2023年11月25日土曜日

映画「ヒッチコックの映画術」

Alfred Hitchcock 

ヒッチコック自身が自らの映画術を語る興味深い映画が公開されている。ヒッチコックファンとしてさっそく観た。

冒頭で、映画は演劇と何が違うかについて語る。演劇は舞台と観客席がはっきり区切られていて、舞台で演じられている世界を観客は第三者的に外から眺めている。しかし映画は、観客が映画の世界へ入っていき、映画の一部になるような体験をすることができる。ヒッチコックは観客を映画の中に ”引きずりこむ” 演出を様々に工夫する。

一例として、「舞台恐怖症」という映画で、男が、いわくありげな家へ入っていくシーンでドアを閉めない。カメラは男の後をついていくので、観客は自分も男と一緒に家に入った感覚になる。その後で「バタン」とドアが閉まる音だけが加えられる。観客を映画に ”引きずりこむ” 演出だ。


引きずり込んでおいて、登場人物が経験しているのと同じ感覚を観客にも感じさせる。それは ”幻影” なのだが、観客もそれを求めて映画館に来る。サービス精神旺盛なヒッチコックはそれにこたえる。「めまい」の主人公は極端な高所恐怖症なのだが、観客にも「めまい」を起こさせるような巧みな映像が随所に出てくる。


観客を騙すのもヒッチコックの得意技で、監督はそのことを面白がっている。「断崖」で、刑事が容疑者の家に聞き込みにくるシーン。玄関を入るとピカソの静物画が飾ってあり、それを刑事が立ち止まって、しばらくの間じっと見つめる。刑事は帰りがけにももう一度振り返ってこの絵に視線を投げる。サスペンス映画だから当然、観客はこの絵がこれから起きる事件の何かの「伏線」だろうと思う。ところが終わってみると、この絵は最後までストーリーと何の関係もなかったことがわかる。思わせぶりな演出で観客が騙されることを監督は楽しんでいる。



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