2014年7月3日木曜日

ワイエスの「クリスチーナの世界」

この絵をずっと昔の若い頃、ニューヨークの近代美術館で見たが、どうも違和感を感じたというか、あまり好きになれなかった。その頃すでにワイエスのファンになっていて、彼の作品が大好きだったのに、最高傑作といわれるこの絵だけは「?」だった。その後、彼の画集を見る時にも、この絵はいつもパスしてきた。


なぜそう感じるのか、自分でも説明できないでいた。ただ、映画の1シーンを見るようなドラマチックな雰囲気が関係しているとは感じていた。しかし最近になってアメリカで活動していた画家 • イラストレーターの津神久三という人(帰国後、わが母校の教授もつとめた)の本を読んで、その点が明快に分かった。

アメリカ絵画について書いた「画家たちのアメリカ」という本で、ワイエスを取り上げている。その中で津神さんも初めてこの絵を見たとき感じたことを書いているが、それは僕の場合とまったく同じく「?」だったそうだ。そして、理由をこう言っている。「作り事めいたわざとらしさ」「過剰な文学性」「絵に物語は必要ない」などという言葉で説明しているが、とても納得させられた。物語を視覚的に説明するのが「イラストレーション」だが、「絵画」がそれと同じになってしまってはいけない、という言い方もしている。とはいえ、この作品は特異な例で、ほとんどのワイエスの作品は物語の説明ではなく、精神的なものを語りかけてくる。だからそれらは素晴らしい。

ついでに。この本に面白いことが書いてある。それは近代美術館が実は内心「クリスチーナの世界」を売りたいのだが、それができないということ。近代美術の総本山である美術館がこの絵を展示していることのギャップのためだが、すでにこの絵がこの美術館の目玉作品になってしまっているため、やめるにやめられない、ということだ。


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