公開中の話題作をさっそく鑑賞。これはおそらく映画史に残る作品になると思います。
暗黒時代とも呼ばれる中世の世界から人間性を解放したのがルネッサンスですが、この映画は架空の話として、ルネッサンスは起こらず、逆に人間が退行していったという設定の物語。学者は処刑され、本は焼かれるという、反知性主義が猛威をふるう世界。愚行を繰り返す無知で狂信的な民衆の姿を生々しく描いています。 彼らの顔は、ボシュが描いた絵(下図)にそっくりです。
映像の力の強烈さを見せつけられる映画です。説明的な要素はほとんど無く、視覚イメージだけで迫ってきます。いつも雨が降っていて、泥と排泄物でどろどろの地面、そこらじゅうに死体が転がっている。人や物の断片だけを写す極端なクローズアップが続き、ストーリーの文脈を把握できる全体映像がほとんどありません。
中世の人たちは、表面的な現象だけを近視眼的にしか見ることができなかったのに対して、ルネッサンス以降、世界を秩序あるものとして統一的に見れるようになったのは、人間が「遠近法」という「世界を見るための手段」を手に入れたからでした。だから、その反対の無秩序な混沌の世界を描いているこの映画では、全体を見通せるような遠近法のある映像を使わずに、あえてカメラは細部だけを脈絡もなく、なめまわすように写し続ける。そんな監督の意図が読み取れます。
右は、人間の愚かさを描いた15世紀の画家ボシュの絵ですが、上のような映画の登場人物たちそのままです。最後で、神の役割の主人公は、愚かな人間どもを抹殺するしか世界に救いは来ないと決意し、大殺戮をするにいたるのです。原題の「Hard to be a God」(神でいるのはつらい)はここからきています。
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