2015年10月28日水曜日

オリンピックエンブレム問題と    ロゴデザインについて

例の問題のさなか、佐野氏の原案が公表されたが、これがまたヤン • チヒョルトにそっくりだとさらに大騒ぎになった。この「T」の字の3角形はローマン系書体の「セリフ」がモチーフだが、文字を熟知しているタイポグラフィの第一人者チヒョルトならではのデザインだ。しかし「T」は横線と縦線の組み合わせだくらいに思っていると、こんな発想は出てこない。「文字」を知らないでロゴを作るのは無理だから、つい外国のデザインを「参考」にしたくなるのだと思う。


かつて「SONY」のロゴを更新するために、国際コンペでデザインを公募したことがある。(途中で事情により変更自体が中止になったのだが)これは審査結果を告知する当時の新聞広告だが、ベスト3が紹介されていて、いちばん上が採用予定の案だった。

コンペの審査委員として関わったのでよく覚えているが、この3案の造形レベルとオリジナリティはすごいと思った。作者はそれぞれドイツ人、オーストラリア人、アメリカ人で、日本人はいない。それはデザイナーの能力の問題というより、欧文文字に対する知識の少ない日本人と、アルファベットが体にしみついている欧米のデザイナーとの差だと思う。


欧米のデザイン系大学では文字の勉強を徹底的にやる。「Lettering」という授業で1年間ひたすら文字だけを勉強する。文字の形の成り立ち理解から始まって、オリジナル書体の創作やロゴのデザインまで、知識としてだけでなく、手を動かすことで文字を覚えさせる。そんなアメリカの大学での体験を、当時の課題作品の一端で紹介したい。

書体の元祖 Caslon を幅広のレタリング用鉛筆を使ってフリーハンドの一筆描きで描く練習。無意識で手が動くようになるまで繰り返して体に覚えさせるのは日本の習字の練習と同じ。文字の形の成り立ちが自然に分かってくる。

指定されたワードをトレペに鉛筆で描く。ひとつ描いては先生のチェックが入り、OKが出るまで何度も修正を繰り返す。ぱっと見ると違いがわからないくらい微妙な差だが、文字の美しさを体感できるようになる。最後にボードに墨入れして完成。この工程をいろいろな書体で行っていくとだんだん文字というものが理解できてくる。

応用段階に入るとロゴのデザインをやる。ポイントは文字の基本を守った上で、なおかつ新しいオリジナル書体を提案すること。サムネイルスケッチから始まり、最後にはロゴが製品のエンブレムに使われた状態を想定したレンダリングを行う。


昨今は、手を動かさなくても、パソコンに文字を入力するだけで希望の書体で自動的に文字組してくれる。だからデザイナーは文字の基礎知識と技が身につきにくいし、そもそも文字に対する意識が希薄になっているのかもしれない。デザインにおける文字の重要性を再認識したい。


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