「Drawing on the Artist Within」
初めて絵を描く高校生に、どう教えていいのか苦労していたある美術教師の話が面白い。静物を描かせるのだが、モチーフを「見た通りに描くように」と言っても描けない。「リンゴが容器の前にあるのが見えない?」と聞くと「ええ、見えます」と答える。「でもあなたの絵ではリンゴと容器が同じ距離にあるよ」と言うと、「ええわかってます。でもどうやって描いたらいいか分からないんです」と答える。
目の前にあるモチーフを見てはいるが、しかし見えていない。それは物を見る見方の問題だとその教師は気づく。人間は物を認識するとき、「右脳」と「左脳」を使い分けしている。「左脳」は論理的な、「右脳」は直感的な認識という役割分担をしている。
リンゴが前にあれば、容器より大きく描かなければならない。しかしそうすると、論理的に考える「左脳」は、それでは大きさが違ってしまうからダメだと止める。つまり「左脳」がジャマをしているのが描けない原因だった。そこで「左脳」が働かないようになる課題をやらせる。
有名画家のデッサンのコピーを上下逆さにして、それを模写するように命じる。例えばピカソの「レオン・バクストの肖像」というデッサンでやってみる。すると、人間の顔はこうだからとか、衣服はこうだからとかいった論理的に考える「左脳」が働く余地がなくなる。生徒たちはただひたすらピカソのデッサンの線と線の関係だけを見ながら描いていく。
出来上がった絵を逆さまにして本来の位置に戻させると、生徒たちは「おお!」と声をあげて、自分もこんなに描けるんだと感激する。
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