現在公開中の、ロンドンの名門美術館の裏側を生々しく見せるドキュメンタリー映画です。美術館とはどういうものなのか、知っているようで知らなかったことばかりで、ひき込まれてしまい、3時間という長さがあっという間でした。
美術館で働く様々な分野の専門家たちの仕事が紹介されていますが、ひとつだけ例をあげると、絵画修復の専門家のインタビューが印象的でした。修復といえば、汚れや傷を直して、もとの状態にもどす仕事、というイメージしかなかったのですが、実際はそんな単純なものではないことが分かります。どう修復するべきか、それは元がどういう絵だったかについての解釈の仕方によって違ってくるのです。古い絵は、過去にも修復を受けてきたが、今の眼で見ると間違った解釈で修復されている場合が多いそうです。今、自分がやっている修復も、現代の解釈をもとに行っているのであって、それはこれからも永久に正しいとは限らない。だから、修復に使う薬品や絵の具は固定せず、あとで簡単に洗い落とせるようにしておくのだそうです。
学芸員が来館者に「単に名画として(ありがたがって)見るのではなく、絵とあなたとの関係性を見つけてほしい」と訴えています。絵の価値は絶対不変ではなく、時代とともに、見る人とともに、変化していくものである、という考え方がこの美術館の基本にあるようです。修復専門家の話も、そのひとつの現れだろうと思います。
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