2018年11月14日水曜日

何階から撮った写真? アイ・レベルとカイユボット

Eye lebel

こんなクイズを出したことがある。「この写真はあるビルから撮影したものだが、カメラマンは何階から撮った?」 中には「そんなこと本人に聞かなきゃ分からないだろう ! 」という人もいた(笑)が、答えはもちろん「3階」。窓の線が水平になっているのが3階で、その線は遠くの地平線とも一致している。見ている人(撮っている人)の目の高さ(アイ・レベル)は地平線上にあるという遠近法の基本の問題だった。

印象派のカイユボットのこの絵はその関係がズバリ描かれている。向かいのビルの3階と4階の境の線が水平になっていて、その線上に見ている人の目の位置がぴったり合っている。地平線は見えていないが、それもこの位置にあるはずだ。

カイユボットは遠近法に忠実だったようで、他の絵からもそれがうかがえる。下左の絵は地平線がシルクハットの男の目を通っていて、他の人たちも遠いので小さく描かれてはいるが目の位置は全員そろって地平線上に乗っている。
しかしそれは全員が道路の上に立っているからで、しゃがんだり子供だったりすれば、地平線とはズレた位置にくる。下右の絵は、道路に立っている人の目は正確に地平線上にある(消失点がすぐ横にある)が、脚立に乗っている人は大きくズレていて、そのことが分かりやすい。

2018年11月12日月曜日

キリコのねじれた遠近法

Chirico and "Doctor Caligari"

キリコの「街の神秘と憂鬱」は自身の心の不安感を描いている。影だけ見えている正体不明の人間の方向へ少女が無邪気に近づいていく。そして右側の建物と左側の建物の消失点が別々になっていて、二つの消失点が画面中央で交錯するねじれた遠近法になっている。それがこの空間を非現実的にしている。同時代の古典的名作映画「カリガリ博士」でも遠近法がねじれたセットを徹底的に使って悪夢のような世界を描いていた。絵画でも映画でも、客観的描写よりも自分の内面を主観的に表現する「表現主義」の時代だった。


2018年11月10日土曜日

『アルヴァ・アアルト』展と    『描かれた「建物」』展

"Alvar Aalto - Second Nature"  and  "Buildings in Pictures"

『アルヴァ・アアルト』展と、同時開催中の『描かれた「建物」』展を観に神奈川県立近代美術館  葉山館へ。

世界巡回中の大回顧展。家具を体感できる「アアルト・ルーム」もある
「描かれた建物」展は、松本竣介が目立っていた
今まで気がつかなかったが、美術館の庭に現代彫刻が置いてある
・・・と思ったら6世紀古墳時代の石像だった

2018年11月8日木曜日

鎌倉建物散歩 神奈川県立近代美術館

Kanagawa Museum of Modern Art

所有者が神奈川県から鶴岡八幡宮へ移ったので、解体される前に見納めに行った。しかし、別の施設にするための改修工事が行われていて、建物自体は残るようで安心した。坂倉準三の設計で、コルビュジェの国立西洋美術館と同じ年代の、同じモダニズム建築の名作。今の時代からすると淡白に見えるが、軽快で無駄のない造形はやはり美しい。



2018年11月6日火曜日

映画「華氏 1 1 9 」

" Fahrenheit 11 / 9 "

黒人地区の水道に鉛で汚染された水が行くように水源を変えてしまう。こんな「これアメリカの話  ? 」と思うようなすごい話が次々に出てくる。人権もへったくれもないアメリカ政治の闇を暴いている。

題名は明らかに S F ディストピア映画の名作「華氏 4 5 1 」からきている。民衆を無知にして操りやすくするために、読書禁止令を作り、本を隠し持っていると 4 5 1° F の火炎放射器で焼き殺してしまうという独裁国家の話だった。人種差別を煽るトランプ大統領と、その演説に熱狂する大衆の姿を、この独裁国家に重ねている。

9 / 1 1 は例のテロ事件が起きた日で、それをひっくり返した「 1 1 / 9 」はトランプが大統領に就任した日というのも面白い。どちらもアメリカを壊しているという皮肉だろう。
・・・ちなみに今日 1 1 / 6 は中間選挙の投票日だ。

2018年11月4日日曜日

建築の絵、二点透視と三点透視

Two-point perspective and Three-point perspective

建築を普通に撮ると「あおり」になるので建築写真では必ず「あおり補正」をする。Photoshop を使うと簡単にできる。

この写真の教会は、モネの連作「ルーアン大聖堂」のモチーフだが、絵でも縦方向の線が垂直に描かれていて、やはり「あおり補正」している。遠近法的に言うと、3点透視に見えている建物をを2点透視で描いていることになる。モネに限らず建築の絵に3点透視は全く使われない。ニューヨークのビルを描いたヒュー・フェリスの場合も、モネよりさらに高い超高層ビルなのにやはり2点透視だ。



なぜ2点透視のほうが自然に見えるか不思議だ。人間の網膜にも写真と同じように写っているはずだが、建築とは垂直なものだという概念に合わせて頭の中で補正して見ているのかもしれない。逆に3点透視を使った建築の絵を探したら、幻想画家エリック・デマジェールの空想建築の絵があった。非日常的なイリュージョンを描くために使っていて、3点透視の効果が分かり、なるほどと思う。


2018年11月2日金曜日

フェルメールの市松模様の床

Vermeer's perspective

フェルメールの絵は徹底的に分析されていて、解説本も多いが、不思議と書かれていないことがある。前にもちょっと触れたことがあるがもう一度。

フェルメールの絵の遠近法は完璧に正しいが、彼の絵に多く描かれている市松模様のタイルの床についてはやっかいな問題がある。

図は床全面を正方形のグリッドで埋め尽くした場合の透視図で、円は視界の範囲を示している。図の中央近くの四角は正方形に見えているが、円の周辺に近いところは歪んでいて正方形に見えない。(図は「Perspective,   a new system for designers by Jay Doblin」より)


フェルメールの絵も初めは床のタイルが右下部分で歪んでいた。遠近法としては正しくても視覚的には不自然なこの歪みにフェルメールは対策をとる。① ② ③ は描かれた順番通りだが、改良していった様子がわかる。最初の①では画面右下のタイルは歪みのままになっている。次の②では右下を人物の影で暗くして目立たなくしている。さらに③では、テーブルクロスを床まで垂らして右下のタイルを完全に隠している。そしてこれ以降フェルメールの絵は全て縦長になるが、それもこの問題への対処だったのかもしれない。

  ①                               ②                         ③