Moah's Ark
聖書の「創世記」で、大洪水とノアの箱船についての詳しい記述がある。神が愚かな人間どもを滅ぼすために大洪水を起こすのだが、ノア一家と動物たちだけを救うことにして、ノアに箱船を作ることを命じる。それは、「糸杉の木で、長さ 1 3 5 m、幅 2 3 m、高さ1 4 m、上には屋根を横には戸口を設け、内部を3階建の構造にし、中と外からタールを両面に塗る」とあり、ちょっとした大型船並みの大掛かりなものだった。
ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井画は「創世記」のストーリーを描いているが、中央の上から2番目がノアの箱船のシーンになっている。この絵で、海上に浮かんでいる箱船は、「創世記」に書かれた船のスペックにかなり忠実に描かれている。「箱船」といっても船の形ではなく、大きな家のような形なのだ。
大洪水と箱船の絵は、ミケランジェロ以後もたくさんあって、様々な形の箱船が描かれてきた。1 9 世紀のギュターブ・ドレの「箱船から遣わされた鳩」(1 8 6 6 年)は、戦艦のような箱船を描いている。なお死骸累々の上を飛んでいる白い鳩は、地上から水が引いたかどうかを確かめるためにノアが鳩を放ったという「創世記」の記述に基ずいている。
映画「ノア 約束の舟」(2 0 1 4 年)の箱船は「創世記」のスペックに忠実で、作る過程や内部構造も C G を駆使して詳しく描かれていて、興味深かった。
このような「創世記」の物語そのものの映画化ではなく、設定を現代に置き換えて、人類の滅亡と再生という黙示録映画がたくさんある。代表例は「2 0 1 2」(2 0 0 9 年)で、地殻変動による大洪水が起きるが、人々が逃げる箱船は、巨大な潜水艦になっている。
「創世記」では、堕落した人類どもは死に、善良なノアだけが箱船に乗るのだが、この映画では、潜水艦に乗れるのは一握りの政治家と、高い「乗船券」を買った大金持ちだけで、一般市民は乗ることができない。本来の「創世記」と逆の設定になっているのが面白く、現代社会への皮肉になっている。