2023年11月1日水曜日

映画「アアルト」 アアルトの人と作品

 「Aalto」

アルバー・アアルトの人と作品を紹介するドキュメンタリー映画が公開された。数年前にあった「アアルト展」では、スケッチや建築模型しか見れなかったが、映画の大きいスクリーンで見るとアアルトの魅力が強く実感できる。レンガや木材などの自然素材を多用したので、フィンランドの自然によく溶け込んでいる。


アアルトは家具もたくさんデザインした。戦前の作品が今でも名作家具として売られているが、この椅子が好きで以前使っていた。フレームが「曲げ合板」なので、バネのような弾性があり、かすかに揺れがあって座り心地がとてもいい。


建築も家具も「モダンデザイン」だが、機能と合理性に徹するのではなく、人間と自然に対する優しさが溢れている。映画は、やはりデザイナーだった妻との生活を軸に描いているのだが、そこからアアルト自身の優しい人間性が伝わってくる。


2023年10月29日日曜日

映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のアメリカ先住民

 「Killers of the Flower Moon」

スコセッシ監督の最新作ということでさっそく観た。史実にもとずく映画だが、アメリカ先住民(インディアン)に、こんな歴史があったとは知らなかった。
19 世紀末、白人によって土地を追われた先住民は強制的に居留地に移住させられた。ところが 20 世紀に、オクラホマ州のオセージ族の居留地に突然石油が出る。 オセージ族は、住民一人ずつに土地と鉱業権を平等に分配したのだが、おかげで彼らは豊かになる。立派な住宅に住み、高級車に乗り、白人の使用人を雇う。するとその鉱業権を狙って白人達が押し寄せてくる。そして不可解な連続殺人事件が起こる。
主人公の若者(レオナルド・ディカプリオ)もこの土地にやってきて、タクシーの運転手になる。いつも乗せている先住民の女性(リリー・グラッドストーン)を好きになり、やがて結婚する。しかし周辺で次々に起こる殺人事件に巻き込まれていく。


殺されるのはすべて白人と結婚した先住民の女性で、犯人はゴロツキのような貧しい白人の労働者だ。しかし保安官はまともに捜査しない。街を支配している黒幕(ロバート・デ・ニーロ)が裏であやつっていたのだ。


この事件で、60 人くらいの先住民が殺されたのだが、FBI が捜査に乗り出して、やっと3人だけ逮捕したという。そして連邦政府は、先住民の権利を保護するために、財産相続の権利を白人には与えないという法律を作ったという。

映画は3時間半の長尺だが、緊迫感が持続する。さすがスコセッシ監督。

2023年10月27日金曜日

映画「マンダレイ」が描くアメリカ

 「Manderlay」

ラース・フォン・トリアー監督の作品のなかで「マンダレイ」(「Manderlay」 2005年)が強烈で、アメリカの「民主主義」の矛盾を鋭く描いている。

主人公の若い女性がアメリカ南部の小さい村にやってくるが、そこでは何十年も前に廃止された奴隷制度がいまだに生き残っている。黒人をはりつけにしてムチで打つリンチも行われている。女性は、人種差別に憤り「民主主義」を人々に教え込む。やがて村人たちは集まって議論し、多数決によって物事を決めるようになる。彼らは共同体意識を持ち、助け合うようになる。そして彼女は村人たちを指導するリーダーになる。・・・・・

しかしそう見えただけで、やがて真実があらわになってくる。黒人たちは ”民主的な” 村の中で自分の役割を演じることで身を守ろうとしていただけだった。黒人は白人に支配されていることに何百年にもわたって慣らされてきて、つねに支配されていないと安心できない。だから、自分たちを支配する白人として、主人公の女性をリーダーにして、彼女を「法律」と呼んでいたのだ・・・・・


そして彼女も、理性的だと思っている自分の心の奥の奥では黒人に対する憎しみが潜んでいることを自身も気がついていない。やがてそれが暴きだされる。差別をなくすことを説いてきた彼女がラストで、はりつけにされた黒人を、憎悪をむきだしにして、狂ったようにムチで打ち続ける・・・・・


アメリカはいつも民主主義の理想を掲げ、自分たちが「正義」だと信じている。だから独裁政治の国を非難したり、民主主義を押し付けようとする。それでいて自国の人種差別は無くならない。デンマーク人のトリアー監督は、この小さな村を縮図にして、アメリカの「独善」と「傲慢」を、第三者的な目で冷ややかに描いている。


2023年10月25日水曜日

映画「ザ・クリエーター/創造者」

 「The Creator」

公開中の「ザ・クリエーター/創造者」は、A.I. が人間を超えるのではないかという、最近人々が 抱いている不安や恐れをベースにしたタイムリーな映画だ。

アンドロイドが人間と対立するというテーマの S F 映画は、名作「ブレードランナー」をはじめたくさんあるが、これはもっとスケールが大きい。 A.I. 化したアンドロイドが人間以上の能力を持ち、 A.I. 文明を築いて、人類文明にチャレンジするというストーリーだ。


 A.I. による核攻撃でロサンジェルスが壊滅されてしまい、報復としてアメリカが A.I. と戦争を始める。( 明らかに、9.11. の報復としてアメリカがイラク戦争を始めたことを下敷きにしている。)そして A.I. が、中国などの東アジア全域を制覇しているという設定で、映画は中国や日本など東アジアが舞台になっている。 A.I.  への不安を、アジアの台頭が脅威だと感じている欧米人の不安に重ねている。

この手の映画は、必ずアンドロイドは人間に逆らう悪者として描かれる。しかしこの映画は逆で、A.I. アンドロイドはただの機械ではなく、人間以上に人間的な感情を持っている。だから、優しい女の子のA.I. が主役になっている。題名の「ザ・クリエーター/創造者」とは、キリスト教世界では天地を創造した神を意味するが、映画では、これからは A.I. が「神」になって、新しい "A.I. 文明" を「創造」するだろうと言っている。


すべてのA.I. アンドロイドの耳の部分に埋め込まれているヘッドフォンのようなものは、A.I. の頭脳をつかさどる中枢部品だが、ソニー製品ファンのギャレス・エドワーズ監督が 80 年代の初期ウォークマンのヘッドフォンをモチーフにしてデザインしたという。それ以外にも、渡辺謙を A.I. 軍の司令官にしたり、未来の東京を好意的に描いたりしていて、監督の日本愛がうかがえる。(「ブレードランナー」では、未来の東京を退廃した街として描いていた。)

2023年10月23日月曜日

ある中学生のデッサン力

 Drawing

中学生の孫が  ぬいぐるみ  の鉛筆デッサンをしたが、うまくて驚いた。へたな大人顔負けだ。美術部で毎日デッサンの練習をしているようだ。


その子が数年前の小学生の頃に描いた同じ  ぬいぐるみ  の絵と比べると違いがよくわかる。上の絵がモチーフを「立体」として捉えようとしているのに対して、こちらは形を「輪郭」で見ているから平面的だ。また、素材の毛並みや服の柄などを一生懸命描こうとしていて、物の表面ばかりに注意が向いていている。


ワイングラスのデッサンで、ガラスの反射などをよく観察しているのがわかる。しかし遠近法的な狂いが少しある。そこで狂いをチェックするのに補助線を入れてみるといい、とアドバイスした。回転中心軸と3つの楕円の長軸の線を入れると、すぐに一番上の楕円と底部の楕円の長軸が傾いていることに気がついた。これを続けると、目で見ただけで狂いに気づくようになるものだ。


さらに、3つの楕円の丸みの「関係性」に注意するといいと言うと、しばらく考えて、グラス上端の楕円は丸すぎると気がついた。そして楕円の「関係性」とはこういうことでしょと下の図を描いた。例えばグラスを目の高さに持ち上げて見ると、目の高さでは楕円が薄くなり、上下に離れると楕円が丸っこくなると”解説”をしてくれた。円の遠近法を完全に理解している。


このことから改めて「デッサン力」とは「物を見る力」で、”テクニック” や ”センス” は関係ないことを感じる。


2023年10月21日土曜日

「空」と「雲」の遠近法

 Aerial Perspective & Linear Perspective

青空の青は、遠くの地平線に近ずくほど色が薄くなり、白に近ずいていく。これは「空気遠近法」の原理による。雲も頭の上では明暗のコントラストがはっきりしていても、遠くではだんだん白っぽく霞んでいくが、これも「空気遠近法」。

さらに雲は、頭の上では丸っぽかった形が、遠くになるにつれてだんだん小さく薄べったくなっていく。これは「線遠近法」の原理による。下はその原理図。


空と雲を雄大に描いたオランダのロイスダールの風景画は、上記の原理に沿っていることがよくわかる。


2023年10月18日水曜日

パステルで描く「空」と「水」

 「Skies & Water in Pastel」

パステル画の初心者向け教本「Skies & Water in Pastel」は、「空」と「水」の描き方に特化している。

「空はいつも青とは限らない」と、この表紙の絵で説明している。青空の日でも、地平線に近くなるにつれて、青みが消える。「空気遠近法」の効果だ。そして地平線に近いところは大気の影響を受けやすいので、ピンクになったりする。

そういう空の色の変化が、川の水面に反射している。奥の方はピンクになっているが、手前は青なので、頭の上は青空であることがわかる。

しかし一方で、絵はそういう物理的な原理だけで描くものではない。「春満ちる」という題名のこの絵で、春の暖かい「ムード」を強調するために実際以上に空をピンクにしていることをこの本は強調している。