2023年5月12日金曜日

”パステル調”の間違い

 Pastel Painting

日本で「パステルカラー」という言葉が世に広まったのは戦後のことで、ファッション業界が流行色のひとつとしてプロモーションしたからだったという。そこから絵画でも「パステル調」という言葉が一般化して、パステル画を ”パステル調” で描くと「パステル画らしい」と褒められることになってしまった。それで街のパステル画教室でもそういう "パステル画らしい" 描き方を一生懸命教えている。日本だけの ”ガラパゴスパステル画” だ。

そもそもパステルは顔料の粉を固めた画材だが、発明したのはレオナルド・ダ・ヴィンチで、素描にパステルを使っている。この「衣装の習作」は、白と黒だけで明暗の階調を描いている。衣装のように定まった形がなく、輪郭線では描けない物はこのように明暗で立体感を表現するしかない。これをパステル以外で描くのは難しい。


カラーペーパー上に、パステルの白と黒だけで描く手法が車のデザイン画で応用された。ダ・ヴィンチの衣装と同じで、曲面だらけの車の形は輪郭線だけで表現することはできないから、明暗で3次元の曲面を表現する。車に当たった光が強く反射しているハイライト部分を白で描くので「ハイライト描法」と呼ばれる。


明暗で描くというのはつまり、色や形ではなく、「光」で物を描くということだ。19 世紀になると、たくさんの画家が素描ではなく、タブローとしてパステル画を描いたが、ドガはその代表で、光で形を描くというパステル画の特徴を最大限に生かしている。


現代のパステル画の例として、アメリカのリチャード・ピオンクという人の静物画をあげる。やはりほとんど光だけを描いている。ハイライト以外の部分は暗闇に沈んでいる。もちろん日本式 ”パステル画らしさ” などまったくない。


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