ユヴァル・ノア・ハラリの人類史「サピエンス全史」が全世界で超々ベストセラーになったが、今度は、同じく人類学者 エマニュエル・トッドの人類史「我々はどこから来て、今どこにいるのか」がベストセラーになっている。
ハラリの「サピエンス全史」では、人類史は、人間を脅かす「戦争」「飢餓」「疫病」の3つを克服してきた歴史であると捉え、現在それらはほぼ達成しつつあると主張している。 しかしその直後にウクラウイナの「戦争」、アフリカの「飢餓」、コロナの「疫病」が起こり、それぞれたくさんの死者が出て、その根拠が揺らいでしまった。
対してトッドは、「第三次世界大戦はもう始まっている」「西洋は没落に向かっている」などと楽観的ではない。その人類史は斬新で、各国各時代における「家族構造」が「政治体制」を決定づけてきたという。例えば、長男だけが家を継ぐ「直系家族型社会」の国では、親子関係は権威主義的で、兄弟間は不平等で、女性のステイタスが低い。ドイツ、日本、北欧、などがその類型だという。だからドイツでも日本でも、女性が子供の養育に集中するため子供の教育レベルが高い。その代わり女性の社会進出率が低い。また家を継がない次男・三男を自立させるために高等教育を受けさせる率が高く、それが日本とドイツの科学技術力の高さにつながっている、・・・などなどの分析をしている。
ロシアは「共同体家族型社会」の国で、家族全員が大きな共同体を作っている。西欧のような完全個人主義と違って、家族のあっての個人だという家族観があるという。だからプーチン大統領が、ウクライナはロシアと同じ家族の一員なのに、そこから離れて西欧社会へ行ってしまうのは許せないと考えるのはごく自然なことだという。そして、そのロシアの伝統的価値観を西欧が壊そうとしているという危機感がある。しかし、国民の結束力が強く、教育レベルが高く、科学技術力が高く、女性のステイタスが高いロシアは決して滅びることはないとトッドは言う。
この本の上下2巻の表紙をつなげると1枚の横長の絵画になる。これはゴーギャンの「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という題名の絵で、人間の一生を描いている。右側の女性と子供は生命の始まりで、中央の若者は成人期、左の老婆は終末期を表している。しかしこれは人間の一生に例えて、人類全体の過去・現在・未来を描いているといわれる。奥にいる青い彫像は、人類の行く末を決めている、人間を超えた存在の象徴だという。西洋の文明社会を捨てて、原始社会のタヒチへ渡り、生涯をそこで終えたゴーギャンの世界観を表した絵だとされる。
西洋は没落へ向かっているというトッドの世界観と重なっている絵で、だから本の題名を、この絵の題名から取っている。
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