2015年3月14日土曜日

映画「イントゥ • ザ • ウッズ」の    森のイメージ


「イントゥ • ザ • ウッズ」は期待したとおり面白い。ディズニー映画の多くは、「赤ずきん」「シンデレラ」「ラプンツェル」などのグリム童話がもとになっていますが、それらの主人公たちがいっせいに登場し、お互いに交錯しあいます。題名の「Into the Woods」つまり「森の中へ」のとおり、「森の中の出来事」が映画の軸になっていて、映画の主役は「森」だと言っていいでしょう。たしかにグリム童話 • ディズニー映画のほとんどは、女の子が森の中へ入っていって起る物語です。

「森へ行きましょう〜♫」という歌がありますが、この明るいメルヘン調の歌詞は日本人向け、子供向けにアレンジしたもので、オリジナルのポーランド民謡では全く違う歌詞だといいます。それは「森」という異界へ入っていった若い娘が体験した非日常の出来事を歌ったもので、まったくメルヘン調ではないそうです。日本人の森に対するイメージは、牧歌的であったり、癒しや恵みの場所であったりしますが、この映画で、ヨーロッパでの森のイメージがどういうものかを知ることができます。


大野寿子著「黒い森のグリム」は、グリム童話における「森」の意味について研究した本ですが、それによれば、グリム兄弟の国ドイツには「黒い森」と呼ばれる独特の森に対するイメージがあるといいます。「木々が鬱蒼と茂り光を通さない暗い森」「一度入ったらさまようしかない広大な森」「五里霧中で見通しの立たない不気味な森」「どこへ通じているか分からない不思議な森」といった「怖い森」です。映画でそれが見事にビジュアル化されています。


そのような森は、狼や魔女や巨人や小人、あるいは人間の言葉を話す動物などが住んでいる異質で不思議な場所。そしてそれらは人間に危害を加えたりする危険な場所です。これはグリム童話でおなじみです。映画ではメリル • ストリーブの魔女とジョニー • デップの狼が登場します。

ではどうして人はそのような怖い森へ入っていくのか。「黒い森のグリム」によれば、怖いと同時に、森は「冥界へ通じているかもしれない未知なる場所」「夢を探し求める場所」でもあるゆえに、人間は吸い寄せられ、勇気を出して森へ入っていくのです。映画でも、子供を授かりたい夫婦、牛を売ってお金を稼ぎたい少年、おばあさんにパンを届けたい少女、お城の舞踏会に行きたい貧しい娘、など「私の願いを叶えてもらう」ために怖い森へ入っていきます。しかし人間がひとたび森という無秩序な異界の中へ入ると、自分の欲するものを手に入れようとして、強欲や嘘や裏切りなどの悪を行ってしまいます。「黒い森」というのは、じつは人間の心の中にあるものだと、この映画は言いたいのかもしれません。しかし同時に、森の中でのさまざまな試練を経て最後に森の外へ帰還したとき、人間として再生するという善の部分も描いています。

「黒い森のグリム」で指摘しているのは、このような森のイメージがヨーロッパの精神文化の根っこのひとつになっているということです。そこで次回は、森が絵画においてどのように描かれてきたかを取り上げようと思います。




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