2025年12月12日金曜日

福音派

 Evangelical

いまのトランプ大統領の政治はメチャクチャのように見えて理解不能だが、最近出た「福音派 - 終末論に引き裂かれるアメリカ社会」という本を読むと、そのわけがよく理解できる。題名のとおり、いま絶大な影響力を誇るアメリカの宗教団体「福音派」が勢力を伸ばし、単なる宗教の会派を超えて、巨大な政治勢力になっていること解明している。

「福音派」は、トランプ大統領の最大の岩盤支持層だから、トランプ大統領の政策も「福音派」の思想を忠実に実行している。人種差別政策や、排外主義政策や、反イスラム・親イスラエル政策などにそれが表れている。

「福音派」の思想は、聖書の教義を忠実に守ることにある。異教徒の攻撃によって、自分たちキリスト教徒が危機に直面するという聖書の「終末論」を信じている。だから異教徒の敵と闘い、打ち勝って神に約束された自分たちの土地を守るべし、という聖書の教えを信じる思想だ。それが上記のようなトランプ大統領の政策に反映されている。

このような「福音派」の極右的な思想が、トランプの「アメリカファースト」のナショナリズと結びついた結果、現在のような分断国家アメリカを生んだ、というのがこの本の趣旨で、題名の「福音派 - 終末論に引き裂かれるアメリカ社会」はそのことを指している。


2025年12月11日木曜日

電柱は犬の SNS?

 

ある人が面白いことを言っていた。「電柱は犬の SNS だ」。犬は散歩の途中で電柱があると必ず匂いを嗅ぐ。匂いで犬友と情報交換をして、自分も「いいね」のシャーをする。だから犬にとって電柱は、人間の SNS と同じというわけだ。

これを言った人、もしかしたら本当は逆に、こう言いたかったのかもしれない。「人間の SNS なんて、犬の電柱みたいなものだ」😅


2025年12月10日水曜日

よくお勉強する国会議員

 Election

今の国会、いろいろと話題が多くて盛り上がっているようだが、それで今夏の参院選のことを思い出した。候補者が街頭演説をやっていると、ヒマな年寄りなので熱心に聞く。演説が終わると、候補者が聴衆一人ひとりに握手を求めてくる。

自分もニコニコして握手をしながら質問する。「いま、物価高で苦しむ国民のために消費税減税をするとおっしゃってましたが、社会保障費 100 兆円の財源はほとんどが消費税ですよね。だから消費税減税をすると年金支給額も減ってしまうんじゃないですか? 私は年金生活者だけど、どうしてくれるんですか?」と聞いてみる。イヤミな年寄りだと思われるのはわかっているが、候補者のレベルを見極めることができる。

そのなかで、とんでもなく面白かったのがこの答えだった。「エーとあのー、それはですね、エーとエーと、いま党内で勉強会を開いて勉強しているところです。」 これには思わず「はぁ?」と絶句してしまった。

ちなみにこの候補者は当選したから、今の国会に出ているはずだが、お勉強は済んだだろうか?


2025年12月9日火曜日

AI のバイアス

AI bias 

 AI の普及で最近、企業が学生の採用にまで AI を使い始めていて、学生がオンラインで AI の面接を受けている。人間が面接すると、例えば女性の場合、容姿が評価に影響するなどの偏見が生じやすい。しかしAI が面接すれば、そういうことがなく、公正・公平な評価ができるというのが AI を使う理由になっている。しかし本当にそうなのか多くの疑問が指摘されている。

そもそも AI は人間が作ったデータベースを学習して、それをもとに物事を判断する。だから、データベース自体に人間の偏見がまぎれこんでいると AI もそれを学習して偏見のある判断をする。アメリカのある企業が求職者の採用の AI アプリを開発したが、年齢や性別や人種などに対する、人間の偏見の影響を取り除けなかったという。

だいたい以上のようなことを半年ほど前に書いた。(「AI が面接?」2025. 5. 1.)→ https://saitotomonaga.blogspot.com/2025/05/ai.html


先日、この問題について、人間の偏見(バイアス)が AI の判断に入り込まないようにするデータベースをソニーが開発したという報道(日経新聞、12 / 3)があった。従来は例えば女性の写真を AI に見せて、「この人の職業は何?」と尋ねると、その顔がおばさんぽかったりすると「主婦」と答える。「主婦」のイメージに対する人間の固定観念が AI に反映しているからだ。この新しいデータベースでは、「主婦」の写真を、人種・性別・年齢・容姿などの偏りなく収集して、 AI が偏見を持たないようにしている。それを「脱バイアス」のデータベースと呼んでいる。



2025年12月8日月曜日

一点透視の ”崩し方”

 Convergence of one-point perspective

「How to Use Creative Perspective」という本は、題名からもわかるように、上級者向けの遠近法の解説書で、遠近法の基本を教えるというよりも、その応用のしかたについて書いている実践的な本だ。

前回、ゴッホの「アルルの寝室」の遠近法について書いたが、それにピッタリ該当することがこの本にのっている。下図のような、室内を一点透視で描いた絵で、ゴッホと同じように遠近法を”崩す”描き方について書いている。


上の図は、一点透視のルールどうりで、正面の壁が垂直水平の長方形になっている。消失点は正面の壁の中央あたりにある。

中の図は、見る人の視点をやや右にずらしている。そのため正面の壁が台形になっている。だから壁の上と下のラインは左側に向かって収束(convergence)していて、画面の左のはるか外にもう一つの消失点が生じている。だから一点透視でなくなっている。一点透視のルールからはずれているが、しかしそのことによって絵に動きが生じ、ルールどうりで静的な上図に比べて、絵として面白くなる。まさにゴッホがやったことだ。

下の図は、左方向への収束を強くしすぎた悪い例で、あちこちのスケール感が狂ってしまっている。例えば右側の家具が女性よりも大きくなってしまっている。それは一番上の図と比べるとよくわかる。

2025年12月7日日曜日

ゴッホの「アルルの寝室」の遠近法

Van Gogh's Bedroom

ゴッホは親友のゴーギャンとしばらく同居していたが、その頃、部屋の様子を描いたのが「アルルの寝室」だ。そしてゴッホは、同居を始める前にあらかじめゴーギャンに出した手紙にスケッチを添えて、部屋の感じを知らせている。



この2つを遠近法の観点から比較すると面白いことがわかる。スケッチの方は厳密に1点透視で描かれているが、絵の方は同じく1点透視でありながら、ルールどおりでなく、すこし変形して描いている。そのことを確かめてみたら下図のようになった。


右図のスケッチの方は、正面の壁とベッドが垂直水平の長方形になっていて、1点透視として正しく描かれている。左図の絵の方は、壁とベッドが傾いている。つまり壁の上下のラインとベッドの上下のラインは、ともに収束(converge)していて、画面の外の遥か右にもう一つの消失点が生じている。つまり1
点透視ではなくなっている。ゴッホはなぜこうしたのか? 

部屋の左の壁は狭く描かれているのに対して、右の壁は広いから、ゴッホは部屋の左寄りから描いていることがわかる。そうすると部屋の右の方は左に比べて距離が遠くなる。だから正面の壁やベッドに収束が生じる。特にこの部屋は狭そうなので、左右の距離の差が大きくなる。それで絵の方にはもう一つの消失点が生まれている。そしてその方がスケッチより自然に見える。

2025年12月6日土曜日

雲の遠近法 と ロイスダールの風景画

perspective of cloud

近代的な意味での風景画が始まったのは、17 世紀のオランダだったが、その中で一番有名なのがロイスダールだ。地平線を画面の低い位置に置いて、画面の大部分が空になる構図にする。それによって広々とした空間の広大さを表現した。

この「漂白場のあるハーレムの風景」という有名な絵で、手前の漂白場(布などを漂白する場所?)の向こうに平坦な地面が地平線まで続いていて、地平線上に塔のある教会が小さく見えている。遠くまで見渡す距離感を感じさせるうえに、空が3分の2以上を占めていて、広大な空間を感じる。

空が広いということは、空の表情を描くために雲が重要になる。ロイスダールの時代は遠近法が確立した時代だから、雲も遠近法にもとづいて描いている。いちばん手前の雲は大きく、地平線に近い遠い雲は小さく描いている。


 
このことを図(図は「アルウィンの風景画入門」より)にするとこうなる。実際の雲は不定形だが、四角い箱に単純化して、それが空に浮いている状態で雲の遠近法の原理を示している。手前の雲は大きく、遠くの地平線に近づくにつれて小さくなる。そしてすべての箱が地平線上の消失点に収束する。もちろん実際の雲は箱ではないから、消失点などないが、傾向としてそういう意識で描く。そのうえで、上のロイスダールの雲をあらためて見ると確かに、この原理図どうりに描いていることがわかる。