Movie「Pandora and the Flying Dutchman」
「パンドラ」( 1 9 5 1 年)は、 7 0 年も前のクラシック映画で、 いかにもその時代らしいハリウッド調メロドラマだが、構成が凝っている。「パンドラの箱を開ける」という言い方は、封じられていたことを表に出すと厄災がもたらされるという意味だが、主人公の女性の名前がその「パンドラ」なのだ。
パンドラをめぐる男たちの一人が画家で、美しい女性の肖像画を描いている。パンドラが画家に会った時、初対面なのに絵が自分にそっくりなのに驚く。しかも「パンドラの箱」を手に持っている。ここからミステリアスなストーリーが進んでいく。
この謎めいた女性が厄災をもたらすパンドラであることに気付いた画家は絵を直してしまうのだが、それがキリコの人物画とそっくりな、のっぺらぼうの顔になる。背景にギリシャ神殿風の建物があるのもキリコの引用であることをあえて強調していることがわかる。
キリコは風景画だけでなく、人物画もたくさん描いているが、すべてが目鼻の無いのっぺらぼうの卵型の顔で、彼の風景画と同じく自身の不安感を表していると言われている。監督のリューインという人は美術通で、特にシュール・リアリズムの愛好者だったことからキリコを引用したという。(下はキリコの「ヘクトルとアンドロマチ」(1 9 1 7 年))
この映画にはもう一つ興味深い美術の引用がある。画家のアトリエにパンドラの肖像写真がさりげなく飾ってある。1 6 世紀に、卓上に飾れる小型の細密画的な肖像画が流行ったが、その様式にならった写真になっている。
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