2024年6月26日水曜日

映画「ニーチェの馬」

 「The Turin Horse」

ハンガリーの巨匠タル・ベーラ監督はいつものように白黒で撮っている。

荒野の中の一軒家に住む父と娘の二人だけしか登場しない。どんより曇った空、吹き荒れる猛吹雪、舞い上がる土ほこり、という陰鬱な情景に終始する。娘は暴風の中を井戸へ水を汲みに行き、手の不自由な父の着替えを手伝い、ジャガイモ一個だけの食事をする。それを毎日繰り返している。

題名は、哲学者ニーチェに由来する。ニーチェはある時、鞭で打たれる馬を見かけて、駆け寄って首を抱きしめ涙したが、気がふれてしまい、そのまま精神病院に入って一生を終えたという。

そのニーチェの「ニヒリズム」思想は「何のために生きるか」といった人生の意味や目的を問うことはもはや無意味だという思想で、道徳や宗教はもう存在意義が無くなったという意味で「神は死んだ」と言った。映画は、その思想を下敷きにしている。

井戸が何者かに荒らされ水が枯れてしまう。馬が餌を食べなくなって衰弱してしまう。家を捨てて町へ出ようとするが、馬なしのため、無理で、戻ってくる。やがて油がなくなり、ランプが消えて暗闇になってしまう。状況がどんどん「絶望的」になっていく・・・

ラストでランプの消えた暗闇のままで映画は終わる。二人に「生きることの意味」が生まれるのかどうかはわからない。


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