2017年9月30日土曜日

パステル画の支持体

Mi-Teintes,  Sanded paper,  Pumuce

パステル画の支持体についてよく聞かれる。紙はキャンソンのパステル専用紙「ミ・タント」がいちばん一般的だが、それ以上の情報はパステル画の入門書・技法書でもとんど書かれていない。

他にはサンドペーパーもよく使われる。凸凹が鋭く硬いのでパステルの削れ具合がよく色の乗りがいい。しかし欠点は、大きさが A3 くらいまでしかなく、色も黒とベージュだけ。また日本ではあまり一般的でないため、画材店で売っていないので、Amazon で海外(イギリスのUARTというメーカー)から買うしかない。

ところがサンドペーパーと同じ下地を作れる方法がある。アクリル画などの下地用メディウムの中の「パミス」( Pumuce ) はサンドペーパーと同じ砂が入っているので、これを紙やボードにペインティングナイフで下塗りするのだ。これにアクリルで自由に下地色も塗れるし、大きさも自由で値段も安く、いいことづくめ。よく使われる方法だが、日本ではほとんど知られていない。これの応用として、厚塗りして凹凸の激しいテクスチャーも作れるので、そこにパステルを乗せると面白い効果が生まれる。




2017年9月27日水曜日

風景「雨の林道」

Pastel painting  "Rainy Path"

雨で水浸しになった林道が光っているのが印象的だった。日台絵画交流展 @ 台湾に出展中。(ソフトパステル、キャンソン  ミ・タント紙、8号)

"Rainy Path"  Soft pastel,  Canson Mi-Teintes,  450cm × 330cm

台湾ではパステル画を「粉彩畫」という。 

2017年9月24日日曜日

写真集「世界を分断する壁」

Photo document  "Wall"

ベルリンの壁がなくなった今もまだ世界中に存在する壁を集めたフォトドキュメント。パレスチナや 38 度線は有名だが、初めて聞くびっくりするような壁もたくさん出てくる。表紙の写真はトランプさんで話題のアメリカ・メキシコ国境の壁。尋常でない壁の高さから分断の厳しさが伝わってくる。


面白いのは、壁の落書き。壁は国の勝手な政治目的で作られるが、それに反発する庶民の落書きもある。特にこの2つには感心した。



意地悪な風船売りの怪物が「お嬢ちゃん、もっと要る?」とか言っているが、少女はなんとか風船で壁を乗り越えようとしている。壁の無い自由な世界への願い。


ネタはジョン・レノンの「Imagine」だろう。「想像してごらん、国境のない、みんなが一つになった世界を」という夢が逆さまになっている現実への抗議のメッセージだと思う。

2017年9月21日木曜日

横浜「赤レンガ倉庫」の観察

Yokohama Red Brick Warehouse

赤レンガ倉庫は明治末にできた古典的な建築だが、エレベータ、消火栓、避雷針など当時としては最新の設備が備わっていた。


日本初の避雷針だが「アールヌーボー」スタイルの優雅な装飾付きなのが明治っぽい。

そっけない鉄製の外廊下がいかにも倉庫らしいが、それでもこんな装飾がついている。

控えめだが伝統的建築の様式を踏襲している。屋根のひさし状の縁取り(コーニス)と、歯形の装飾(デンティル)。

日本初の荷揚げ用エレベータのモーターが展示されている。アメリカの OTIS 社のロゴがついている。この頃から世界一のエレベータメーカーだったことが分かる。

2017年9月18日月曜日

横浜「汽車道」の鉄橋

Old bridge made in USA

いまの「汽車道」はプロムナードになっているが、昔は横浜駅と港を結ぶ臨港線の一部だったそうだ。いつも何気なくとおっていた鉄橋だがよく見るとこんな銘板が付いている。「American Bridge Company」という会社のアメリカ製だ。「1907」とあるから110 年前の明治 40 年になる。トラス鉄橋はまだ難しい技術だったのだろうか?


2017年9月15日金曜日

映画「ハンナ・アーレント」と「アイヒマンの後継者」

Movie  "Hannah Arendt"  &  "Experimenter"

いま NHK の「100分 de 名著」という番組でハンナ・アーレントを4週連続で放映している。(「全体主義の起源」 9 / 4、9 / 11、9 / 18、9 / 25 ) 世界中に広がる「〜ファースト」的ないやな空気を反映して、アーレントの本が改めてベストセラーになっているようだ。しばらく前にアーレントの映画がきた時も連日超満員になる程の話題になった。


映画「ハンナ・アーレント」
思想家ハンナ・アーレントはアイヒマン裁判を見て、何万人ものユダヤ人を平然と殺したアイヒマンが異常人格者などではなく、命令に忠実だっただけの真面目で無知な小役人だった、という衝撃的な結論を出す。そして「悪は凡庸な人間が行う」と主張する本を書く。しかしアイヒマンと同じ悪を誰でも行えるという考えはナチスの弁護につながるとして世界中から非難を浴びる。映画の最後の数分間、アーレントが自説を演説し続けるシーンが迫力満点だった。

ハンナ・アーレントのこの主張と関連する新しい映画が今春公開された。

映画「アイヒマンの後継者」
普通の人間が誰でも残虐なことができるというハンナ・アーレントの主張が正しいことを、ミルグラムという心理学者が実験によって実証した。それをドキュメンタリータッチで描いた映画。「ギャー!」「止めて!」という声が聞こえているのに被験者は高圧電流のスイッチを押し続ける。自分も含めて誰もが「アイヒマンの後継者」になれるということだから恐ろしい。 

2017年9月12日火曜日

廃屋の風景

Pastel painting "Deserted"

北海道であちこち廃屋探しをしていたとき、釧路で見つけた廃屋。牧場の牧舎だったらしい建物だが壊れ具合がいい。いちど描いたモチーフの再チャレンジ。(パステル、30 号、グループ展出品予定)
"Deserted"  Hard pastel,  Primed with pumice on board,   92cm × 65cm

2017年9月9日土曜日

映画「セザンヌと過ごした時間」

Movie  "Cezanne et Moi"

近代絵画の父とされているセザンヌだが、それは死後になってのことで、生きているうちに世に認められることなく不遇の一生を終えた。その生涯の友人だった作家ゾラの眼を通してセザンヌの苦闘を描いている。南フランスの景色が美しい。エンドロールで「サント・ヴィクトワール山」の連作が次々にフルスクリーンで映し出されるのには感動させられる。
(渋谷 BUNKAMURA、ル・シネマ、9/2〜)


2017年9月6日水曜日

「 RED ヒトラーのデザイン」

" RED,  Hitler's  Design "

「RED」という面白い本が出た。(著者:松田行正)
ナチスもの映画で必ず出てくるハーケンクロイツの垂れ幕を見ると内心ではかっこいいデザインだといつも思う。ヒトラーは絵画や建築の好みが時代錯誤的でバウハウスも弾圧した。それなのになぜこれはモダンなデザインなのか、とつねづね思っていたのだが、この本でドンピシャリ同じことを言ってくれている。そしてそのわけを豊富な資料をもとに読み解いている。

内容は
1  ファッション (ナチスデザインのファッション性や官能性)
2  デザイン (プロパガンダなどのイメージ戦略)
3  グラフィック (ポスター・写真・ロゴなど)
4  イミテーション (敬礼や制服などでの古い文化の引用)
5  ハーケンクロイツ (マーク・旗・バナーなどのシンボル)
6  ライン (軍用機や建築などでのナチス造形の特徴)

要するにこれは政治を視覚化した CI デザインだ。そしてヒトラーは腕のいいアート・ディレクターということだ。

2017年9月3日日曜日

建築家のドローイング

"100 Years of Architectural Drawing"

「死ぬまでに見たい名建築家のドローイング  300」という本をたまたま図書館で見つけたが結構面白い。100 年前から現在までの様々な時代・建築家の絵を見ることができる。

シドニーのオペラハウスのコンペで 200 点以上の中から選ばれたデンマークの無名の建築家のスケッチはごく簡単なものだったことは有名な話し。この本では具体化に進んだ段階のスケッチが載っているがやはり簡単な絵だ。しかし球面をカットした形を提示したこのスケッチのおかげで難航していた構造設計が一気に進んだという。

その他の例を。左は20 世紀初めのベルツィッヒの劇場のスケッチで、激しい感情をぶつけたようでいかにも表現主義建築家らしい。右は 1970 年代のポストモダンのグレイブスで、子供の積み木のような建物を色鉛筆で素朴に子供っぽく描いている。これらを見ると建築自体の時代性がドローイングの表現方法にも反映しているのが面白い。