Fabrizio Clerici
印象派のように19 世紀の絵画は、美しく平和なものとして世界を描いた。しかし20 世紀になると、戦争やパンデミックや気候変動などが人間の文明を脅かすようになり、楽観的に世界を描くことができなくなった。20 世紀の現代画家はそういう世界観に立って描いたが、その一人がイタリアのファブリツィオ・クレリチだった。クレリチは文明が滅びて人間がいなくなり、過去の遺跡だけが残った無人の世界を描いた。
「水のないヴェネツィア」(1951) ヴェニスは、ラグーン(干潟)に無数の杭を打って、その上に島を作り、それらを橋でつないで作った町として有名だが、気候変動で海水の水位が下がり、杭がむき出しになった街を描いている。手前には沈んだ船の残骸が見える。
「太陽の舟」(1976) 巨大な木造船が骨だけが残って朽ちている。ノアの方舟ではわずかの人間だけが救われ、新しい世界を作ったが、この方舟は人間を救うことなく、無人になった世界とその文明の残骸だけが残っている。
「ローマの眠り」(1955) 滅びた古代ローマの廃墟の風景。栄華の歴史を物語る残骸が散らばっている。横たわっている彫像があるが、今では永遠の眠りについている無人の光景。