2020年7月1日水曜日

今コロナでも必要な「インフォグラフィックス」の力(再)

Infographics

コロナで何かにつけてモヤモヤ感があるのは、国や専門家から明確な情報が発信されないからだ。目に見えない事実を客観的に把握し、それにもとづいた政策が必要だが、実際には、日本だけでなく世界中で失敗が続いている。目に見えないウィルスだからこそ、科学的な事実を見える化する「インフォグラフィックス」の力が必要になる。ここにあげる成功例は、すべて古く1 9 世紀のものだ。

看護婦として有名なナイチンゲールだが、実際はもっと大きい功績を残している。従軍看護婦として野戦病院に勤務していた時、あることに気付く。戦傷で死ぬよりも、それとは関係のない病気で死ぬ患者の方が多かったのだ。ナイチンゲールは大学で統計学を学んでいたので、死亡者の詳細なデータを取り始めた。それをもとに、死者を減らせる方法を突きとめる。まだ細菌やウィルスなどが知られていない時代だったが、病室の換気や、消毒の徹底、衛生状態の改善など、今では常識だが当時としては画期的な感染防止対策を実行した。それによって驚異的に死亡率を減らした。その結果を政府に報告して、病院の改善を提言した。その時の報告書に載せたのが、月ごとの死者の死亡原因を可視化した有名な図で、形から「トサカ図」と呼ばれた。この「インフォグラフィックス」による「見える化」の説得力は強力だったので、国を動かすことに成功する。数字の羅列だけだったらそんな効果はなかっただろう。

1 9 世紀のロンドンでコレラが発生し、死者が爆発的に増えた。市は医師のジョン・スノウに原因の調査を依頼する。彼は死者の住所を地図上にプロットしていった。すると、ある特定の場所に集中していて、その中心に井戸があることに気付く。住民が飲み水にしている井戸が感染源ではないかとひらめいて、井戸を閉鎖すると感染がピタリと止まった。細菌の存在など知られておらず、コレラは悪い空気のせいだと思われていた当時、飲み水から感染することを発見したのだ。「インフォグラフィックス」の威力抜群だった。

「インフォグラフィックス」の教科書に必ず載っている有名な図がこの「ナポレオンのロシア遠征」だ。茶色の線の幅が、パリからモスクワまで進軍する間の兵力の推移を示している。出発時に 4 5 万人もいた兵力がどんどん減っていったことが分かる。原因はチフスの感染だった。進軍中はテントの中で身を寄せ合って夜営するので、まさに「3蜜」状態だから、感染して兵士がバタバタ死んでいった。フランス領内ですでに減り始め、ポーランドに着いたあたりですでに半分になっている。モスクワに着いて、かんじんの戦闘が始まった時には4分の1以下の 1 0 万人にまでなっていて、撤退を余儀なくされる。ナポレオンが破れたのは「冬将軍」のためだとよく言われるが、真実はそうでなかったことがこの図から分かる。黒い線が復路の推移だが、さらに減り続け、パリまで生きて帰れたのはわずか5千人だった。

2020年6月29日月曜日

今話題のパンデミック映画「コンテイジョン」

「Contagion」

緊急事態宣言が出されたのと同時くらいに、レンタルビデオで「コンテイジョン」を予約をしたが、今だに順番が回ってこない。大人気の「アホノマスク」でさえ、たった3ヶ月で届いたのに、それを上回る人気のようだ。やむなく自分で DVD を購入した。

「コンテイジョン」は「感染」という意味。9年前(2 0 1 1 年)の映画だが、今コロナで世界中で起きていることとそっくりそのままで、予見していたかのようだ。しかも科学的な考証に基づいた内容なので、ドキュメンタリー映画のようなリアリティがある。

感染爆発、パンデミック、医療崩壊、都市封鎖、情報隠蔽、パニック、買い占めや略奪、など。また WHO が特定の国と政治的にくっつくことや、世界最強の防疫組織 CDC が無力であることや、自国の利益しか考えないワクチン開発、などの生々しい話も出てくる。ラストシーンで、感染経路を外国まで追っていった医師がついに発生源にたどり着く。その場所も今回のコロナにそっくり似ているので驚く・・・

2020年6月27日土曜日

光が美しいチェンバレンの水彩画

Trevor Chamberlain


チェンバレンの絵は光が美しい。最近、あるFB友がチェンバレンの絵の模写を投稿していたので、久しぶりに3冊ある画集をじっくり眺めてみた。水彩画は、形や色の表現よりも、光を描くことに絶対の強みがある。チェンバレンはそのことに徹している。




その人が模写した「照り返す光」のチェンバレンの原画。真夏の太陽が照りつける砂浜の明るさが3槽のボートに照り返している。


「雨傘」というプラハの街を描いた絵。雨粒を通してぼんやりと光る湿った空気を描いている。水墨画にも通じるような気持ちのいい空気感が伝わってくる。

2020年6月25日木曜日

西洋の魚の絵と高橋由一の「鮭」

Allegory of Fish

キリスト教がまだローマ帝国の迫害を受けていたマイナー宗教だった頃、信者が一本の円弧を描くと、もう一人が2本目の円弧を加えて魚の図にした。これが信者同士の合言葉だったという。

魚がキリストのシンボルとされたのは、ギリシャ語で、「イエス、キリスト、神の、子、救い主」という言葉の頭文字をつなげると、「魚」という文字になることからきたそうだ。だから宗教画にはよく魚が登場した。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のテーブルの料理は拡大すると魚料理であることが分かるそうだ。 1 7 世紀の寓意画が盛んだった頃の絵には魚のモチーフがよく使われた。この「魚売りの老夫婦」も宗教的な寓意が込められているという。


高橋由一の「鮭」は日本初の西洋画として有名だが、これについて荒俣宏が面白いことを言っている。もし当時、魚の寓意に慣れている西洋人がこの絵を見たら、魚が半分身を切られてぶら下げられているから、十字架にかけられたキリストの処刑の図であると思って、ひれ伏して涙を流しただろうという。もちろん高橋由一自身はそんなつもりはなく、単純な静物画として描いている。見る側も単にリアルな絵だと感心して見ていた。日本では、絵とは純粋に「見る」もので、そこから何かの言語的な意味を「読み取る」ようなものではなかった。

2020年6月23日火曜日

映画「エジソンズ・ゲーム」

The Current War

数ヶ月ぶりに再開した映画館で観た第一号。

電球を発明したのはエジソンだが、各家庭に配電するシステムを作ったのはウェスティングハウスだった。あの名門「ウェスティングハウス」の創業者だ。原題の「The Current War」どうり、直流方式のエジソンと、交流方式のウェスティングハウスが送電システムの世界標準を争ってバトルを繰り広げる。

3年前ウェスティングハウスを買収した東芝が経営破綻したが、原発事業でつまずいて巨額赤字を抱えていた同社を高値で買ったせいだった。

映画にテスラというエンジニアが出てきたのにはびっくりした。あの「テスラ」の創業者なのだ。テスラがそんなに古い会社だったとは知らなかった。テスラは画期的な発電機を発明する。そしてウェスティングハウスと組んで「電気の時代」を
作り上げる。それが現在のテスラの電気自動車に
つながっていくのだから、”時代はめぐる”だ。

2020年6月21日日曜日

ゴッホの人物デッサンの練習 Before & After

Gogh's figure drawing

ゴッホの若い頃のデッサンだが、ゴッホとは思えないほど下手だ。もともと牧師になるつもりだったが、神学部の入試に失敗して画家に転身しようとする。最初の2年間くらいは、独学でひたすらデッサンの練習をしたという。初めのうちは、輪郭とプロポーションばかりに意識がいってしまい、モデルの表面をなぞっているだけのデッサンになっている。






デッサンとは何かをつかむと、細部にとらわれず、大きく全体を捉えたデッサンになっていく。

2020年6月19日金曜日

「世界史を変えたパンデミック」

A History of Pandemic

コロナを機に感染症関係の本をいろいろ読んだが、いちばん面白かったのが「世界史を変えたパンデミック」だ。日本に関係する部分からちょっとだけ紹介。

戦争中、アメリカでペニシリンという強力な薬ができたという噂が入るが、ドイツも日本も交戦国だから詳しい情報が入ってこない。それで自国で独自開発しようと研究が始まる。ドイツはなかなか成功しないまま敗戦を迎えてしまったが、日本は研究者を総動員して敗戦の一年半前くらいに完成させ量産もしていた。おかげでたくさんの負傷者の命を救えたという。

ドイツは、撃墜した米軍戦闘機のパイロットの救急バッグからペニシリンを回収していたそうだ。しかしそんな少量を兵士に使うわけにはいかない。ヒトラーの暗殺計画事件(映画にもなったワルキューレ事件)で重傷を負ったヒトラーにそのペニシリンを初めて使った。おかげでヒトラーは一命をとりとめた・・・