Book Burning
ノーベル文学賞の日本人受賞候補者の一人にあげられている小川洋子の「密やかな結晶」は海外でも人気が高く、アメリカで映画化が進んでいる。架空の強権独裁国家が舞台で、物が次々に消滅していく。その物が消滅すると、それにまつわる人間の記憶も消滅させられる。いつまでも記憶していると、秘密警察に逮捕されて人間ごと消されてしまう。最後に消滅の順番がまわってきたのは「本」だった。盛大な焚書が行われるが、主人公の作家は、自分が書いている本の記憶をある方法で守ろうとする・・・ この映画(英題は”Memory Police”)ができる前に、本を焼く焚書(または禁書)と、本を守ろうとする人をテーマにした映画をあげてみる。
「アレクサンドリア」
古代ローマ帝国の都市アレクサンドリアには、世界最古の図書館があった。古今東西の蔵書が収蔵され、世界各地から学者が集まる研究施設でもあった。4世紀になり、キリスト教がローマ帝国にも勢力を拡大し始めると、この図書館がキリスト教信徒の暴徒によって襲撃され、本が焼き尽くされてしまう。神だけが唯一の「全知全能者」であるとするキリスト教にとって、学問の研究をする人間は神を冒涜する敵であった。主人公の女性は、この時代にすでに地動説を唱えていた天文学者(実在の人物)で、本(当時は巻物)を持ち出して守ろうとするが、捕まって火あぶりにされてしまう。
「神々のたそがれ」
中世になると、キリスト教が絶対権力者としてヨーロッパ全体を支配する「暗黒の中世」と呼ばれる時代になる。民衆が知識や知性を持つことは、キリスト教への権力批判につながるため、本は禁止されている。本を隠し持っている者は捕まって処刑される。人間を愚民のままにして、家畜のように扱う暴力的な暗黒世界だ。これはルネッサンス時代になって、ギリシャ文明の人間的精神が取り戻されるまで続く。
「薔薇の名前」
イタリア北部の修道院が舞台のサスペンス映画で、中世における本や図書館がどういうものであったかがよくわかる。地下に大きな図書館があるのだが、それは本を見せるための場所ではなく、逆に本を隠すことが目的の秘密の場所であり、誰も入ることができない。中でも人間の自由な精神を謳ったギリシャ時代の本は、民衆の目に入れば、キリスト教への疑問が生じる恐れがあるから、厳重に隠されている。この修道院で連続殺人事件が起こるが、その原因がアリストレスのギリシャ哲学書であったことがわかってくる・・・
「ザ・ウォーカー」
以上3作とは逆に、キリスト教の側(キリスト教原理主義の宗教団体が映画の資金援助をしたという)から、「本を守る」物語を描いた SF 映画。核戦争で世界中が廃墟になり、文明は崩壊して、略奪や暴力が日常的な無法の社会になっている。主人公はあるものを持って、それを目的地に届けようと、ひたすら歩き続けている。闇の世界を牛耳っている男は、その持ち物を奪うことで自分の権力の正統性を得ようとする。それをことごとくはね返して、最後に目的地へ着く。そこでは生き残った人たちが密かに図書館を作ることで、文明社会を再建しようとしている。男が運んできたものとは本で、それはただ一冊だけこの世に残っていた「聖書」だった。
歴史上、最大で最悪の焚書はナチスが行ったものだった。 ”反ドイツ的” という烙印を押された本が赤々と燃やされる”反文明” の儀式だった。この映画では、一人の少女が、火の中から焼け残った本を一冊だけそっと拾って持ち帰る。そして屋根裏部屋に隠れているユダヤ人の青年にその本を読み聞かせる・・・
焚書の映画で最も有名な名作。言論統制が厳しく行われている独裁国家で、本が禁止されている。本を隠し持っていると、焚書専門の消防士が出動して火炎放射器で焼いてしまう。しかし少数の人のグループが密かに本を守ろうとしている。しかし現物の本を持つわけにいかないので、驚く方法でそれをやっている。一人づつが一冊の本を丸ごと暗記してしまうのだ。