世紀の、古代ギリシャのアテネなどの都市国家が、直接民主制だったことは、中学校の教科書に出てきたのでよく知られている。市民が合議をして、法律制定や重要事項の決定を行った。しかし実際は、全員の意見がまとまらず、なかなか決められないことも多かったという。

哲学者プラトンがこれを見て、愚かな市民が自分勝手にワアワア騒ぐだけの民主政治をやめて、政治は賢くて強い一人の指導者に任せるべきという主張をした。要するに独裁政治の考え方で、現在では危険思想とされている。

上の絵で、プラトンは天を指差し、
手に自分の著書を持っている。
広い視野で物事を考えられない大衆について、プラトンは次のような例え話しで表現している。『一団の人々が洞窟の中で鎖に繋がれ、何もない奥の壁の方を向いたまま、一生を過ごす。その壁はスクリーンであり、そこにさまざまな影が映るのを人々は見ている。とらわれの身である彼らはそれらの虚像を真実だと思い込む。』 

近代でも、プラトンの思想が現実になったのがドイツだった。第一次大戦後ドイツで、議会制民主主義が始まった。しかし与野党の分裂が激しく、議論ばかりで何も決められなかった。そして民主主義に失望した国民は、賢くて強い指導者を求めるようになる。そして求めるとうりの人間が現れたのがヒトラーだった。

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは「情報の人類史」のなかで、プラトンを引用してこう言っている。『人々が戦争を起こし、他者を殺し、自分の命を差し出すことも厭わないのは何かしらの虚構を信じているせいだ。』

プラトンが言ったことを現代に置き換えると、「壁というスクリーン」とは、パソコンやスマホの画面に当たり、「虚構を真実だと信じる人々」とは、 SNS のいうことは何でも真実だと信じる人たちに当たる。だからこれからは、権力をねらう者は、 SNS を利用して、自分に都合のいい物語や画像を発信し、大衆を操ることになるだろう、とハラリは警告している。どこか最近の日本のことを言っているように聞こえる。

2025年7月22日火曜日

ドキュメンタリー「ドイツ国民は共犯者になった」

Ochlocracy 

今度の選挙で大活躍したのが、SNS 依存症の人たちだったようだ。パーフォーマンス的な演説に熱狂して、SNS で大量に拡散して、集票の手助けをしてくれる。だから与野党限らず全政党がウケ狙いの「大衆迎合主義」政策で競い合う。愚かな大衆を利用して、国民を操つる政治、いわゆる「衆愚政治」だが、SNS のおかげでそれがやりやすい時代になった。

歴史上最高に上手く「衆愚政治」をやったのがヒトラーだった。国民の耳に気持ちよく響くドイツ人ファーストのスローガンで選挙に勝って、政権を奪取した。そして公約どうり、他国の侵略やホロコーストをやった。だから煽動されてヒトラーに投票した全ドイツ人は、今では「ヒトラーの共犯者」と呼ばれている。

すでに多くの本で語られてきたこのことだが、昨日の NHK 番組「映像の世紀」で、まさにズバリそのことを特集していた。題名が「ドイツ国民は共犯者になった」という特集で、ヒトラーに熱狂する国民の姿を当時の映像で検証していた。

ヒトラーは、占領国から略奪した食料を国民に配り、国民は戦時下とは思えない豊かな生活ができた。奪った大量のフランスワインで一般大衆もリッチな食事をした。また物価高を抑え、給料をあげる政策に成功し、国民は幸福な生活を享受した。それは他国の侵略によってできたことだが、ドイツ国民は熱狂的にヒトラーを支持した。だから現在では、ドイツ国民は「ヒトラーの共犯者」と呼ばれる。


2025年7月21日月曜日

月面着陸の日

 Moon Landing

昨日 7 / 20 は「月面着陸の日」だった。その 1969 年は、TV の衛星中継放送が始まった頃だったので、あの日リアルタイムで TV の実況中継を見ていた。アームストロング船長の「人類の新しい第1歩」という ”美しい” メッセージに世界中が熱狂した。しかしあれから半世紀以上経った今、あの頃のような気分で賛美する人はいないだろう。

当時は米ソ冷戦時代で、”地球は青かった” のガガーリンの有人飛行でソ連に先を越されたアメリカが、国の威信をかけて月面着陸で巻き返しをした。あの月面着陸は映画のセットで撮ったウソ放送だったという陰謀論を今でもかなりの人が信じているが、それほど厳しい米ソ対立という背景があったからだ。

現在の月面探査は米中の競争に移っている。つい最近、中国が有人ではないが、月の裏側に世界初の着陸をし、砂を持ち帰ったという報道があった。最新の研究では、月には水があり、鉱物資源が地下にあることがわかってきた。だからかつてのようにただ威信のためではなく、経済的・軍事的な実利的な目的のために”本気で”月面探査が行われるようになってきた。

だから月の地下資源を採掘するために、人間が定住して活動できる宇宙基地を作る競争になっている。日本でも多くの大学の工学部で、宇宙基地建設や、月面移動車、月面探査ロボット、などの研究開発を猛烈な勢いで進めている。今話題のイーロン・マスクが月旅行ツアーの参加者を募集しているのは決して荒唐無稽だとは思えなくなってきた。

JAXA, 立命館大学, ソニー, タカラトミー, が共同開発中の月面探査ロボット

2025年7月19日土曜日

「土用の丑の日」と記念日マーケティング

Anniversary Marketing

今日は「土用の丑の日」だが、始まりは江戸時代で、夏に売り上げが落ち込むうなぎ業界のために、夏こそ夏バテに効く栄養価の高いうなぎを、というキャンペーンとして、平賀源内が始めたといわれている。 これが「記念日マーケティング」の一番古い例かもしれない。そしてもっとも有名な「記念日マーケティング」の成功例は、チョコレート業界が始めた「バレンタインデー」だろう。欧米にもともとあった贈り物を贈る日に「チョコレート」を結びつけて、好きな人に「チョコレート」を贈る日にして大成功した。

いまの時代、商品そのものの「モノ価値」よりも、モノを通して得られる「体験価値」が重視される。チョコレートを贈るという感性に訴える「体験価値」を提供することで、ただの食べ物だったチョコレートの価値が高まったように、「記念日」はマーケティングの有力手法のひとつだ。

しかし、ただ「記念日」を作ればいいというものではない。いろいろな業界や企業が「◯◯の日」を決めて、「日本記念日協会」という団体に申請して、記念日として登録してもらう。この協会は、公的なオーソライズ機関に見せかけているが、実際は金儲けが目的の営利団体だから、登録料の何十万円かを支払えば、かたっぱしから記念日に登録してくれる。その結果、一年 365 日の毎日に数十もの記念日が登録されている。日にちはほとんどがバカバカしい語呂合わせ(例えば  11 / 29  =「いい肉の日」)で、何らかの価値を提供していないから、まったく消費者に響かない。丑の日のうなぎと違って「いい肉の日」だから、肉を食べようという人はいない。


2025年7月17日木曜日

映画「カサブランカ」のフランス国歌を歌うシーン

 La Marseillaise

先日7/ 14 は、フランス革命記念日だった。フランス革命といえばフランス国歌の「ラ・マルセイエーズ」だ。この国歌が歌われる感動的シーンが出てきたのが名作「カサブランカ」だった。映画を見た人は誰でもこのシーンが強く印象に残っていると思う。

ナチスドイツのフランス侵攻で、フランス領土モロッコのカサブランカにもナチスドイツ軍が駐留している。主人公はそこでナイトクラブを経営している店主だ。ある夜、ナチスの将校のグループが入ってきてドイツの軍歌を大声で歌い出す。フランス人の客たちは、にがにがしい顔でいる。すると主人公の店主がピアニストに目くばせして「国家を」と言う。フランス国歌の「ラ・マルセイエーズ」を演奏し始めると、フランス人たちが全員立ち上がって力強く歌い始める。涙を流しながら歌う女性もいる。その声にかき消されてナチスの将校たちは、黙って出ていくしかなかった・・・


この有名なシーンは、フランスの屈辱の時代にあって、人々の愛国心の強さを描いていた。そしてラストで、どこかいかがわしい男に見えていた店主が実は強烈な反ナチスの、フランス愛国者であることがわかる結末はご存知の通り。

国家を歌うシーンの映像→ https://www.youtube.com/watch?v=2b8OCFURCyE