2026年10月3日土曜日

ノーベル文学賞作家の「北は山、南は湖、西は道、東は川」

Mountain to the North,  a Lake to the South,  Paths to the West,  a River to the East

去年(2025年)のノーベル文学賞は、ハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースローが受賞した。 この人は、同じくハンガリーのタルベーラ監督の映画「サタンタンゴ」や「ニーチェの馬」の原作者だ。タルベーラ監督の映画が大好きなので、ラースローの小説を読みたいと思った。ただ日本語に翻訳されているのは「北は山、南は湖、西は道、東は川」だけだった。

この本を買おうと思ったが、すでに絶版になっていて、6万円ものプレミア価格がついている。図書館で借りようとしても、貸し出し予約者が数百人もいる順番待ちだった。今月、新訳の再版本が出て、1年遅れでやっと読むことができた。

作者はかつて京都に長期間滞在し、京都の建築や庭園を研究していた。その経験にもとづいてこの小説を書いている。

この長い題名は、四方をこの地形で囲まれている京都の街を指している。主人公は源氏物語の光源氏の君の孫で、千年前に存在したといわれる美しい庭園を探して京都の街をさまよい歩く。しかしその庭園があるはずの寺には破壊と荒廃の跡があり、脅威や不吉な兆しに満ちている。結局、光源氏の君の孫は求めた庭園を見つけることができなかった。

小説の中で、寺や仏像や庭園の描写に混じって、現代の京都の姿を事細かに描写している。京阪電車の駅や、自動販売機などが何度も登場する。はっきり書かれてはいないが、それらもまたかつての京都の街の破壊と荒廃の象徴だと示唆しているように思える。

文体が特異で、句点(。)がほとんどなく、短い文章を読点(、)でつないでいき、1センテンスが3ページくらいにわたって延々と続く。曖昧な表現や、矛盾した言葉のつながりなどで、読者を惑わせる。人物や風景の輪郭が曖昧で、幻覚を見ているような不思議な感覚になる。それは映画「サタンタンゴ」を見る時と共通する感覚だ。


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