2015年9月19日土曜日

閑人の ☆☆☆☆☆ 映画             「アドルフの画集」


「アドルフの画集」( 2002年、イギリス • ハンガリー • カナダ 合作 )


若いころヒトラーが画家をめざしていたことは有名ですが、なぜ彼が画家をあきらめて、政治家になったのか、という人生の分かれ道の瞬間を描いた映画です。このとき、もし彼が画家のほうを選択していたら後の歴史はどうなっただろうとつい思ってしまいます。

第一次世界大戦のドイツ敗戦直後、ヒトラーは戦場からもどり職もなく食事にも事欠いています。変革によって社会は混乱し、伝統的なドイツの価値観が失われたことに対して強い恨みをいだいています。


ヒトラーが知り合ったユダヤ人画商が経営する画廊の場面があり、当時生まれた新しい現代美術の作品がたくさん登場します。キュビズム • 抽象主義 • 未来派 • 表現主義などで、美術史的な観点で映画を観ても面白いです。例えば、政治家 • 資本家 • 娼婦などを風刺的に描くことで社会の退廃や矛盾をえぐり出した表現主義画家のゲオルグ • グロッスです。これはヒトラーに自分の絵が時代遅れと思わざるをえなくさせる強烈なパンチでした。


それでも昔ながらの絵にこだわるヒトラーは現代美術を憎み、「調和のある美だけが永遠に続く価値がある。抽象画は腐敗だ!」と叫びます。映画に登場する彼のスケッチには権威主義的な建築やナチスの制服のデザインなどがあり、後に政治家として権力を握ったときに実際に実現させていったものがすでにこの頃描かれていたことが分かります。(登場するこれらの絵は本物ないし同等のものらしいです。左上は犬の鉛筆スケッチ。右の2枚は後に建築家のアルベルト • シュペーアにこのとうりに設計させた建物)


ヒトラーは次第に絵に関して敗北感を感じるようになり、政治の力で世の中を変えようと、アジ演説にのめりこんでいきます。そんな中、ヒトラーの絵を売り出そうとしてくれるユダヤ人画商に最後の望みをたくします。しかしそのための打ち合わせをする約束の場所でヒトラーは作品を抱えて何時間も待つのですが、ついに彼は現れなかったのです。彼は画家になる夢を絶たれたことを知り絶望します。しかし画商が来なかった理由は • • • • ネタバレになるのでやめますが、結果的に、政治家としてのヒトラーが画家としてのヒトラーを自分で殺してしまったのです。

映画はここまでですが、後に政権を握ったヒトラーは、現代美術すべてをやり玉にあげ、笑いものにするために、「退廃芸術展」を大々的に開きます。印象派でさえも弾圧の対象になったのですが、唯一、公認美術とされたのが、昔ながらの写実絵画でした。こうして彼は若いころの恨みをはらしたのです。


↓  映画予告編




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