2026年1月20日火曜日

隠れた眼を認識する

 

蝶の擬態のひとつに「眼状紋」という模様がある。天敵の鳥から身を守るためだ。鳥は横に並んだ二つの円を見ると、動物だと思ってパニックになるという。それを蝶は利用している。

鳥と同じく人間も、二つの円を横に並べた図形を見れば、人や動物だと感じる。人間は長い間の進化を経て、たくさんの能力を身につけたが、そのひとつが「かたちを認識すること」だった。人類が森林生活から草原生活へと変化したとき、草むらに隠れた恐ろしい敵に出会う確率が高い。そこで敵を素早く察知する能力が発達した。敵の形を認識できれば素早く逃げるなどの危機対応ができる。

動物学者のヒュー・B・コットという人がやった面白い実験がある。様々な抽象的な形の中に眼を模した二重円を置く実験で、自然のなかでいかに目玉が目立つかを立証した。特に二重円を二つ並べると薮に潜む動物の存在を感じる。


2026年1月19日月曜日

政党のロゴマーク

Logo-Mark 

ロゴマークは企業などの経営理念を視覚化するための視覚言語だが、ネット時代の今、政党でも政党の理念を表現するものとして重要になっている。


選挙直前の今、二つの党が合併したようだが、二つがくっついて何をしたいのか、その理念が伝わってこない。多分そんなものはないのだろう。それはロゴマークに現れている。二つの円が、少しずれながら重なっている。重なっていない部分が青色になっているが、重なった中央部分は白い空白だ。この政党名は「中道ナントカ」だそうだが、これでは「中道」ではなく「空洞」だ。


対するもうひとつの政党のロゴマークはこれ。「みんな仲良く元気よく」的で、政党としての政治的メッセージ性が何もない。保育園か何かのロゴマークのようだ。とがったことなど何もしないで、みんなに愛されていたい「保守」政党の性格がよく表現されている。





政党のロゴマークとして史上最も成功したのが、ドイツ労働者党(ナチス)の「ハーケンクロイツ」だった。もともと鉤十字は、「まんじ」と呼ばれ、古くから幸せのシンボルとして世界中で使われてきた。日本でもお寺のマークが「卍」だ。それはハネ部分が左向きだった。それをヒトラーは逆むきの右むきのハネにした。右むきの鉤十字は、反ユダヤ主義的なオカルト組織で人気のシンボルだった。ヒトラーはそれを自分の政党のロゴマークに使うことで、排他的なドイツ民族至上主義の政治メッセージをはっきり打ち出した。(これについて、松田行正「RED ヒトラーのデザイン」に詳しい)

2026年1月18日日曜日

「水」の形

 WATER

「かたちと人類」に「流水」という面白い項目がある。様々な地域の人々が「水」というものにどのように接してきたかが、絵文字の形によってわかるという。


上図右のギザギザは、古代エジプトの「水」を表す絵文字。毎年ナイル川の氾濫に苦慮していた人々は川の水位を常に気にしていた。だから「水」といえば、水位を表す、水を横から見た形になった。

上図中は、中国の亀甲文字の「水」で、現在の漢字の「水」のもとになった文字。山の多い中国なので、山の上から見た川の形からきている。岩の間をうねって流れる水の動きを表している。

上図左は、古代アステカの「水」の絵文字。山しかないアステカでは、水といえば川から「汲む」ものであり、カメに入った水を横から見ている図になった。


その上で同書は、日本の「水」に言及している。絵文字ではないが、日本の文様から日本人の「水」の捉えかたがわかるという。それは、「水」とはつねに動いているもの、流れているものということ。文様には、波の形、波紋の形、さざ波の形、雨の形、などの水の動きをパターン化して「水」を表現している。



2026年1月17日土曜日

雨の表現 日本と西洋

Rain

広重の「東海道五十三次」の「庄野」は、豪雨の風景を描いた傑作だ。雨滴の動きが、斜めの細い線で描かれ、画面を埋め尽くしている。これは浮世絵の雨の表現としては普通の方法だった。

ジャポニズムの時代、浮世絵に憧れていたゴッホは、広重の模写をした。「雨の大橋」で、やはり雨が細い線で描かれている。しかしゴッホはかなり忠実に模写しているが、雨だけは真似していない。筆のストロークの跡がかすかに残っているだけだ。


これは日本と西洋との雨の見方に対する根本的な違いからきているという。西洋では雨は雨粒であり、ほとんど目に見えない小さい粒であるから、絵では無視するものという考えだ。しかし浮世絵の方は雨粒の「動き」を線で表現している。こちらの方が実際の雨を見た時の見え方に合っているが、ゴッホの絵には雨をまったく感じない。

ゴッホに限らず西洋絵画で、雨を線で表現することはほとんどない。例えばターナーの「雨、蒸気、スピード」で、雨の中を蒸気機関車が疾走する情景を描いているが、題名を見ない限り雨という感じはしない。

写真の場合、雨を撮ろうとしたら、絞りを絞って、シャッタースピードを遅くすれば、雨の動きを撮れる。映画でこのような雨を撮ったのが、黒澤明の名作「7人の侍」だった。雨の中の戦闘シーンが有名だが、そこで雨を線として撮影できるように大変な苦労をしたという。水に混ぜ物をして重くして雨が勢いよく降るようにしたそうだ。雨の「動き」で、どしゃ降りの雨がリアルに表現されている。


2026年1月16日金曜日

光と影の構図 エドワード・ホッパー

Edward Hopper

エドワード・ホッパーのほとんどの絵で「光と影」が中心的な役割をしている。 この「海辺の部屋」は、がらんとした部屋の壁と床に強い光が差し込んでいる。光と影が作る幾何学的なパターンだけで絵を構成している。


同じくホッパーの代表作「朝日の太陽」は、起きたばかりの女性がベッドの上で、けだるそうに窓の外を眺めている。壁の光は横向きに当たっているから題名どうり朝だとわかる。これも壁にできた強いコントラストの「光と影」が構図上の重要な役割をしている。


「哲学への旅」は、男が物思いにふけっていて、後ろには女が横たわっていて、何かわけありの絵だ。壁の光、床の光、窓枠の光、の明るい3箇所が絶妙なバランスの構図を作っている。


「ダイナーでの朝食」は、ホテルのがらんとしたダイニングで二人が朝食をとっている。窓からの朝日が床やテーブルに差し込んでいる。光と影の美しさを最大限に生かしている。


2026年1月15日木曜日

2点透視の街の風景

Two-Point Perspective 

街の風景の絵は一点透視で描かかれることが圧倒的に多い。右のユトリロの例のように、画面中央に道路があって、両側に建物が並んでいる。画面中央に消失点が1個だけある1点透視だ。

逆に建物が画面中央にあって、両側に道路がある 2 点透視の例を探したが少ない。やっとゴッホの絵をひとつ見つけた。両側を道路に挟まれた建物を描いている。道路が左右両方向に伸びていて、消失点が二つある。建物も2点透視になる。


日本では横尾忠則が Y 字路の連作をやっているのが有名だが、当然これも2点透視になる。Y字路に挟まれた手前がとがった建物が逆遠近に見えるのが面白い。そして道が分かれ道になっていて、どちらへ行こうかと思わせる面白さもある。


ユトリロのように1点透視では建物の側面しか見えないが、2点透視では建物全体を見せることができる。あらためて、下図はその原理図。上は1点透視、下は2点透視 (図はネットより)


2026年1月14日水曜日

アレッシのデザイン

 ALESSI

前回、フィリップ・スタルクの「スーパードライホール」について書いたが、彼は建築以外にプロダクトもデザインした。もっとも有名なのが「レモン絞り器」で、曲線が美しいデザインだった。これもポストモダンデザイン全盛の1980 年代の作品で、イタリアの台所用品メーカーの「アレッシ」(ALESSI)のためのデザインだった。

絞り汁を受けるコップを下に置くという今までにないスタイルで、当時よく店で見かけた。自分では使ったことがないが、力を入れてレモンを絞ると、背が高いから安定のために、脚を押さえなければならないなずで、あまり実用的ではないと思う。

アレッシは、有名なデザイナーを起用して様々な製品を作ったが、みな実用一点張りでない、ユーモラスで親しみのあるデザインだ。左はリチャード・サッパーの「ケトル」で、お湯が沸くと笛の音が鳴る。右はアレッサンドロ・メンディーニの「ワインオープナー」。このワインオープナーは日本でも大人気だった。