2026年10月4日日曜日

映画「西部戦線異常なし」の戦場の蝶

 All Quiet on the Western Front


「反戦と西洋美術」という本を読んでいたら、こんな絵が紹介されていた。「春の一日」という題名で、刺々しい有刺鉄線の上に可憐な黄色い蝶がとまっている。反戦絵画といえば凄惨な絵が多いなかで、これは珍しい。

描いたのは、カール・ロベルト・ボデクというユダヤ人画家で、強制収容所に送られ、そこで死んだ人だが、収容所の中でこの小さな水彩画を描いた。背景に見えるのは強制収容所の建物だ。

この絵を見たとたん、映画「西部戦線異常なし」を思い出した。この世界一とされる反戦映画の名作だが、ラストシーンが映画史に残る有名なシーンだ。若い兵士が、塹壕の外にとまっている蝶を捕まえようとして塹壕から身を乗り出した瞬間、撃たれて死んでしまう。

実はこの時、独仏の停戦協定が結ばれていて、撃ち合いが終わる時間のたった3分前だった。戦争の虚しさが強烈に伝わってくるシーンだった。この映画は1930年公開で、世界中で大ヒットしていたので、「春の一日」の画家も映画を見ていて、その影響を受けていたという。


2026年10月3日土曜日

ノーベル文学賞作家の「北は山、南は湖、西は道、東は川」

Mountain to the North,  a Lake to the South,  Paths to the West,  a River to the East

去年(2025年)のノーベル文学賞は、ハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースローが受賞した。 この人は、同じくハンガリーのタルベーラ監督の映画「サタンタンゴ」や「ニーチェの馬」の原作者だ。タルベーラ監督の映画が大好きなので、ラースローの小説を読みたいと思った。ただ日本語に翻訳されているのは「北は山、南は湖、西は道、東は川」だけだった。

この本を買おうと思ったが、すでに絶版になっていて、6万円ものプレミア価格がついている。図書館で借りようとしても、貸し出し予約者が数百人もいる順番待ちだった。今月、新訳の再版本が出て、1年遅れでやっと読むことができた。

作者はかつて京都に長期間滞在し、京都の建築や庭園を研究していた。その経験にもとづいてこの小説を書いている。

この長い題名は、四方をこの地形で囲まれている京都の街を指している。主人公は源氏物語の光源氏の君の孫で、千年前に存在したといわれる美しい庭園を探して京都の街をさまよい歩く。しかしその庭園があるはずの寺には破壊と荒廃の跡があり、脅威や不吉な兆しに満ちている。結局、光源氏の君の孫は求めた庭園を見つけることができなかった。

小説の中で、寺や仏像や庭園の描写に混じって、現代の京都の姿を事細かに描写している。京阪電車の駅や、自動販売機などが何度も登場する。はっきり書かれてはいないが、それらもまたかつての京都の街の破壊と荒廃の象徴だと示唆しているように思える。

文体が特異で、句点(。)がほとんどなく、短い文章を読点(、)でつないでいき、1センテンスが3ページくらいにわたって延々と続く。曖昧な表現や、矛盾した言葉のつながりなどで、読者を惑わせる。人物や風景の輪郭が曖昧で、幻覚を見ているような不思議な感覚になる。それは映画「サタンタンゴ」を見る時と共通する感覚だ。


2026年10月2日金曜日

「制脳権」

 Brain Dominance

最近「制脳権」という恐ろしい言葉が使われ始めたようだ。しかし昨今の状況を見ると、うまいことをいうものだと思う。今までの戦争は「制空権」や「制海権」の争いだったが、認知戦の現代は、相手国民の脳を奪う「制脳権」の時代になったという意味だ。

例えば『日本は今新しい軍国主義が復活している』という認知戦攻撃を受けている。日本の世論を分断させて「制脳権」を奪おうとする。

なぜ日本はこのような攻撃を受けやすいのか。フランス人の歴史学者のエマニュエル・トッドの次のような言葉が参考になる。

『アメリカ人が広島や長崎について謝罪を拒否するなかで、日本人は南京事件について絶えず謝罪を求められてきた。そして日本人は、戦争を始めたことへのトラウマから、強い贖罪意識を抱えている。だから日本は戦後、営々として平和主義国家としての努力をしてきたにもかかわらず、日本人はそのことを口に出して言えないでいる。』


2026年10月1日木曜日

映画「ユナボマー」

「UNABOMBER」 

NETFLIX で始まった映画「ユナボマー」が面白い。20 数年前アメリカで起きた連続殺人事件をもとにしている。郵便小包で爆弾を送りつけ、開封すると爆発して死傷させるという事件で、FBI の必死の捜査にもかかわらず犯人を逮捕できず、犯行は17 年間も続いた。

犯人は、ハーバード大学で哲学を学び、その後数学も学んで博士号を取得して、若くして大学の助教授になった天才だった。彼は、科学技術と産業社会の発展が人間の人間性を破壊しているという強い信念を持っている。

その信念はやがて狂気じみていき、社会を変革するために、学者や大学教授を抹殺しなければという使命感を持ち、そういう人たちをターゲットにして小包爆弾を送り始める。

 FBI は、爆弾に添えられている犯行声明文の文章から、犯人は知的レベルの高い人間に違いないと推測する。そして犯人と同じような思想を主張している学術論文をしらみつぶしに調べる。すると該当する論文が見つかる。それを犯行声明文と比較すると、論旨や文脈や文体がピッタリ一致した。それでその論文の著者が犯人だと断定する。

逮捕されると、どうして天才青年が殺人鬼になっていったかが明きらかになっていく。犯人は学生時代に大学で、心理学の教授が行う実験の被験者になる。二人の学生が1対1で向かい合って、それぞれの主張をぶつけ合うディベート合戦だが、相手の主張を否定するだけでなく、相手の人格まで破壊した方が勝者と判定される。実はこれは、 CIA が秘密裡に教授に委託している研究で、相手の強い信念を覆させる方法を開発することが目的だった。それは外国のスパイなどの自白を引き出す尋問方法に利用される、犯人はこの実験で自分の人格を完全に叩きのめされ、科学者に対する憎しみのかたまりになる。


2026年9月30日水曜日

アンソロピックによる本の買い占め

 Anthropic

このあいだ TV で面白いことを報じていた。AI のアンソロピック社が世界中で、古本屋の本を買い占めているという。本をバラバラにして、ページをスキャンして、印刷文字をデジタルデータ化している。

AI は、ネットを検索して得たさまざまな情報を学習し、それを一つにまとめて最大公約数的な答えを出す。だから AI は、ネットに載っていない、多様な知識や知見を知らない。それを補うために「本」の知識を収集してAI に学習させて、もっと賢くしようというねらいだろう。


2026年9月29日火曜日

ジェームズ・ローゼンクイストの反戦絵画

 James Rosenquist  「F-111」

反戦絵画の名作といえばピカソの「ゲルニカ」や、ゴヤ」の「銃殺」などがある。新しいところでは、1960年代のポップ・アーティストのジェームズ・ローゼンクイストの「F-111」という作品が有名だ。幅 26 m という超大作で、ニューヨークのMoMA に、部屋を囲む4面に展示されている。


当時続いていたベトナム戦争反対をテーマにした絵画で、題名は、ベトナムで爆撃に使われていた戦闘機「F-111」からきている。さまざまな身近な物が戦闘機のシルエットと組み合わされている。少女の笑顔、スパゲッティ、ケーキ、車のタイヤ、電球などの、市民の豊かな消費生活を象徴する物たちだ。

市民たちは平和だと思っているが、実際にはアメリカの戦闘機が人を殺していることを想えというメッセージが込められている。

反戦ポスターのように「NO WAR」といった直接的な文字を描き込まなくても、強いメッセージを訴えることができるのが絵画の力だ。


2026年9月27日日曜日

映画「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」

Do You Hear The People Sing 

この間の米中首脳会談の晩餐会で、楽団が映画「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」を演奏したという面白いニュースがあった。「民衆の歌」は、圧制政治に対する反政府抗議運動のシンボルのような歌で、中国では禁止されているという。それをあえてトランプ大統領が演奏させたとすれば、習近平氏への当てつけのように思える。

映画「レ・ミゼラブル」は、民衆が貧困にあえぎ、政府の圧政に苦しんでいた時代、国民が蜂起して動乱を起こした事件を描いていた。そのシーンで人々が歌ったのが「民衆の歌」だった。道路にバリケードを築いて、制圧しようとする軍隊と銃撃戦になる。そのシーンで、民衆が「民衆の歌」を力強く歌う。その日本語訳は

  戦う者の歌が聴こえるか
  鼓動があのドラムと響き合えば
  新たに熱い生命が始まる
  明日が来たとき そうさ明日が

映画のそのシーンの映像→ https://www.youtube.com/watch?v=qSg4D8fleTw


横浜クラシックカー・ラリー

Classic Car Rally 

毎年行われるクラシックカー・ラリーは、往年の名車が横浜市内を走るラリーで壮観なイべントだ。なかでもいちばん人気は「ブガッティ」だ。数年前に見物したときは、ブガッティが3台くらいエントリーしていた。1920 年代のイタリアの小型2シーター・オープンカーで、馬蹄形のラジエーターグリルが特徴のおしゃれな車だ。ドライバーもレトロなドライバー服でコスプレして楽しんでいる。



2026年9月26日土曜日

池田学の「メルトダウン」

IKEDA Manabu 「Meltdown」

池田学が東日本大震災の津波をテーマに描いた「再生」について前回書いた。池田は同じ頃、福島原発のメルトダウンをテーマにした「Meltdown」を発表している。この絵も自然の強大な力によって破壊されつつある人間の文明の危うさを描いている。アポカリプス的世界観は池田の全作品に共通している。

「Meltdown」は宙に浮いた巨大な岩のかたまりが、坂の途中に不安定に止まっている。その岩の上に人間の文明が築かれている。そこには工場があり、人間の居住区もある。それらは岩にこびりついたフジツボのようだ。

全体図。壮大な構成だが、この絵もペンだけで細部を細密に描いでいる。

右上の部分拡大。天空に浮いた巨大な原発の工場。

左下の部分拡大。岩にしがみついたような人間の住宅が見える。


この絵はブリューゲルの「バベルの塔」を思い出させる。巨大な絵だが、細部には塔を建設している労働者たちが細密に描かれている。天まで届く塔を作ろうとした人間の傲慢さが神の怒りをかい、塔は未完に終わるという聖書の物語を描いた絵だ。

池田学の原発の事故をテーマにした「Meltdown」も、原発というヒューマンスケールを超えた神をも恐れぬ技術が、神ならぬ津波という自然の怒りをかって罰を受けたという寓意が込められているにちがいない。


2026年9月25日金曜日

池田学の津波の絵

Manabu Ikeda 「Rebirth」

連日 TV で千葉の洪水の映像を見ていて、池田学の絵画を思い出した。個展「The Pen」展(2017 年)のなかで、東日本大震災の津波をテーマにした代表作「再生」があった。図録の表紙(右図)にも使われている。

東日本大震災の翌年から3年かけて制作された3m ×  4m の大作だが、ペンとインクだけで描かれている。全体を離れて見ると、津波に襲われた巨木が再生して、花が咲いている美しい光景のようだが、そうではない。細部を細かく見ていくと、さまざまなことが細密に描かれている。それは作者のアポカリプス(終末論)的世界観の表現だ。

「再生」の全体図。老木の根本に津波が押し寄せているが枝は花を咲かせている。
「破壊と再生」という壮大なテーマだ。

中央下部の部分拡大図。壊れた建物や看板があり、
グニャグニャに曲がった線路などが見える。自然の力で崩壊した文明を表している。

中央部分の部分拡大図。老木の根っこに目玉があって、不気味な怪獣のように見える。
ガレキは、怪獣に喰われた人間の内臓のようだ。

2026年9月24日木曜日

千葉の台風被害と印旛沼

Inbanuma 

今度の台風で千葉県が大きな被害を受けた。特に佐倉市周辺が浸水でひどかったようだが、原因は雨で印旛沼の水位が上がり、堤防が決壊し、溢れた水が周囲へ流れたためだったようだ。

印旛沼へは何度も行ったが今までにそんなことは一度もなかった。周囲は見渡す限りどこまでも田んぼが広がっている。特に何もない、静かな田園風景が好きだった。そんな風景を眺めながら印旛沼で獲れた鰻を食べることができる美味しい店があるのも行く目的だった。

印旛沼へ雨の日に行ったこともある。ジトジトと降り続ける暗い日だが散策をしていると、朽ちた舟があった。もちろん今度の台風のように増水して水没したわけではない。


2026年9月23日水曜日

フェルメールの「地理学者」と日本

 Vermeer "Geographer"

15年ほど前にあった「フェルメール『地理学者』とオランダ・フランドル絵画展」の図録で、フェルメールの『地理学者』について詳細な解説がされている。

17 世紀のオランダは世界貿易で栄えた商業の中心地だったが、その影響で、地図作りが盛んに行われた。フェルメールの『地理学者』も地図を作っている地理学者を描いている。科学的に正確な地図を作っていることが、手に持ったデバイダーからわかる。

地図に対する市民の関心も高く、フェルメールの絵には、室内に地図が飾られていることが多い。地図は実用品と同時に、装飾品でもあった。

『地理学者』にも背後の壁に地図が飾られている。左半分しか見えていないが、この地図の実物が現在も残っているという。それが右の地図で確かに同じもののようだ。上が西になっているのでわかりにくいが、ヨーロッパを中心にした大西洋の海図だ。

この地図を作ったのは、オランダのファルクという当時世界最大の地図・地球儀の制作者だったという。

ファルクの作った世界地図は、江戸時代に日本にも伝わっていたそうだ。これがファルクの「アジア図」(神戸市私立博物館蔵)だが、北海道が奇妙な形になっている。

この地図は影響が大きく、日本でもこれをもとに地図が作られた。「世界4大洲図」は、4大陸の地図だが、下はそのうちのアフリカ大陸とアジア大陸の図。各地の風俗が描かれているが、地図そのものはファルクとまったく同じだ。日本の北海道が変なのを含めて同じように描かれている。

なおフェルメールの絵で、棚の上に乗っている地球儀もファルクの制作によるものだが、同じものが江戸時代に入っていて、今も現存している(松浦資料博物館蔵)そうだ。



2026年9月22日火曜日

認知症映画 10選

 Dementia Movie

昨日 9 / 21 は敬老の日だったが、「認知症の日」でもあるとは知らなかった。自分も ”認知症適齢期” だから認知症には関心があって、認知症がテーマの映画をよく見てきた。そんな映画について今までも書いたが、改めてまとめて紹介してみる。すでに認知症の人や、身近に認知症の人がいる人、あるいは認知症が心配な人に多少の参考になるかもしれない。


     ・・・認知症になっても生きがいを失わない前向きな映画・・・

▪️「やさしい嘘と贈り物」
認知症になって、自分の家族もわからなくたお年寄りが、偶然出会ったおばあちゃんが好きになってしまい、デートをしたりして生きがいを取り戻す。ところがそのおばあちゃんとは自分の妻なのだ。おばあちゃんは恋人のふりをして夫を幸せにしてあげる。

▪️「ロング・ロング・バケーション」
認知症の夫と末期ガンの妻の老夫婦がキャンピングカーでマイアミへ向かって長距離ドライブに出かける。人生最後の旅を満喫するなかで、お互いへの愛や、隠された過去などを温かく切なく描く。認知症になっても前向きに生きる明るい映画。


・・・認知症になって、自分の過去を忘れてしまった切ない映画・・・

▪️「きみに読む物語」
介護施設に入っている認知症の妻を夫が毎日見舞いに来る。そのたびに物語を読んで聞かせる。妻はそれを毎日楽しみにしているが、その物語とは、若い頃二人が交わしたラブレターなのだ。甘く美しい話が、自分のことだとは気づいていない妻が切ない。

▪️「アイリス」
言葉を失って書けなくなった小説家の妻を夫は懸命に支え続けている。自由奔放で、才能にあふれていた若い日の妻の姿を挿入しながら、40年間にわたる愛の軌跡を回想形式で描いている。




          ・・・認知症で崩れていく家族の絆・・・

▪️「アゥエー・フロム・ハー」
長年連れ添った妻が認知症になって、今まで積み重ねてきた共通の記憶が薄れて、夫婦の絆があやふやになっていく。やがて介護施設に入った妻を久しぶりに見舞いに行くと、男の入居者と語り合う生き生きとした妻の姿を見る。彼女は遠くへ行ってしまったのだ。

▪️「ディア・ファミリー」
母親の認知症がひどくなり、久々に父親と息子と娘が集まって、介護施設に入れるべきかどうか話し合う。しかし意見が合わない。その話し合いを通して、それぞれが自分の人生を見つめ直していく。

        
        
        ・・・認知症になって自分が壊れていくことの苦しみ・・・

▪️「アリスのままで」
女性の大学教授のアリスが若年性認知症を発症する。だんだんと言葉を失っていき、講義もままならなくなる。壊れていく自分を自覚しつつも、アリスは「アリスのままで」いたいと願う。



▪️「愛、アムール」
音楽家の夫婦が幸せに暮らしていたが、妻が認知症になり、悪化していく。夫は懸命に介護するが、いちばん苦しんでいるのは、どんどん壊れていくのを自覚している妻自身だ。その苦しみから解放してあげるために、夫はある決断をする。それは究極の愛の形だった。

▪️「ファーザー」
一人暮らしの父親は、訪ねてくる娘と会話をするが、自分のいる場所や時間がわからなくなっている。目に浮かんでいる光景は現実と妄想が入り混じっている。現在と過去の出来事が同時に見えていたりする。

         

          ・・・認知症の老人が現実の世界へ戻っていく・・・

▪️「雨上がりの駅で」
19歳の少女が、ある認知症の老人の見守りをするアルバイトを引き受ける。老人は元教授だが、目的もなくあちこちを列車で旅している。少女は孤独で生きがいもなく、自暴自棄な生活をしている。少女は老人の旅に付き添って行くうちに、少しづつ心の交流がが始まる。やがて少女は「生きること」への実感を取り戻していく。老人も空想の旅をやめて現実の世界へ戻ることを決める。

2026年9月21日月曜日

大分の石橋

Stone Arch Bridge 

大分へ石橋を見に行ったことがある。宇佐市の院内という地区には、100 近くの石橋が集中している。すべてがアーチ型の石橋で美しい。渓谷が多い地形で、川が急流のため、頑丈な石橋が作られたという。江戸時代から明治大正にかけて作られものだが、現在も現役で使われている。関東にはアーチ型の石橋は滅多にないが、大分へ行ったらおすすめのスポットだ。



鳥居橋:5連アーチの美しい橋。

両相川橋:棚田の間の農道にかかる長さ10 mくらいの小さい橋。

荒瀬橋:橋脚が18mの高い橋。

水雲橋:深い渓谷の山中にひっそりとたたずむ橋。

2026年9月20日日曜日

「なぜ日本が世界に必要なのか」

Emmanuel Todd 

今月出たばかりのエマニュエル・トッドの「なぜ日本が世界に必要なのか」をさっそく読んだ。前著の「西洋の敗北と日本の選択」に続いて、これからの日本が進むべき道を提言している。

著者の一貫した主張である「西洋の敗北」とは、これまで世界を支配していた「自由主義的西洋」が崩壊しつつあるという意味だ。そのことが現在のアメリカに顕著に現れている。産業やモノづくりをおろそかにした結果、経済力と国力が衰えたアメリカはウクライナ戦争やイラン戦争など戦争で覇権を維持しようとしている。しかもその戦争に敗北しつつある。

著者は、すでに第3次世界大戦は始まっているとしている。そして敗北しつつあるアメリカが日本を助けてくれることは絶対にない。だから日本は自力で国を守るために、アメリカ依存をやめて自立し、「核武装」すべきだというのが著者の一貫した主張だ。そのことが日本のためだけでなく、「世界の平和」に貢献することになるとしている。

「核武装」論については議論のあるところだが、歴史家として日本の歴史と文化を深く研究している著者の言葉は示唆に富んでいる。そして最後でこう言っている。「私はこの本で、日本を愛しているフランス人として、日本人が密かに思っていても口に出せないことを代弁する役割を果たしたつもりだ。」


2026年9月19日土曜日

もう一度「AI はバカだ」論

AI

AI について今まで何度か書いてきたが、それらをまとめてみた。


▪️AI に「月曜日とは何ですか?」と聞くと「日曜日と火曜日の間の日です」と答える。それで「そんな当たり前のことを言って、AI さん、あなたバカじゃないの?」というとAI は「 申し訳けありません。人間の常識の範囲がどういうものかわからずに、単に言葉の上の定義だけで答えてしまいました。」と謝まった。

▪️AI 囲碁ソフトはプロのトップ棋士も負かすくらい強くなっている。しかし自分がパソコンでAIと対局すると100%勝てる。わざとメチャクチャな手を打つと、AI は混乱してしてしまって初心者以下の手を打ってくる。AI は人間の打った棋譜をすべて記憶していて、それをもとに勝つ確率の高い手を打つ。しかし囲碁というゲームの本質を理解しているわけではないので、セオリーに反する手を打たれると、対応がわからず頭が狂ってしまう。

▪️ある映画についてどう思うかをAI に聞いてみたら、世の中に出回っている映画評論をまとめただけで、独自性が全くない。それで「AI さんの言うことはちっとも面白くないですが、自分で映画を見て、その映像やストーリーから感じたことを言っているんですか?」と聞く。すると「申し訳けありません。私は映画を実際に見ているわけではなく、たくさんの論評を字で読んで、それをまとめているだけです。自分の感性で感じたり、考えたりするのは人間だけができることで、私にはその能力はありません。」とこれまた正直な答えが返ってきた。

▪️「美味しそうな料理が並んでいる楽しい食卓の画像を作ってください。」というと、ネットから拾ってきたような写真を出してきた。それで「こんなありきたりの画像でなく、もっと絵画的な感情のこもった画像を作ってください。」というと「すいません、絵画的なというと例えばどんな絵ですか?ゴッホのようなとか、モネのようなとか例をあげてくれると助かります。」と言うので「ピエール・ボナールのような絵を。」と言った、すると「ああピエール・ボナールですね。ボナールは光や色彩の美しさで食卓の楽しさを描きましたね」と分かったようなことを言ったが、結局出してきた画像は最初の画像をちょっと加工しただけだった。AI は最初の写真から離れて、オリジナルの画像を作ることはできなかった。


今、絵画でも、小説でも、映画でも、音楽でもAI が人間の上をいくのでは、というAI 脅威論が盛んだが、AI は創造力などまったくない。むしろ、AI の言うことを何でもありがたがって、自分で感じたり考えたりしない人間が増えて、人類が AI 化してしまうことのほうが怖い。

改めてピエール・ボナールの絵を見ると、人間の創造力の素晴らしさを実感する。

2026年9月18日金曜日

霧の風景

 

夏の日の早朝に、高原などの標高の高いところへ行くと霧に出会える。伊豆高原の別荘地の霧の朝を描いた。(遠くに見えるのは自分の車)


北海道のニセコへ行ったとき、霧を見ようと思い、早朝に起きて散歩に出かけた。登り始めた太陽が霧で霞んでいる。それが水面に反射して、目玉焼きのように見える。



2026年9月17日木曜日

北極の地図

 Arctic Map

トランプ大統領が「グリーンランドをアメリカの領土にする」と言って世界中からひんしゅくを買っている。アメリカとロシアが向かい合っている北極海にあるグリーンランドはアメリカ本土防衛の最前線になっている。特に近年は地球温暖化で、北極海が航行可能になり、アメリカ本土がロシアの軍艦からのミサイル攻撃の射程内に入るようになった。トランプのような考えは、北極を中心とする地図があって初めて気づくことで、通常の世界地図からは気付かない。

昨日書いた「世界をまどわせた地図」は、現実とは違うウソの地図を収録している面白い本だが、その中に17世紀の北極圏の地図が紹介されている。

1606年に描かれた北極点を中心にした地図。円の周辺右側がユーラシア大陸で、左側がアメリカ大陸だが、中央に大きな島(黄色部分)が描かれている。

この島はもちろん実在しないが、島の真ん中に丸い内海がある。その内海の中央に山が描かれている。これは「黒い岩」と名付けられている。

当時は、北極には磁石でできた巨大な山があると考えられていた。方位磁石が北を指すのは、その山の磁力によるといわれていた。その山がこの「黒い岩」だ。

岩のふもとの内海には巨大な渦が巻いていて、そこで海が割れて大洋の海水が吸い込まれる。その海水は、地球を通り抜けて、南極から噴き出すと考えられていた。


2026年9月16日水曜日

「世界をまどわせた地図」

The Phantom Atlas

「世界をまどわせた地図」という本が面白い。古い時代の、現実とはかけ離れたとんでもない地図を収録している。

伝説に伝えられている島を探そうと航海に出かけた冒険者たちが、そんなものは見つからなかったにもかかわらず、それを発見したと言って、その詳細な地図を作った。ペテン師たちの、功名心や金儲けのための嘘の地図だった。

しかし世界に関する正しい情報が少ない時代に、それらの地図は何世紀にもわたって受け継がれて、そこに描かれた世界が真実だと信じられ続けてきた。


日本の地図も出てくる。ヨーロッパで初めて出版された日本の地図で、オルテリウスという人の「世界の舞台」(1595年)に収録されたもの。日本の地理のイメージを作るのに貢献した地図だった。日本と交易をしていたポルトガル人が日本人から正確な情報を得ていたので、比較的正しく日本が描かれている。

それに対して朝鮮半島はニンジンのような形の島になっている。島の南端は「泥棒たちの岬」と表記されている。この海域には海賊が暗躍しているという当時の噂を反映していた。


上の地図からしばらく後の、ヨハネス・ヤンソンという人の「日本最新精密地図」(1658年)の日本地図。上の地図では無かった北海道が描かれていて「蝦夷島」と表記されている。しかしその形は千島列島と一緒になったような奇妙な形だ。

面白いのはその「蝦夷島」の右に巨大な島が描かれている。(左半分だけが見える)その島は「カンパニーズ島」と名付けられている。ある貿易船の船長が、日本の北で島を目撃したという証言したのがそのまま地図に載ってしまった。

その島には、金と銀が豊富にあるという噂が生まれ、日本の東のどこかにあるという幻の島を見つけようとする冒険家がたくさん現れた。しかしそんな島は見つからず、それが嘘だと証明されたのはなんと18世紀になってからだったという。100年以上も「世界をまどわせた地図」だった。