2015年2月21日土曜日

映画の中の自動車 (2)          「恋人たち」のシトロエン2CV


「恋人たち」
   1959年、フランス、監督:ルイ • マル、主演:ジャンヌ • モロー

白黒の古い映画です。会社の社長である夫に不満を抱く人妻が、ふと知り合った青年と情熱の一夜をすごし、翌朝、夫も裕福な生活も捨てて青年とともに去る、という話ですが、最初に二人が出会うのがこのシーンで、車が重要な役割をしています。

主人公の車がエンストしてしまい、たまたま通りかかった青年が助けてくれるのですが、彼女の車は中級車の「プジョー203」。これは妻専用の車で、社長の夫はもっと高級車(映画には出てこないが)に乗っているはずです。ちなみにプジョーはモデルチェンジするごとに、車名の三桁目の数字が増えていき、最新モデルでは、「208」まできています。いっぽう、歴史研究者である青年の車は、あの「シトロエン2CV」。簡素な車だが、大衆車として長く愛され続けました。登場人物の職業や地位などを示唆するために車を使うのは映画の常套手段ですが、これもそのひとつで、2台の車のツーショットで二人のステイタスの違いを対比的に表現しています。

最後のシーンで、ジャンヌ • モロー演じる人妻がこのシトロエン2CVに乗って、青年と家を出ていくのですが、駆け落ちはしたものの彼女の心は不安に揺れ動いています。さすがのルイ • マル監督、主人公の心理描写をする手段として車を実にうまく使っています。キャンバストップをオープンにして、光と風を受けて走るときの表情は、自由な生活への夢にあふれているのですが、一方でガタガタと走る狭い車のバックミラーで自分の顔を見るときの曇った表情は、金や地位を無くした、これからの現実生活への不安を表しているようです。

2CV は単なる廉価版自動車ではなく、低コストでありながら、「Less is more」という合理性をつきつめた革新的な設計でした。コルビュジェが描いた車のスケッチを基にしたという説があるほど(たしかに似ている)機能主義的デザインでした。CVはいろいろな映画でよく登場するのですが、登場人物が豊かではないが知的、といった役柄の車として使われることが多いのは、そのためでしょう。この映画はその典型だと思います。

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