ケネス • クラークの「風景画論」という本で、風景画をいくつかの種類に分類している。「象徴の風景」「幻想の風景」「理想の風景」「事実の風景」などだが、このなかの「幻想の風景」の章で、その一例として、レオナルド • ダ • ビンチの「大洪水」という絵をあげている。
荒れ狂い、渦巻く、「水」のすさまじい猛威と破壊力を表わした素描だ。科学者でもあったレオナルドは自然の様々な対象を観察し、その記録として素描を描いた。「水」に関しても、水流や運動などについて詳細な観察を繰り返し、素描をした。このような水の研究の成果を、芸術作品のモチーフに発展させた。ここでは、水の激しい動きが抽象化されて表現され、世界の終末のビジョンという「幻想の風景」が描かれている。
クラークは「幻想の風景」を次のように説明している。自然を、おだやかで美しいものとしてとらえるのではなく、人間がコントロールできないもの、あるいは人間を威嚇し、襲いかかる暴力的なものとして捉え、その恐怖感を表現したのが「幻想の風景画」であると。上のレオナルドの素描は、その特徴をよく表している。
いろいろな「幻想の風景」の例が紹介されているなかで、「ディズニーのアニメ映画」が現代において「幻想の風景」の流れを汲むものとしてあげられている。本では具体的な作品名が示されていないので、最新作「アナと雪の女王」の風景をあらためて見てみた。なるほど、自然の恐ろしさを描いた風景がいたるところに出てくる。
雪の女王の城は、人間が近づくことを拒絶するような恐ろしげな山の上にあり(上)、近づこうとする人間には巨大な氷の剣が襲いかかる(中)。そして氷によって押しつぶされた難破船が凍りついている(下)。他のディズニー映画でも、暗く不気味な森に少女が迷いこんだりするシーンがよく登場したりする。自然は愛でるべき美しいものであるという日本では、このように自然を怖いものとして描く伝統はあまりないが、ケネス • クラークは、とくに北欧の絵画に、人間の自然に対する不安と恐怖を描く「幻想の風景画」の長い歴史があると言っている。そう言えば、この映画の原題は「Frozen」、つまり「凍りついた」世界がテーマであることが分かる。
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