2017年5月28日日曜日

映画にみる住まい(2)「居場所」

Retreat in movies

家には長い時間を気持ちよく過せる居心地のいい居場所が大切だが、外とのつながりが薄くなった高齢者にはなおさらのこと。そんな場面が印象的だった3作の映画。どれも「居場所」を通して、残りの人生の生きがいを描いている。


「八月の鯨」("The Whales of August"  1987)
海辺の家で暮らす老姉妹は決まりきった家事を単調に繰り返すだけの毎日。小さい窓のそばに座って過ごしているのだが、海を見晴らしながら一日中を過ごせるような大きな窓を作ることを決める。子供の頃、8月になると鯨がやってくるのを海岸で見ていた楽しい思い出をあたため続けるために。佳作。

「リトルプリンス」("The Little Prince"   2015)
お年寄りが隠れ家的な家にひとりぼっちで暮らしている。飛行士だった若いころの夢をもう一度とオンボロ飛行機を組み立てている。その部屋は大きな工房のようで、自分が作ったガラクタのようなものがところ狭しと並んでいる。こんなところにこもって一日中過ごすのはリタイア生活のひとつの理想かもしれない。

「グラン・トリノ」("Gran Torino"   2008)
自動車工場を退職した主人公は、スラム街の質素な家に住んでいる。近所づきあいもせず、愛車のグラン・トリノだけがプライドの生活だ。彼の居場所はポーチで、ベンチに座って一日中缶ビールを飲んでいる。物語は、隣に引っ越してきた東洋系家族と付き合うようになって・・・最後はポーチから「立ち上がる」。

2017年5月24日水曜日

映画にみる住まい(1)インテリアの色

Interior colors in movie

インテリアは住む人のキャラクターやライフスタイルを反映している。だから単なる場面の背景としてではなく、登場人物の「人」を表現する手段としてインテリアが使われることがある。その中でインテリアの「色」に重要な役割をもたせている映画3作。


「インテリア」("Interiors"  '78)
白い壁は暖色系のオフホワイトにするのが普通だが、映画ではインテリアデザイナーの妻が自宅の色すべてを寒色系の「アイスグレイ」に統一している。この冷たい色で部屋は秩序のある美しさがあるが、人を寄せ付けない雰囲気だ。それが心を閉ざしている彼女と、温かみのない家族関係を象徴している。夫は妻と別れ再婚するが、新しい妻は陽気な女性で、真っ赤な服装で現れる。この家の秩序を壊そうとするかのように。

「アメリ」("Amelie"  2001)
主人公の女性アメリは、自分だけの妄想の中に生きていて、他人との関わりに関心がない。彼女の部屋は壁も家具も真っ赤だ。普通、居室には調和や安らぎを求めるから、刺激の強い赤はあまり使わない。しかし、外界との調和より自分だけの世界にこもるアメリにはぴったり合っている。

「ジョンとメリー」("John and Mary"  '69)
アノニマス(無名性)が特徴のモダンデザインのインテリアでは、壁を白にして、家具の色をアクセントに使うのが定番。白はニュートラルで住む人の個性を主張しないからだが、家具デザイナーの主人公の部屋はまるでその見本だ。名前も知らないままここで一夜を過ごした二人だが、タイトルの「ジョンとメリー」は「太郎と花子」みたいなどうでもいい名前で、現代人の無名性を象徴している。

2017年5月21日日曜日

映画ポスターのイラストレーター   ドゥルー・ストゥルーザン

Movie poster illustrator : Drew Struzan

ドゥルー・ストゥルーザンは映画ポスター専門のイラストレーターで、スターウォーズ、インディージョーンズ、ハリーポッター、など有名映画をたくさん手がけている。

写真:「コンプリート・ワークス・オブ・ドゥルー・ストゥルーザン」より

この人に限らず、アメリカのイラストレーターのデッサン力はすごい。アメリカ絵画とアメリカン・イラストレーションに詳しい津神久三氏によれば、日本でデッサン力が一流とされる画家小磯良平クラスのイラストレーターは、はいて捨てるくらいいるそうだ。イラストレーターは本格的に絵画の修業をした人しかなれない職業のようだ。そういえば、あのアンドリュー・ワイエスを指導した父親 N・C・ワイエスもイラストレーターだった。

2017年5月17日水曜日

人類最古の芸術作品「ライオン人間」

"Lion-man" : The oldest art

この約4万年前の彫刻が人類最古の芸術作品だそうだ。頭がライオンの人間で、「ライオン人間」と呼ばれている。

今の人類はすべてホモサピエンスの子孫だが、それ以前にはネアンデルタール人などの人類種もいた。彼らは生存競争でサピエンスに負けて消滅した。両者が縄張り争いで戦いをしたとすると、武器などの戦闘力では互角だったが、サピエンスのほうは、戦略を考える能力があったり、メンバーを組織化して統率したりできたので必ず勝てた。

戦略とか組織のような物理的には存在しない「虚構」を頭に思い浮かべることができたのは、サピエンスだけに起きた「認知革命」のおかげだった。それが発展して現在の世界は、国家・経済・法律・教育などありとあらゆる「虚構」で成り立っているが、芸術もそのひとつ。ネアンデルタール人も洞窟壁画で動物を描いていたが、それと違ってこのサピエンスのライオン人間は実在しない動物だ。作者のイマジネーションで生まれた「虚構」の産物なので「芸術」になれた。

以上「サピエンス全史  文明の構造と人類の幸福」による。(この本、とんでもなく面白い)

2017年5月13日土曜日

映画「美女と野獣」と「暗黒ディズニー入門」

"Beauty and the Beast"

「暗黒ディズニー入門」(高橋ヨシキ著)という本がとても面白い。ディズニー映画ファンにはおすすめだ。(ただタイトルの「暗黒」という言葉は内容とあまり関係ない)

ディズニーの魅力は幻想と現実を徹底的に混ぜ合わせることだという観点から代表作を読み解いている。いろんな作品に登場する「魔術」はその手段で、幻想を現実に転化し、現実を幻想に転化するというディズニー映画の根幹になっている。

さらにテクノロジーというもう一つの「魔術」の駆使だ。アニメーション・実写・CGなどを高度に融合させた映像テクノロジーによって、幻想と現実の境目が分からなくなってしまう。映画に映っているいかにも実写にしか見えないものが本当に実物なのかCGなのかを見分けるのは今では不可能だ。

その中で著者が特に重視しているのがマットペインティングの技術の進歩だ。かつては動かない背景画だったが、今では CG 化によって動かすこともできるようになり、さらに「写実性」と「ファンタジー性」を絶妙に混ぜ合わせた絵づくりによって、ディズニー映画の根幹である幻想と現実の融合を実現している。

今度の「美女と野獣」のメイキングが公開されているので、それと実作を比較すると、それがよくわかる。実写で撮っているのは室内や村の通りなどの狭い場所のシーンばかりなので、実作の壮大なスケールの城などはマットペインティングだとわかる。そして下の例のように俳優の実写映像が自然なかたちではめ込まれている。だからアニメの実写化といっているが実際はアニメと実写のハイブリッド作品だ。




2017年5月4日木曜日

銀座の新旧建築

The new and old buildings at Ginza

銀座のビルが次々に新しくなっているが、最近のデザインはすごい。話題の新しいデパートなどは極め付き。キラキラ素材の飾りを表面に貼り付けていて、しかもテナントごとに別デザインになっているので、歩いていてこれがひとつの建物だとは気がつかない。


昭和初期に「看板建築」という商店建築のスタイルが流行ったが、木造建物の道路に面した表面の皮一枚だけを飾って立派に見せようとした看板のような建物だった。このデパートはその現代版に見えてしょうがない。

もう構造が美しさを生む的な考えは時代遅れらしいが、そんな銀座で最後の砦のように残っていたビルも解体が始まる。お別れ展に芦原義信の設計図面が展示されていた。これは1F ロビーの平面図。手描き・青焼きが懐かしい。


2017年5月1日月曜日

静物画


パステルで静物を描いた。

Hard pastel on board primed with pumice,   68 cm × 48 cm