「The Inheritors」
「後継者たち」を数年ぶりで再読。ウィリアム・ゴールディングが 1954年にノーベル文学賞を受賞した作品。前々回書いた映画「蝿の王」の原作(小説も同名の「蝿の王」)に次ぐ作者の第2作目で、「蝿の王」と同じ思想が底流にある。初めの人類はネアンデルタール人だったが、5万年くらい前に滅亡して現在の人類種であるモサピエンスに交代したが、この小説はその人類交代の始まりを描いている。
小説は、ある架空のネアンデルタール人とその仲間の物語で、彼らは純真で無垢そのもので悪意というものが全くない。仲間どうしが助け合う平和な生活を送っている。そこへ「新しい人」(ホモサピエンス)がやってくる。彼らは格段に優れた知能と技術を持っていて、ネアンデルタール人の住む食べ物が豊富な土地に侵入し、生活圏を奪っていく。
ネアンデルタール人は、川にさえぎられた狭い地域に住んでいて外へ出ることができない。ところが「新しい人」たちは川を丸木舟に乗ってやってきた。それを見てネアンデルタール人はびっくり仰天する。この小説で面白いのは、「新しい人」たちが丸木舟を作る過程を詳しく書いていることだ。太い木を切り倒して枝を払い、小さい丸木をローラーにして転がして運び、川のそばで幹の中をくり抜いて丸木舟にする。それを複数の人間が協力し合ってやる。それはネアンデルタール人には思いもつかなかったことでただ茫然と見ている。
舟を作りはじめる時リーダーは「頭の中に絵が見える」と言う。つまり、この世にまだ存在していない舟というものを頭の中で想像し、その形を実際の物として作ってしまった。まさにこれは「デザイン」だ。ネアンデルタール人は実際に眼で見える物、手で触れる物しか認知できないが、ホモサピエンスは実際に存在しない物を頭の中に思い浮かべることができるようになった。この脳の働きの変化は「認知革命」と呼ばれている。
ホモサピエンスの認知革命によって、現在に至る文明の発展をもたらしたが、同時にそれは欲望と征服という悪をもたらした。丸木舟は空母や潜水艦に発展し、戦争ばかりの現代に繋がっている。それがゴールディングがこの小説で言いたかったことだ。
