Trompe-loeil
落語に「抜け雀」という話がある。ある宿場町の宿屋にみすぼらしい男が泊まる。ところが男は毎日一日中部屋に閉じこもって酒ばかり飲んでいる。一週間ほどたって帰ることになるが、宿泊料を払う金がない。代わりにといって男は襖に5羽のスズメの絵を描く。すると翌朝スズメは飛び立っていなくなり、夜になるとまた戻ってきて絵の中に収まる。描いた男は狩野派の絵師だったのだ。この絵を見たいといって来る人がいっぱいで、宿屋は大繁盛する・・・絵が本物そっくりの迫真性があり、スズメに魂がこもったようであることを誇張して、落語のネタにしている。この話は、狩野派の狩野信政が知恩院の襖に描いた「抜け雀」という襖絵がもとになっているという。スズメが飛び立って、その跡だけがかすかに描かれている。
ヨーロッパでも似たような話がある。ギリシャ神話で、ゼクシウスという画家が壁にブドウの絵を描くと、あまりに本物そっくりだったので鳥が飛んできて食べようとした。この逸話は「だまし絵」の始まりとしてよく引き合いに出される。「だまし絵」はフランス語で「トロンプ・ルイユ」と呼ばれるが、それは「目をだます」という意味だ。
なお落語には続きがあって、後日ある人が宿屋を訪れて、絵には足りないところがあると言って加筆した。それは鳥籠で、スズメが休むところがないと早死にするからと言うのだ。実はこの男はスズメを描いた男の父親で狩野派の大先生なのだ・・・
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