2014年6月13日金曜日

ワイエスの「室内の絵」ベスト

室内の光景を描いたワイエスの絵は、そこに住む人間の生活を感じさせて、とても親しみやすい。いずれも何げないようでいて、構図が計算されつくされている。上の絵は奥へ続いている部屋の空間的奥行きを描いている。現代版フェルメールのような感じもある。中の絵は納屋の中の暗い空間に梁と柱が浮かびあがって面白いリズムを創りだしている。下の絵は窓から射し込む光で画面を構成している。




ワイエスの「家の絵」ベスト

生涯、田舎で生活していたワイエスは、近くの農家の家などをテーマにしてたくさん描た。住んでいる人の生活の情景などが浮かんでくるような懐かしい感じのする絵だ。





ワイエスの「船の絵」ベスト

アンドリュー • ワイエスは、ときどき船を描いているが、面白いことに、船は海のそばにではなく、陸の上に置かれている。実際の風景ではなく、イマジネーションで描いた絵だと思うが、使われなくなって置き去りにされた船から寂寥感が伝わってくる。





ワイエスの「窓の絵」ベスト

ワイエスは絵の中に窓を描くことがとても多い。室内から見た窓、屋外から見た窓などさまざまだが、その中から窓が主役になっているものを選んだ。上の絵は遠くに海が見えていて、室内にはそれと呼応するように貝が置かれている。中の絵は窓を通して反対側の窓も見えていて、さらにその先遠くに海が見えているというユニークな構成。その両者の間に室内の様子がかすかに見える。下の絵は窓から吹いてくる心地よい風と、外に見える静かな風景。これらの絵に共通しているのは、風景を窓を通して描くことで、風景を見ている人間自身を感じさせられることだと思う。




ワイエスの「犬の絵」ベスト

アンドリュー • ワイエスは自分の愛犬よくモチーフにしているが、彼の犬に対する愛情のまなざしが伝わってくる。鉛筆デッサンを繰り返し、それを素材に使って絵にしていく。いちばん上の絵は、「遠雷」というタイトルで、自分の奥さんが寝ているところをスケッチしていたとき、遠くでかすかに雷の音がして、それに気づいた愛犬が草むらからひょいと顔を出して聞き耳を立てた。そこで犬をすばやくスケッチしたが、犬の方を主役にするために奥さんの顔の上に帽子を追加して隠してしまった。これはワイエス本人の説明。中の絵は、夏の強い日射しと木陰のすずやかな空気が伝わってくる。下の絵は、光を巧みに使って、L字型の大胆な構図を作っている。





2014年6月11日水曜日

ワイエス (その3)

ワイエスは若い頃、イラストレーターだった父親から絵のてほどきを受けた。父親は「まずそこにあるものを正確に描写するように、次に見なくても存在するかのように描くように」という指導を受けたという。前回「その2」で書いたような、「写生」ではなく「構成」というワイエスの特徴は、このような教育から生まれたと思うととても納得できる。

父親はイラストレーションという存在するものを描く自分の仕事と、絵画という実際には存在しない心のなかのイメージを描く絵画の仕事の違いを自覚した上で、子供を絵画の世界へ導こうとしたのだろうと解釈できる。イラストレーターを含めてデザインの仕事には
イラストレーションの仕事が必ずつきものだ。工業デザインの世界では、レンダリングであったり、映像の世界では絵コンテと呼んだり言い方は違うが広い意味でイラストレーションだ。イラストレーションは目の前にあるものをいかに魅力的に描くかの問題だが、絵画は見えるものの向こうにあるものを示さなければならない、と言われる。

実は先に書いた「ワイエスが好きでしょ」と言った先生が続けて聞いたもうひとつの質問がある。それは「あなた建築かデザインの仕事をしてませんでした?」というもので、これも図星で2度びっくりだった。そのときは分からなかったが、あとあと考えてみると、二つの質問は関係していて、しかもたいへんなことを言われたのだと気がついた。それは自分の絵がイラストレーションにとどまっていて絵画になっていない、という意味だろうと。つまり、ワイエスの父親の言う「イラストレーション:存在するものを描く」→「絵画:存在しないものを描く」への転換ができていないということだ。

ワイエス(その2)

以前、ある先生に絵を見てもらう機会があった。持参した作品を並べたら、見た瞬間、初対面なのにいきなり「あなたアンドリュー • ワイエスが好きでしょ?』と言われてびっくりした。ワイエスは好きだが、真似しようとはまったく思っていないし、例えしたとしてもできるわけはないし、実際似ていることはないと思うので、なぜそう思われたのか不思議だった。そう感じさせる影響のような何かがあるのだろうか。

それでワイエス談義になったが、先生の言いたかったことは、「あなたはワイエスが好きなようだが、その本当の良さは分かっていないですね。」ということだった。(実際にはそんなきつい言い方ではなかったが)そして、この絵を勉強するといいですよ、と言って示してくれたのがこの絵だった。


この絵も画集でよく見てはいたが、あまり注目せずに、どちらかというと通りすぎていた。だから前回の「その1」で自分流で書いたワイエス魅力にこの絵があてはまる項目がない。「懐かしい風景」とか「写実的描写」などがそんなに前面に出ている絵ではない。しかし、この絵にワイエスのエッセンスが凝縮されているという。それは風景を「写生」しているのではなく、風景の素材を使って絵を「構成」している点だという。そのため、ほとんど白と黒だけに単純化し、そのリズムやバランスの面白さで絵を「作っている」のだ。写実力のすごさに目を奪われてそこばかり見てしまうが、実はちがうということだった。実際、本によると、この大砲はワイエスがアンティークのオークションで買ったものを描いたので、実際にこのような風景があったわけではないそうだ。しかしその「構成」がうそではなく、本当のように見せてしまう説得力がある。そういう目であらためて他の絵も見てみると、同じことが見えてきて、なるほどと思う。