2023年2月11日土曜日

美術作品のネットワーク地図

 Aby  Warburg's Memory Atlas

情報デザインの分野で最近、写真画像どうしの関連性をネットワーク図として可視化する研究がされている。例えば、1枚の写真に同時に写っている2人は友人である可能性が高い。だからこの2人が写っている写真をたくさん集めると、二人を中心にした交友関係のネットワーク図を作ることができる。関係性が近い人ほど近い距離に表示され、関係性の重要な人ほど大きな点で表示される。また点をクリックすると、その人の顔写真が表示される。顔認識や AI などのデジタル技術がこれを可能にしている。


 20 世紀はじめに、これに近いことをアナログ的にやった人がいる。アビ・ヴァールブルクというドイツの美術史研究家で、古今東西の美術に関する自身の幅広い知識をもとにして、古代から 20 世紀にいたる美術作品の図を配置して、それらの相互関連性を可視化した。何らかのテーマのもとに関連する絵画を大きなパネルに配列して表示した。この例では、「情念の過剰化」というテーマで、「ベツレヘムの嬰児虐殺」という聖書の物語を描いた絵を中心にして、それと関連性がある絵が周囲に並べられている。同じテーマのより古い作品や、テーマに関係する新しい作品などで、中央の絵が大きく、周辺に行くほど小さくなるのは、上記の交友関係ネットワークと同じだ。配列の ”アルゴリズム” はヴァールブルク独自の世界観にもとずいている。それは美術史をネットワークとして表す”地図” になっていて、「図版アトラス」と呼ばれる。ヴァールブルクは講演会などでこれを見せながら話したという。今ならさしずめパワーポイントでプレゼンするようなものだろう。


これらのパネルは全部で 79 枚作られたが、原本は失われていて、現在は、ヴァールブルク文化科学図書館に写真が展示されている。なおこれについて「歴史の地震計 アビ・ヴァールブルク『ムネモシュネ・アトラス』論」(田中純著)に詳しく解説されている。

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