2024年9月28日土曜日

アンパンマンのやなせたかし氏


「アンパンマン」のやなせたかし氏は学校の大々先輩だった。20 年くらい上だが、同窓生のグループ展でアンパンマンの原画を出品されていた。もうとうに亡くなられたが、今年の展覧会が始まり、そのことを思い出した。なお、やなせ氏の原画は横浜の「アンパンマン・ミュージアム」にたくさん展示されている。

やなせたかし氏は、卒業後すぐに三越の宣伝部へ入社し、包装紙のデザインをした。「mitsukoshi」 の筆記体のロゴも同氏による。この包装紙は現在でも現役で使われている。戦後すぐの作品だから 70 年も続いている超長寿デザインだ。


2024年9月26日木曜日

JTB の旅行案内誌がまた来た


JTB の旅行ツアー案内誌がまた来た。JTB のツアーは 20 年ぐらい前に一度使って、こりごりして以来まったく利用していないのに、いまだに送ってくる。内容は、決まりきったものばかりで、”春は桜”、”秋は紅葉” みたいなままで思考停止している。


いま冬のニセコはスキーヤーで活況を呈しているが、きっかけはオーストラリア人がその素晴らしさを ”発見” して、SNS で発信したからだという。このように隠れた観光資源を開拓しようという発想が旅行会社にはない。例えば、今度来た「冬の北海道」のページを見ると、昔ながらの温泉旅館に泊まって、雪景色を見ながら露天風呂に入って、食事は豪華フランス料理・・みたいなツアーばかりだ。


2024年9月23日月曜日

ドラマ「SHOGUN 将軍」はおすすめ

 「SHOGUN」

エミー賞を受賞したドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」を、 DISNEY+ の動画配信で全10話を見終わった。秀吉が死んだ後、家康(映画では虎永)が「関ヶ原の戦い」に勝って実権を握るまでの、戦国大名たちの権力闘争がスートーリーの軸になっている。基本的には史実に沿いながらも、フィクションを大幅に織り込んでいて、スケール感が大きいドラマだ。

主役は「鞠子(マリコ)」(主演女優賞のアンナ・サワイが好演)で、有名な「細川ガラシャ」をモデルにしている。「細川ガラシャ」は、明智光秀の娘で、「本能寺の変」の後、信長による明智家一族の絶滅を逃れてひとり生き残り、カソリックのキリスト教信者になる。映画の「鞠子」も、時代の運命に翻弄されながらも、その運命を受け入れながら生きてゆく「強い女」として描かれている。胸の十字架に注目。


武家の妻や娘は常に懐に懐剣を持っていて、いざという時には敵と戦い、負ける時には名誉のために自害するためだった、という事実はよく知られている。鞠子も同じで、侍たちの先頭に立って敵と闘い、最後には自らの命を犠牲にして死ぬ。女性は守られるべき弱いものという西欧的女性観とは反対の強く激しい日本女性像をこの映画は描いている。

もうひとりの主役が、ジョンという、遭難して漂着した船乗りのイギリス人で、こちらはウィリアム・アダムス(三浦按針)をモデルにしている。按針は家康に認められ、旗本に取り立てられ領地を与えられる。その地が三浦半島だったので「三浦按針」と呼ばれる。家康の外交顧問になった按針は、カソリック教会が、アジアや南米を植民地化する尖兵になっているという当時の世界情勢を家康に説明し警告した。家康はそれに従い、交易国をプロテスタント国のオランダに限るという外交政策に転換した。映画もその史実通りのストーリーになっている。

映画では、ジョンが虎永(家康)と話す時の通訳を務めるのが鞠子で、この二人の関係がドラマ全体の主軸になっている。やがて二人は心を通じ合っていき・・というメロドラマ的展開はハリウッド的だが。

なおラストでジョンが沈没した船を引き上げるシーンが出てきて、それに乗って故郷イギリスへ帰ることを示唆して終わるが、これは史実ではない。三浦按針は生涯を日本で生きて、現在も彼の墓(安針塚)が横須賀市にある。


2024年9月21日土曜日

英国ウェールズ地方で買ったロマネスク風石彫

Romanesque 

むかし、イギリスのウェールズ地方の土産物店で買った石彫。20 cm 位と小さいが、中世のロマネスク彫刻風で、とても魅力的だ。ロマネスク彫刻は奇怪でしかもユーモラスなのが特徴だとされるが、これにもその特徴がみられる。実際にあったものの縮小レプリカなのか、それとも土産物用に創作したものかわからないが。



2024年9月19日木曜日

「SHOGUN 将軍」

 「SHOGUN」

ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」がエミー賞のグランプリを受賞したということで、早速 DISNEY+ の動画配信で見た。まだ2話までしか見ていないが、普通の戦国もの映画と違って、ハリウッドらしく、ストーリーも脚本も映像もスケールが大きい。

宣教師のポルトガル人と、遭難した船乗りのイギリス人とが登場し、カソリック対プロテスタントの宗教的対立がストーリーの重要な軸のひとつになっていることに興味を惹かれる。その両者が戦国大名たちの権力闘争にからんでいく・・・


2024年9月17日火曜日

日本企業の US スチール買収

  • Nippon Steel's Attempt to acquire U.S. Steel


日本製鉄の US スチール買収問題が大統領選の争点の一つになっている。USS の本拠地は、アメリカ最大の激戦州ペンシルバニアのピッツバーグにあるから、トランプは USS の労働者票を得ようと、買収に強硬に反対している。

現在の鉄鋼業の世界シェアを調べてみたら、1位が中国、2位がインド、3位が日本で、アメリカははるか下で 10 位にも入っていない。かつて工業大国アメリカを牽引していた世界一の鉄鋼メーカー USS 凋落の原因は、技術革新(イノベーション)の立ち遅れだという。

その USS が輝いていた 1960 年代に出した広報誌を今でも持っている。その題名が「INNOVATIONS」(イノベーション)だから、今見ると皮肉に感じる。内容は、鉄のイノーベーションによって産業と社会に変革をもたらし、明るい未来を作ることへの鉄の役割の大きさを強調している。一番下の写真に「USS : その大きな思いはイノベーションだ」とある。アメリカの産業力のすごさへの憧れのような気持ちでこの本を見ていた。(イラストレーションをシド・ミードが担当していたので、この本は大人気を博した。)


今までの鉄鋼産業は品質の競争で、シームレス鋼管などの日本独自の技術で優位に立ってきた。しかしこれからの鉄鋼業の最大課題は「CO2 削減」だという。それはコストダウンにもつながり、競争力を高めるから、世界中でそのイノベーション競争になっているという。そしてここでもUSS は遅れをとっているが、トランプは「気候変動など存在しない」といってUSS を外国企業から守ろうとしている。

中学生のとき学校で、地元の製鉄工場を見学したことがある。そのときのことは全て忘れたが一つだけはっきり覚えているのが、「煙突を見てください。煙が白いですね。出ているのは水蒸気だけfだけだからで、排出ガスから有害物質を取り除いてクリーンにしています。」と説明の人が言っていた。なぜかそれに妙に感心したのだが、今になって思うと、「CO2 削減」などという言葉さえなかった70 年も前からすでに日本の製鉄業は技術革新に取り組んでいたことがわかる。USS が日本企業に買収されようとしていることの素地はこんな昔から始まっていたことにいまさらながら気づく。


2024年9月15日日曜日

照明付き オーディオ・スピーカー

 Audio speaker with lighting

20 年来愛用している照明器具と合体させたオーディオ・スピーカー。BLUETOOTH 専用なので、スマホの音源でBGM 用として気軽に使える。とはいえ底部が木箱の密閉型 SP ボックスで、なかなかの音質だ。照明シェードは銀糸を編んだ素材感のある特殊な素材で、光も音も透過する。「光」と「音」の組み合わせはアンビエンス効果が抜群。


なかなかのすぐれものだが、昔、会社で同僚だった人が起業して、商品の企画・開発・デザインを手がける会社を立ち上げたが、その製品のひとつ。


2024年9月13日金曜日

アメリカ大統領選の ”面白さ”と映画「チョイス!」

 「Swing Vote」

アメリカ大統領選挙は、トランプ対ハリスで接戦が続いている。先日、TV討論会の 生中継を見ていたが、プロレスの殴り合いのようでなかなか面白かった。

「スイング・ステート」と呼ばれる毎回勝敗が入れ替わる「接戦州」の行方が勝敗を決めるから、その州の「浮動票」の奪い合いになる。そして前回のように、トランプが接戦州の票の集計がおかしいと文句をつけて大もめしたが、こういう混乱は過去の選挙でも度々あった。

「チョイス!」というコメディ映画は、そんな大統領選の混乱ぶりを面白ろおかしく描いている。原題の「Swing Vote」は「浮動票」の意味。

開票が進むが選挙人獲得数が同数のままで、残り一つの「スイング・ステート」の結果次第で決着がつくことになる。しかしそれも大接戦で、得票数がまったくの同数になってしまう。ところがある男の票が集計ミスで無効票になっていたことがわかり、再投票を認められる。男の一票で大統領が決まることになり、その一票を得ようと両候補者が猛アピールしてくる・・・

あり得ないような話だが、昨今の状況を見ていると、本当にありそうな話に思えてくる。

この主人公は政治に無関心で、どうするか決められないまさに「浮動票」なのだが、小学生の娘が賢くて、誰に投票するべきかを父親にあれこれとアドバイスして・・・


2024年9月11日水曜日

キリコの絵と映画「パンドラ」

Chirico  &「Pandora and the Flying Dutchman」


もう終わってしまった「キリコ展」(東京都美術館、~ 8 / 29 )だが、出品されていた「ヘクトルとアンドロマケ」を引用した面白い映画があった。

「ヘクトルとアンドロマケ」は、表情のないツルンとした顔を描いている。背後には建設中の建物があり、人物が持っているのは定規と図面らしく、2人は建物の設計者なのだろう。人々が均質化して個々の顔が見えくなった現代に対するキリコの批判が込められているようだ。

この絵を引用していた映画は、 7 0 年も前のメロドラマ「パンドラ」( 1 9 5 1 年)だ。監督のアルバート・リューインは、現代美術に精通していて、特にc抽象絵画やキリコが大好きだったという。

主人公の女性の名前が「パンドラ」だ。「パンドラの箱を開ける」という慣用句は、封じられていたことを表に出すと厄災がもたらされるという意味だが、映画の妖艶な美女「パンドラ」は、まわりの男たちを惑わしてさまざまな厄災をもたらす。

パンドラはある時偶然に一人の男に出会う。彼は画家で、そのとき美しい女性の肖像画を描いているが、初対面なのにその絵が自分にそっくりなのに驚く。しかも絵のパンドラは「パンドラの箱」を手に持っている。


この女性が厄災をもたらすパンドラであることに気付いた画家は絵を直してしまう。それがキリコの人物画とそっくりな、のっぺらぼうの顔だ。背景にギリシャ神殿風の建物があるのもキリコの引用になっている。そして「具象化したり美化したりするよりも、抽象化こそがこの絵の女に似合っている。」と言う。


現代美術の愛好者であるリューイン監督は、キリコの引用を行うことで、それまでの平凡な写実主義の絵画に対する論争を仕掛けているように見える。


2024年9月9日月曜日

台湾の「台北二二八紀念館」と 映画「悲情城市」

 Taipei 228 Memorial Museum   &「 A City of Sadness」

台北の総統府の近くをぶらぶら歩いていたら、大きな公園があり、その片隅に樹々に囲まれてこじんまりした建物があった。「台北二二八紀念館」とあったので入ってみたが、名前ぐらいしか知らなかった「二二八事件」の詳細な記録を展示している。日本語の音声ガイドもあり、事件の真相を初めて知ることができた。

第二次世界大戦が終結して日本が去ると、入れ替わりのように中国から国民党政府が入ってきて台湾を支配下におく。その政府は台湾人を弾圧し、抵抗する市民たちを虐殺したのが「二二八事件」だ。殺されたのは、ほとんどが日本式の教育を受けた知識人たちで、彼らが抵抗グループの中心だった。

戦後ながらく国民党の独裁専制政治が続いていたので、この事件が封印されされていたが、民主化されて初めて明るみに出て、この「紀念館」ができた。


この「二二八事件」を一般庶民の目を通して描いた映画が 1989 年の「悲情城市」だ。日本の次に今度は中国に支配された台湾人の悲しみを描いている。ヴェネチア映画祭でグランプリを受賞した台湾映画の名作だ。

小学校で「ふるさと」を日本語で歌っていたり、青年が「岩波文庫」の本を読んでいるシーンが出てくる。戦後も「日本」がまだそのまま残っている。そして中国が入ってきて「二二八事件」が起き、人々は過酷な政治状況に巻き込まれていく。主人公とその友人たちも逮捕され、次々と処刑されていく。また一部の若者たちは、九份(今は人気の観光地)の山中に逃れるが、やがて発見されて逮捕されてしまう。彼らは日本の歌謡曲「ゴンドラの唄」を歌いながら死んでいく・・・

この「二二八事件」は現在の、台湾と中国との緊張関係のルーツのようなものだ。この「紀念館」と、この映画を見ることで、単に歴史としての台湾ではなく、その歴史につながっている現在の台湾(日本との関係も含めて)を知ることができる。


2024年9月7日土曜日

レンゾ・ピアノの「ポンピドゥー・センター」と「関西国際空港」

Renzo Piano 

関西国際空港が開業 30 周年を迎えたという報道があった。関空といえば思い出すのはなんといってもレンゾ・ピアノだ。

昔、出来てまもない「ポンピドゥー・センター」を初めて見たときはびっくりした。レンゾ・ピアノの代表作だが、まるで建設工事中の鉄骨の足場がそのまま残ったようなデザインが衝撃的だった。巨大な「機械」のようで、美術館という概念を超えている。工業化時代をシンボライズしているモニュメントのように見えた。

脚光をあびたレンゾ・ピアノは、世界中の公共建築を手掛けるようになり、日本の関空もそのひとつだった。自分では関空に一度も行ったことはないが、写真で見ると、ポンピドゥー・センターと共通する設計思想を感じる。

現在、「レンゾ・ピアノ展」が開かれているようだが大阪なので、見に行けないのが残念だ。


2024年9月5日木曜日

歴代マイカーの思い出

The history of own car 

今年も運転免許証の更新をした。今はほとんど運転をしないが、車好きとしては免許返納をする気になれない。改めて、歴代マイカーの水彩スケッチを並べて振り返ってみた。


「日野ルノー」は 1965 年頃、就職して初めてのボーナスで中古で買って通勤に使っていた。リアエンジンのクラッシックな車だが、フランス映画には必ず登場していた当時としてはオシャレな車だった。まだ自力で車を作る力のなかった当時の日本メーカーはヨーロッパの車をそのままライセンス生産で作っていたが、これもルノーのライセンスによる日野の車だった。


「日野コンテッサ 900」は、1967 年頃にルノーからの買い替えで買った。基本はリアエンジンのルノーをベースにして日野が独自設計した車だった。しかし信頼性が極端に悪く、出かけたさきでエンジンがかからず帰れなくなり、往生したことが何度もあった。デザインも野暮ったかった。上級車種のコンテッサ1300 はミケロッティのデザインで美しかったが、金のない当時だからしかたない。


「トヨタ・カローラ」は1970 年代に乗っていた。子供ができたので、”普通の”ファミリーカーをと思って買った。初代のカローラで、当時は日産のサニーとトップの座を競い合っていた。有名な TV CM「隣の車が小さく見えまーす!」はサニーを揶揄していた。車の世帯普及率がどんどん高まっていた時代だった。だからこの車も最大公約数的で、個性も何もない平凡な車だった。(絵にしていないので写真で代用)


「日産オースター」は1980 年代に乗っていたスタイルのいい車だった。欧州向け専用のモデルで、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)により室内空間の広さを確保し、3ドアハッチバックで幼児の安全性を確保するという、欧州の、子供のいる家庭むけの標準仕様の車だった。その欧州モデルをそのまま日本でも売ったのだが、コンセプトが日本では理解されず、ほとんど売れなかった。だから同じ車を見かけたことは一度もなかった。


「マツダ RX7」は、子供が自立してファミリーカーがいらなくなった1990 年代に乗っていた。ロータリーエンジンの威力がすごく、アクセルを踏み込むと体が後ろにのけぞるほど加速が良かった。だから暴走族的な走り屋が乗っていたが、アメリカでは「セクレタリー・カー」と呼ばれ、秘書のように自立した独身女性が乗る知的でオシャレな車とされていた。しかし、4km / l という今では信じられない燃費で、これを最後にマツダはロータリーから撤退した。


「マツダ ロードスター」は2代続けて乗っていた。外気を浴びて、四季をじかに感じながら走る気分が良く、あちこちをドライブしまくった。イギリスの GTB が戦後ずっと作っていたが、止めてしまっていた「ライトウエート・スポーツカー」のコンセプトを再現した車で、世界中で大ヒットした。


「マツダ・デミオ」は、買い物などの普段用に買ったが、機能に徹した素晴らしい車だった。大ヒットモデルで、倒れかけていたマツダを救った救世主と言われた。遊びのためのロードスターとの2台体制がずっと乗っていた。しかしこのタイプの車はやがて軽自動車にとって変わられ、今のデミオは普通の乗用車になっている。(絵にしていないので写真で代用)

「プジョー 304」はフランス車らしい素敵な車だった。ドイツ車のような ”機械っぽさ” がなく、乗り心地や操縦性や内装などすべてが人に優しかった。そしてなによりスタイルが美しかった。

「マツダ・アクセラ」は、 ここ10 数年来、今も乗っている。日本車の中でもっとも美しい車で、何度も「カー・オブ・ザ・デザイン」に輝いている。これが最後のマイカーになるかもしれない。


2024年9月3日火曜日

防災の日と、関東大震災の時に起きた事件

 The earthquake disaster of 1923

一昨日の9/ 1 は国が決めた「防災の日」だが、関東大震災の日にちなんでいる。震災は自分ではもちろん経験していないが、なんとなく身近に感じるのは、母親が当時、東京の大学に通っていた女学生で、震災当日に目の当たりにした惨状を子供のころよく聞かされたからだ。また母親の実家が、千葉県の、東京に隣接する町だったので、祖父が、家を焼け出されて東京から避難してきた人たちのことをよく話していた。

映画「福田村事件」は、祖父が話していたのと同じような状況のもとで起きた事件を実話に基づいて描いていた。千葉県の福田村でも震災の被災者が東京から避難して来たが、その中の一団を朝鮮人だと勘違いして虐殺してしまった事件だ。実際は彼らは田舎から来た行商人だったのだが。

関東大震災の時、朝鮮人が放火したせいだとか、朝鮮人が略奪をしているなどの「デマ情報」が広まり、パニックにおちいった人々による朝鮮人の大虐殺が各地で起きた。のどかな福田村でもそれが起きてしまった。群衆心理の恐ろしさだが、その引き金になったのが関東全域に広まっていたデマ情報だった。そしてさらに、純朴な村人たちをたきつけて虐殺までにいたらせたのは、村の有力者や警察だった。

そもそも当時は、政府が国民に対して日常的に反朝鮮人感情を煽りたてていた。そして新聞がそれをさらに増幅する報道をしていた。デマ情報があっという間に広がり、それを国民が簡単に信じてしまったのはそういう素地があったからだ。(写真は、さまざまな事件の犯人を朝鮮人だと決めるつける当時の新聞記事。歴史研究者の樋浦郷子氏による資料。



この映画は、去年の 2023 年9月1日の「防災の日」に公開された。しかし国が定めた「防災の日」の趣旨には大虐殺のことについてはまったく触れていない。そもそも政府の公式見解では、「虐殺の事実を裏付ける確実な証拠は見つかっていない」としている。そして ”共犯者” だった新聞も知らん顔をしている。

2024年9月1日日曜日

「情報」を生み出す力と、松岡正剛氏 

 Matsuoka Seigo

情報時代といわれる今、ネット上にありとあらゆる「情報」が溢れている。しかしその大部分は「情報のゴミ」と呼ばれる役に立たない「情報」だ。本当の「情報」とは、単に事実だけでなく、その理由や背景まで含めて多面的に考察することで得られる「意味のある情報」のことだ。

しかし一般的にはネットで得られるニュースや知識も「情報」と呼ばれている。だから、ネットが唯一無二のスマホ信者たちは、それらの情報と呼べない情報をすぐに信じて自らも発信する。だから「情報のゴミ」が、ネット上に溢れる。

データや事実や知識などを総合して「構造化」することで「情報」に転換できるが、その「構造化」の技術を、松岡正剛氏は「編集工学」という独自の言い方で表現していた。それを使ってたくさんの情報発信をしたが、代表作の「情報の歴史」は、目からウロコの本だった。

その松岡正剛氏が今年の夏(8 / 12)に亡くなった。残念だ。


2024年8月30日金曜日

朝から晩まで一日中 スマホ をいじっている人たち

Animation「Are You Lost in the World Like Me ?」

朝から晩まで一日中 スマホ をいじっている人たちは今や当たり前になってしまった。そんな ”スマホ依存症” にかかった人たちを描いたショート・アニメ「Are You Lost in the World Like Me ?」が衝撃的だ。直訳すれば、「君も僕みたいにこの世界で迷子になっているの?」とでもなる。

新聞やテレビや雑誌や本や映画など、情報メディアがたくさんあるが、それらから多面的に情報を得ることで、偏った情報にとらわれることなく、総合的に物事を判断することができる。 しかし”スマホ依存症” は、すべての情報をスマホからしか得ず、しかもその情報は唯一無二で絶対だと思い込んでいる"病気"だ。彼らは "スマホの奴隷" になっている。

だから、フェイクニュースや、何か意図的な目的で流す偏った情報などにすぐ信じてしまう。そして騙されていることに自分でも気づいていない。その人たちで溢れている現代の狂った世界と、そのなれの果てをこのアニメは描いている。

Steve Cutts という人の作品で、作り話ではなく、毎日普通に見ている現実をそのまま描いているから、なおさら怖い。2分ほどの短編だが、ぜひ見てもらいたい。 →https://www.nylon.jp/blog/miri/?p=17401




2024年8月28日水曜日

メロドラマとしての「タイタニック」

 「TITANIC」

「メロドラマ」の定義としては、「女性映画や、家族の緊張感を描く映画、およびお涙頂戴ものを指す映画ジャンル」とか、もっと大雑把に「低俗な、あまり出来の良くない、センチメンタルなドラマ」といわれることが多い。

しかしメロドラマについてのもっと深い研究がされている。「メロドラマとハリウッド映画」(福田京一)では「メロドラマ」とは、「悪人の犠牲になる弱い善人(ヒロイン=通常は純真な女性)が、紆余曲折を経て正義のヒーローに助けられ、両者がめでたく結婚する、という筋立てをもつ。とりわけ悪人の登場は、モラルと社会秩序の意義を教えるためにメロドラマには欠かせない。」

その典型例として「タイタニック」をあげている。この映画は、「女性映画」「恋愛映画」「ヒーロー映画」「デイザスター映画」などの要素を含みながら、物語の基本は、悪人(キャル)に苦しめられているヒロイン(ローズ)を、ヒーロー(ジャック)が助けるという「古典的メロドラマ」のプロットを土台にしている。

写真上:1等船室の上流階級の人たちとの晩餐会でのローズ
写真下:3等船室の貧しい人たちに混じってダンスをするローズ

「タイタニック」が沈没した 20 世紀初頭のイギリスは、女性が家父長制に縛られ、苦しめられていた歴史を背景にしている。没落した貴族であるローズの母親は娘の幸福を考えるよりも、娘を金持ちの実業家キャルに差し出して、上流階級に留まろうとする。一方でローズの婚約者であるキャルは、名誉欲と虚栄心が強く、女性を飾り物としか見ていない。この状況を女性の運命として受け入れていたローズが、それを拒否するようになる。そのきっかけが、あらゆる束縛を嫌い、自由であることを何より大切にする、無垢な心を持つ青年ジャックとの出会いだった。

「タイタニック」のような「古典的メロドラマ」では、ヒーローやヒロインの美徳は超越的、絶対的な価値であり、悪は必ず負けることになっている。しかし近年のメロドラマは、ハリウッド映画のさまざまな映画ジャンルと結びついている。それはアメリカの政治・文化と強い関係を持っていて、階級、民族、人種、ジェンダー、などについての善悪が対立する物語に置き換えられる。それらは善悪二元論的な世界観が強調されがちになる傾向がある。

福田氏によればさらに、映画に限らず SNS などのネットメディアでも、それぞれの政治的・文化的分脈の中で、善と悪を過激に、感情的に、扇情的に描き、批判し、報道し、論評したりする。このような独善的な正義感は、メロドラマ的な世界観の極端な形であり、そのことに我々は注意を払う必要がある、としている。


2024年8月26日月曜日

渡辺貞夫の「オレンジ・エクスプレス」

 「Orange Express」

カリフォルニアのさわやかな風を浴びながらドライブしている・・・気分で猛暑の夏を過ごす



2024年8月23日金曜日

「見せかけ」の街パリと、映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」

「Mrs. Harris Goes to Paris」 

パリ・オリンピックで、セーヌ川で水泳競技が行われたが、汚染された水で感染症になった選手が続出した。セーヌ川で行った派手な演出の開会式だが、パリの美しさは「見せかけ」だけで、実態は汚い街だということがバレてしまった。

パリでの実際の体験でもそうだった。ちょっと裏通りへ入ると、犬の糞だらけで、避けて歩くのに苦労する。ハイヒールが生まれたのはパリだが、理由は犬の糞のためだという有名な話に納得がいく。シャンゼリゼの美しさは「見せかけ」だ。

たまたま昨日、NETFLIX で「ミセス・ハリス、パリへ行く」という映画を見ていたら、「見せかけ」のパリを扱っていて面白かった。イギリス人の未亡人の中年女性がクリスチャン・ディオールのドレスに憧れて、パリへ行き、いきなりシャンゼリゼのディオール本店に飛び込んで騒動が起きる・・・というドタバタのコメディだ。

主人公がパリの街を歩くシーンがたびたび出てくるが、いつも道路がゴミだらけなことが強調される。そして失業者があふれていて、表向きの華やかさと対比される。ディオールの会社自体も赤字経営で苦しく、社員をクビにしたりしている。このように川や道路だけでなく、パリという街全体が「見せかけ」であることが暴露されている。


2024年8月20日火曜日

靖国神社の遊就館

 War Museum  YUSYUKAN

終戦の季節8月には靖国神社へ行ってみる価値がある。参拝のためではなく、付属の軍事博物館「遊就館」見学のために。


「零戦」や「回天」などの特攻兵器が多数展示されていて、戦争の「リアル」を実感できる。「回天」はいわゆる人間魚雷で、巨大な潜水艇全体が爆弾の塊だが、その隙間に乗った乗組員1人が操縦する。だが、脱出装置はないので、乗ったら最後、攻撃の成否にかかわらず、必ず死ぬ。

戦死した兵士たちの遺品や、家族にあてた手紙なども展示されている。ただしこれらはあくまでも、「お国のために戦って散った兵士たち」という美化の立場での展示であり、「戦争の犠牲になって死んだ兵士たち」という立場ではない。靖国神社だから当然だが。

アメリカ人の団体観光客が驚くほどたくさん来ている。館のガイドが説明しているが、アメリカの兵士も特攻兵器でたくさん殺されているのだから、それをどう説明しているのか、興味があった。しかしそばで立ち聞きしようとしたら、すぐに追い出されてしまった。ということは・・・


2024年8月18日日曜日

「Breezin'」

 1980 年代の懐かしいフュージョンの CD を購入。暑い夏をさわやかな気分で過ごせる。ビールでも飲みながら・・ 「Breezin'」のタイトル同様、ジャケットのデザインも夏向きで、このイラストレーター(名前は忘れた)は、一世を風靡した。 



2024年8月16日金曜日

日本の観光業がダメなわけ

 

国税庁が発表した従業員の給与が最も低い業界は「宿泊業・飲食サービス業」だった。円安の影響で外国人観光客が増えて見かけは潤っているように見えるが、実態は相変わらず、この業界の生産性の低いことを表している。

日本の観光業界の振興策を政府に提言しているイギリス人の経済アナリストのデービッド・アトキンソン氏は、以下のように指摘している。

観光業が成り立つ国の条件として「自然」「気候」「文化」「食」の4つだが、このすべてを満たしている日本は世界でもまれな国だという。それにもかかわらず、日本はその潜在能力を活かしていないと指摘している。各国の観光ビジネスの GDP に占める割合は、世界平均が 1.61% だが、日本はわずか 0.41% という。日本の観光業は世界平均の4分の1しか稼いでいないことになる。

同氏はその原因を挙げているが、それは観光業界自身の怠慢によるという。小さな例では、日本のホテルや旅館はチェックインが3時以降で、チェックアウトは 10 時までと決まっているが、こんなのは日本だけだという。そういえば思い出すのは、ホテルや旅館の食事が日本中どこへ行っても同じで画一的なことだ。品数の多さを競って、土地の名物を提供しようなどという発想は全くない。

そのような観光客の多様なニーズに応えようとしないことが、観光業の生産性の低さの原因になっているという。魅力的な観光地になる可能性を持っている場所を新たな観光資源として開拓しようとしない業界の思考停止にあるという。個人的経験としても例えば、北海道は夏より冬の方が断然魅力的だと思うが、「るるぶ」のような旅行会社のガイドブックに、冬の情報はない。だから北海道という素晴らしい観光資源は半年間眠っていることになる。


2024年8月13日火曜日

オリンピックの国別メダル獲得数と国力の関係

 Olympic Medal

今回のパリオリンピックで日本は、米中に続いて世界3位のメダル数を獲得した。各国のメダル獲得数と政治・経済との関係を分析した研究がある。ここでは京都産業大学の鈴木清巳教授の分析を紹介する。「人口」「GDP」「政治体制」の3つを指標にして各国を比較している。なお前回の東京オリンピックでのデータ(下図)に基づいている。


この表のメダル獲得数上位 20 か国だけで、総メダル数の7割以上を獲得しているが、それらの国は、以下の三つの類型に分けられる。

① GDP の規模が大きな先進資本主義国。アメリカ、イギリス、日本などの G7 各国はすべて 10 位以内に入っている。 

② 国家の資源を集中的に選手の動員・強化に投下できる権威主義国家。中国がその代表だが、メダルの絶対数ではアメリカに次いで2位でも、人口比のメダル獲得数は、20 か国中の最下位だ。要するに人口の多さでメダル数を稼いでいる。また中国は最も人権が制限されいる(表の一番右の欄)専制国家の利を生かして、選手を動員し強化できる。また中国の人口1人あたりの GDP 比でいうと、メダル数は①の国に比べて4分の1程度しかない。つまりスポーツが国民のためよりも国威発揚のためのものであることがわかる。 

③ 中小規模国であってもスポーツ育成を国策として注力している豊かな国。オーストラリア、オランダ、がそれで、人口比メダル数では20 か国中ダントツのトップだ。

2024年8月10日土曜日

ウクライナ映画「バトルフィールド クルーティの戦い」

 「KRUTY 1918」

ウクライナ映画の「バトルフィールド  クルーティの戦い」は、100 年前の 1918 年に、ロシアがウクライナに侵攻した史実をもとにしている。これを見ると、現在のウクライナ戦争がなかなか終わらないことの歴史的背景がよく理解できる。


ロシア軍が侵攻し、首都キーウに迫ってくる。ウクライナは必死の防戦をするが劣勢だ。銃を持ったこともない大学生の志願兵 400 人が集められ、4000 人のロシア軍と戦う。若者たちは勇敢に戦うが、激戦の末に敗れて捕虜になり、壁の前に並ばされて銃殺される。彼らはウクライナ国歌を歌いながら死ぬ。


この映画は 2019 年の制作だが、その5年前の 2014 年に、プーチンは、クリミア半島やドンバス地方に侵攻し、一方的に併合してしまう。この映画には、ウクライナの人たちの、ロシアへの怒りが込められている。だから若者たちの銃殺を命じる冷酷な司令官の顔がプーチンとそっくりなのは、偶然ではなく、意図的なものだろう。

そもそもロシアの歴史は、外国への侵攻の歴史だった。この映画でわかるように、今のウクライナの戦争も、プーチンからすれば、100 年前に始まった戦争の「続き」を今もやっているにすぎないのだろう。


2024年8月8日木曜日

江戸の居酒屋

 Izakaya in Edo period

生ビールでもちょっと一杯の季節に、昔の飲みを紹介。(再掲)

江戸では居酒屋が大繁盛していたようで、「居酒屋の誕生」(飯野亮一著)という本に、その様子が紹介されている。大阪の「食い倒れ」に対して、江戸の「呑み倒れ」と言われるくらい、江戸っ子は酒が好きで、居酒屋の数も、人口比でいうと現在の東京と同じくらい多かったという。


「酒」という大きな看板があり、左には「大極上中級にごり酒」と、酒の等級を示す看板が立てある。障子に「お吸い物」と書いてあるが、これは今と意味が違って、酒のツマミのことだという。店頭はほとんど魚屋のようで、魚がたくさん並んでいる。中央に見える調理台で店員が魚をさばいていて、左端のかまどで煮物などの調理をしている。奥の小上がりで客が飲んでいる。


酒は夏でも冬でも必ず燗で飲んでいた。中央にいる客が持っている筒形の器は「チロリ」という銅製の徳利のようなもので、これで燗して提供された。奥のかまどで店員が料理をしている。二人の客が入ってこようとしているが、現在定番の「縄のれん」は無い。それが生まれるのは江戸時代末期からだという。なお「お通し」は昭和になってからの新しい慣習で、江戸時代にはなかったそうだ。

客席は小さい間仕切りで仕切られている。男の二人づれは、刺身をつまんでいるが、酒の肴には刺身が最もポピュラーだったそうで、特に安い魚だったマグロは人気だったという。また右下の店員が鍋を運んでいるが、鍋物も定番メニューで、いろいろな種類の鍋料理が提供された。また居酒屋の客層はかなり広く、手前では二人の女性が女子会をやっていて、奥では "お一人様" の女性客が手酌で呑んでいる。また 2 4 時間営業の店も多く、みんな普通に朝から呑んでいたという。

2024年8月6日火曜日

映画「インサイド・ヘッド 2」

「Inside Out 2」

公開されたばかりの「インサイド・ヘッド 2」を夏休み中の子供達にまじって見た。最大の関心は、第一作とどう変わったのか、変わらなかったのかだった。結果は、あれから9年たった今の時代を反映して、さらに ”進化” していた。もしこれを ”進化” というならば。


今回のライリーは、アイスホッケーが大好きな中1になっている。そして脳内の「司令部」も強化されていて、感情担当者が「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」に加えて「ムカムカ」「ビビリ」「シンパイ」などが加わっている。そして今回は、ストーリーのほとんどが司令部内で進み、ライリー自身はほんのわずかしか登場しない。

前回は、重要な分かれ道での決断だけを司令部が行なっていたが、今回は毎日の一挙一動すべてを司令部が指示している。例えば、新しくできた友達に「音楽は何が好き?」と聞かれて答えに困っているとき、司令部はありとあらゆるデータを駆使して、最適の答えをライリーに知らせる。司令部はまさに「生成 AI」の機能を持っている。 司令部はライリーを100%コントロールしていて、ライリーもこの「AI 司令部」に完全に頼っている。

司令部は認知科学を応用して、ライリーの記憶を、デジタル化したハイテク装置でコントロールしている。ライリーが寝ている時も、どんな夢を見せるべきかを司令部の「脳内ニューロンチーム」が夢の内容をせっせとデザインしている。

そして司令部内が分裂して「シンパイ」が主導権を握ると、ライリーの将来を心配して、「優しい人間」から「強い人間」に変身させようとする。ライリーはそれに従って、今までの親友を見捨ててまで、自分の成功へ向けて突き進むが、自分を見失っていく・・・

第一作の「インサイド・ヘッド 」について、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは著書「2 1 Lessons」で、以下のような鋭い指摘をしていた。この指摘は、今回の第2作でさらに確かなものになっている。

『ディズニーの無数の映画の中で、主人公は困難や危険に直面するが、最後には正真正銘の自己を見つけ、自分の自由な選択に従って勝利する。ところが「インサイド・ヘッド 」は、この神話を情け容赦なく打ち壊す。脳内へ入って見るとライリーは正真正銘の自己を持っておらず、自由な選択など一つもしていないことが判明する。実はライリーは生化学的メカニズムによって管理されているロボットなのだ。』

『真に驚くべきは、ディズニーがこれほど過激なメッセージを伝える映画を市場に出したことだけではなく、それが全世界でヒットしたことである。それはこの映画がハッピーエンドで終わるアドヴェンチャー映画であるため、ほとんどの観客が脳科学的な意味合いと、その不気味さに気づいていないからだろう。』


2024年8月4日日曜日

映画「硫黄島からの手紙」と、 92 年前の金メダリスト

「Letters from IWOJIMA」

パリ・オリンピックの馬術競技で日本がメダルを取ったが、92 年ぶりだと報じていた。92 年前の 1932 年のロサンジェルス大会の馬術競技で、陸軍中尉の西竹一が金メダルに輝いた。名家の生まれで男爵だった彼は「バロン西」と呼ばれ、アメリカでも人気があった。その西が登場した映画が、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(2006 年)だった。

この映画は、第二次世界大戦末期の硫黄島での激戦を題材にした戦争映画だが、アメリカ映画でありながら、日本軍側の兵士や将校の一人一人の人間像を描いている。その中に金メダリストの西も登場する。

西は中佐として硫黄島へ赴任する。肉弾戦をやっている戦場に愛馬を連れて悠然とやってくる。実際に西はおおらかな人間だったそうだ。印象的だったのは、捕虜になった米兵を尋問するシーンだった。故郷を聞いてカリフォルニア出身だと知ると、米兵とオリンピックの思い出話しに花を咲かせる。