2026年9月29日火曜日

ジェームズ・ローゼンクイストの反戦絵画

 James Rosenquist  「F-111」

反戦絵画の名作といえばピカソの「ゲルニカ」や、ゴヤ」の「銃殺」などがある。新しいところでは、1960年代のポップ・アーティストのジェームズ・ローゼンクイストの「F-111」という作品が有名だ。幅 26 m という超大作で、ニューヨークのMoMA に、部屋を囲む4面に展示されている。


当時続いていたベトナム戦争反対をテーマにした絵画で、題名は、ベトナムで爆撃に使われていた戦闘機「F-111」からきている。さまざまな身近な物が戦闘機のシルエットと組み合わされている。少女の笑顔、スパゲッティ、ケーキ、車のタイヤ、電球などの、市民の豊かな消費生活を象徴する物たちだ。

市民たちは平和だと思っているが、実際にはアメリカの戦闘機が人を殺していることを想えというメッセージが込められている。

反戦ポスターのように「NO WAR」といった直接的な文字を描き込まなくても、強いメッセージを訴えることができるのが絵画の力だ。


2026年9月27日日曜日

映画「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」

Do You Hear The People Sing 

この間の米中首脳会談の晩餐会で、楽団が映画「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」を演奏したという面白いニュースがあった。「民衆の歌」は、圧制政治に対する反政府抗議運動のシンボルのような歌で、中国では禁止されているという。それをあえてトランプ大統領が演奏させたとすれば、習近平氏への当てつけのように思える。

映画「レ・ミゼラブル」は、民衆が貧困にあえぎ、政府の圧政に苦しんでいた時代、国民が蜂起して動乱を起こした事件を描いていた。そのシーンで人々が歌ったのが「民衆の歌」だった。道路にバリケードを築いて、制圧しようとする軍隊と銃撃戦になる。そのシーンで、民衆が「民衆の歌」を力強く歌う。その日本語訳は

  戦う者の歌が聴こえるか
  鼓動があのドラムと響き合えば
  新たに熱い生命が始まる
  明日が来たとき そうさ明日が

映画のそのシーンの映像→ https://www.youtube.com/watch?v=qSg4D8fleTw


横浜クラシックカー・ラリー

Classic Car Rally 

毎年行われるクラシックカー・ラリーは、往年の名車が横浜市内を走るラリーで壮観なイべントだ。なかでもいちばん人気は「ブガッティ」だ。数年前に見物したときは、ブガッティが3台くらいエントリーしていた。1920 年代のイタリアの小型2シーター・オープンカーで、馬蹄形のラジエーターグリルが特徴のおしゃれな車だ。ドライバーもレトロなドライバー服でコスプレして楽しんでいる。



2026年9月26日土曜日

池田学の「メルトダウン」

IKEDA Manabu 「Meltdown」

池田学が東日本大震災の津波をテーマに描いた「再生」について前回書いた。池田は同じ頃、福島原発のメルトダウンをテーマにした「Meltdown」を発表している。この絵も自然の強大な力によって破壊されつつある人間の文明の危うさを描いている。アポカリプス的世界観は池田の全作品に共通している。

「Meltdown」は宙に浮いた巨大な岩のかたまりが、坂の途中に不安定に止まっている。その岩の上に人間の文明が築かれている。そこには工場があり、人間の居住区もある。それらは岩にこびりついたフジツボのようだ。

全体図。壮大な構成だが、この絵もペンだけで細部を細密に描いでいる。

右上の部分拡大。天空に浮いた巨大な原発の工場。

左下の部分拡大。岩にしがみついたような人間の住宅が見える。


この絵はブリューゲルの「バベルの塔」を思い出させる。巨大な絵だが、細部には塔を建設している労働者たちが細密に描かれている。天まで届く塔を作ろうとした人間の傲慢さが神の怒りをかい、塔は未完に終わるという聖書の物語を描いた絵だ。

池田学の原発の事故をテーマにした「Meltdown」も、原発というヒューマンスケールを超えた神をも恐れぬ技術が、神ならぬ津波という自然の怒りをかって罰を受けたという寓意が込められているにちがいない。


2026年9月25日金曜日

池田学の津波の絵

Manabu Ikeda 「Rebirth」

連日 TV で千葉の洪水の映像を見ていて、池田学の絵画を思い出した。個展「The Pen」展(2017 年)のなかで、東日本大震災の津波をテーマにした代表作「再生」があった。図録の表紙(右図)にも使われている。

東日本大震災の翌年から3年かけて制作された3m ×  4m の大作だが、ペンとインクだけで描かれている。全体を離れて見ると、津波に襲われた巨木が再生して、花が咲いている美しい光景のようだが、そうではない。細部を細かく見ていくと、さまざまなことが細密に描かれている。それは作者のアポカリプス(終末論)的世界観の表現だ。

「再生」の全体図。老木の根本に津波が押し寄せているが枝は花を咲かせている。
「破壊と再生」という壮大なテーマだ。

中央下部の部分拡大図。壊れた建物や看板があり、
グニャグニャに曲がった線路などが見える。自然の力で崩壊した文明を表している。

中央部分の部分拡大図。老木の根っこに目玉があって、不気味な怪獣のように見える。
ガレキは、怪獣に喰われた人間の内臓のようだ。

2026年9月24日木曜日

千葉の台風被害と印旛沼

Inbanuma 

今度の台風で千葉県が大きな被害を受けた。特に佐倉市周辺が浸水でひどかったようだが、原因は雨で印旛沼の水位が上がり、堤防が決壊し、溢れた水が周囲へ流れたためだったようだ。

印旛沼へは何度も行ったが今までにそんなことは一度もなかった。周囲は見渡す限りどこまでも田んぼが広がっている。特に何もない、静かな田園風景が好きだった。そんな風景を眺めながら印旛沼で獲れた鰻を食べることができる美味しい店があるのも行く目的だった。

印旛沼へ雨の日に行ったこともある。ジトジトと降り続ける暗い日だが散策をしていると、朽ちた舟があった。もちろん今度の台風のように増水して水没したわけではない。


2026年9月23日水曜日

フェルメールの「地理学者」と日本

 Vermeer "Geographer"

15年ほど前にあった「フェルメール『地理学者』とオランダ・フランドル絵画展」の図録で、フェルメールの『地理学者』について詳細な解説がされている。

17 世紀のオランダは世界貿易で栄えた商業の中心地だったが、その影響で、地図作りが盛んに行われた。フェルメールの『地理学者』も地図を作っている地理学者を描いている。科学的に正確な地図を作っていることが、手に持ったデバイダーからわかる。

地図に対する市民の関心も高く、フェルメールの絵には、室内に地図が飾られていることが多い。地図は実用品と同時に、装飾品でもあった。

『地理学者』にも背後の壁に地図が飾られている。左半分しか見えていないが、この地図の実物が現在も残っているという。それが右の地図で確かに同じもののようだ。上が西になっているのでわかりにくいが、ヨーロッパを中心にした大西洋の海図だ。

この地図を作ったのは、オランダのファルクという当時世界最大の地図・地球儀の制作者だったという。

ファルクの作った世界地図は、江戸時代に日本にも伝わっていたそうだ。これがファルクの「アジア図」(神戸市私立博物館蔵)だが、北海道が奇妙な形になっている。

この地図は影響が大きく、日本でもこれをもとに地図が作られた。「世界4大洲図」は、4大陸の地図だが、下はそのうちのアフリカ大陸とアジア大陸の図。各地の風俗が描かれているが、地図そのものはファルクとまったく同じだ。日本の北海道が変なのを含めて同じように描かれている。

なおフェルメールの絵で、棚の上に乗っている地球儀もファルクの制作によるものだが、同じものが江戸時代に入っていて、今も現存している(松浦資料博物館蔵)そうだ。