Texture perspective
人間は環境を「視知覚」で認識しているが、J. J. ギブソンの名著「生態学的視覚論」は、そのメカニズムを詳しく研究している。その中に「肌理(きめ)」の話が出てくる。ガラスのように均質で滑らかな面の物質は例外的で、ほとんどの物質の表面は細かい斑点状の肌理をもっている。写真はギブソンがあげているいろいろな物質の肌理の例。(木目、雲、草、布地、水面、小石)

絵画で遠近法といえば、普通は「線遠近法」だが、他にも「空気遠近法」など色々な種類があるが、「肌理の遠近法」もそのひとつ。草原の草や、砂利道の石などによる地面の肌理(きめ)を、近くを大きく粗く、遠くを小さく密に描くと、人間は遠近感を感じる。右はその原理図。建物などの直線要素がない風景では線遠近法が使えないから、この方法が役に立つ。「肌理の遠近法」を使った絵画の例を探してみた。
ゴッホの「夕日の麦畑で種子をまく人」は分かりやすい例で、手前と遠景とで、麦畑の地面の肌理の粗密を変えて、遠近感を出している。
ワイエスの「クリスティーナの世界」は、草原の手前の草を一本一本細かく描いているが、遠くはイエロー・オーカーのほぼ均一な色面になっている。
水面の肌理の例は、モネの「ラ・グルヌイエール」がある。手前のさざ波が荒く、遠くへいくほど細かく密になっていく。
ピサロの「ルーヴシェンヌの乗合馬車」は、雨に濡れた道路が光を反射して、美しい肌理が見えている。
ミレーの「子供達に食事を与える女性」の家の石壁で、手前の肌理が粗く、向こうにいくにつれて細かくなっていく。
比較のために、「肌理の遠近法」を使っていない例として点描画のスーラの「グランド・ジャット辺のセーヌ川」をあげる。同じ大きさの点を、同じ密度で全体を埋めていて、肌理が均一になっている。だから奥行き感のない、平面的な絵になっている。スーラが、空間より色彩を重視しているためだ。
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