2014年11月28日金曜日

ギャラリー閑人の「炎上展」

ギャラリー閑人の企画展、第2弾は「炎上展」です。火災 • 噴火 • 戦争などで燃えている絵を集めてみました。怖いもの見たさのやじうまのように、思わず見入ってしまいます。



死んだ都市の悪夢を描き続けたモンス • デジデリオ。建物が炎上して、人々が逃げまどっています。戦争で都市が崩壊していく、恐ろしい光景です。
モンス • デジデリオ「トロイアの炎上」17世紀

「廃墟の画家」のユベール • ロベール。火災の鎮火直後で、まだ火がくすぶっています。建物の屋根が完全に抜けて、新たな廃墟が生まれた瞬間を報道写真のよう描いています。
ユベール • ロベール「パレロワイヤルのオペラ座の炎上」1781年

ライト • オブ •ダービーには火山の噴火シリーズや花火シリーズなどの作品があるが、これはローマのサンタンジェロ城の花火を強いコントラストで壮大に描いたもの。
ジョセフ • ライト • オブ •ダービーサンタンジェロ城の花火」1771年


靄や夕日など自然の空気感を描いたターナーなので、この火災の絵も、どちらかというと炎を美しい風景として描いているように見えます。
ターナー「国会議事堂の炎上」1835年

神の怒りで天変地異が起こる「この世の終わり」の怖い絵ばかりを描いたジョン • マーチン。噴火で、巨大岩石と溶岩が街を襲い、画面右に建物が崩れていく姿が見えます。

ジョン • マーチン「神々の大いなる怒りの日」1852年


現代作家のベクシンスキーは死と終焉をテーマに不気味な絵を専門に描きました。塔の頂上から炎が吹き上がっていて、手前には燃えかけた紙が舞っています。

ベクシンスキー 20世紀




2014年11月20日木曜日

「ザハ • ハディド」展を観る


「ザハ • ハディド」展(東京オペラシティー  アートギャラリー、10/18〜12/23)


「ザハ • ハディド」展を観ました。とても面白くて、刺激的です。展示されているおびただしい数のドローイングや模型から、この建築家の思考プロセスがよく伝わってきます。ドローイングは普通の建築ドローイングではなく、ほとんど抽象絵画と言えるものです。形態スタディーモデルの模型も、抽象造形作品に見えます。綿密なリサーチと技術的裏付けに基づいて工学的に設計されることが多い一般的な建築デザインのアプローチからすると、このような方法は異端なのかもしれません。しかし、建築、彫刻、絵画が渾然一体となって躍動的に発想していくプロセスは驚きです。

小説家の平野啓一郎氏がこの展への批評のなかで、こう言っています。「芸術の基準は『美』と『崇高』の価値観だったが、20世紀後半以降は、『カッコいい』という異質の
価値観を導入する必要があると思う。本展を見て、人が思わず口にするのは、その『カッコいい』というため息であり、新国立競技場の修正案に幻滅するのは、醜いからではなく、『カッコ悪い』からである。」 (日経新聞、11/13)

新国立競技場のデザインに対して建築界から猛烈な反対論がわき上がり、その結果、日本人建築家による修正案に決まりそうです。平野氏の言う「カッコいい」とは「感じる」価値であって、合理性だけでは計れないものなのだと思います。そのために彼女のデザインはこれまでたくさん「ボツ」にされてきたのでしょう。オリジナルとは似て非なるものに修正されてしまった新国立競技場もそのケースのひとつだと思います。

本展で見せているものではないですが、コンペの表彰式でのザハ • ハディド本人によるプレゼン映像があります。オリジナルデザインのコンセプトがよく分かるのでご覧下さい。


2014年11月14日金曜日

ギャラリー閑人の「難破船展」

たくさんの画家たちが難破船を描いてきました。難破船は、人間の悲劇や死のイメージにつながりやすいため、自身の世界観を投影するためのかっこうのモチーフだったようです。個人的な好みを基準に選んだ5作品を展示します。


 18世紀のフランスで、人気画家だったジョセフ • ヴェルネの作。嵐 • 荒れ狂う海 • 難破船というドラマチックな題材は、壮大な自然を表現するものとして好まれたそうです。
ヴェルネ「嵐の海の難破船」1772年


19世紀ドイツのフリードリッヒの絵で、氷に押しつぶされた難破船が右のほうに小さく描かれている。巨大な氷という、人間が対抗できない自然の力の過酷さを描いています。
フリードリッヒ「氷海」1823年


ご存知ターナー。怒濤渦巻く吹雪の海に船が飲み込まれようとしています。激しくうねる空と海の不気味な表現が、自然の力に対する不安と恐怖のイメージを呼び起こします。
ターナー「吹雪」1842年

現代作家のベクシンスキーの作。不気味な姿で、なぜか宙に浮いている船は墓石か棺桶のようです。彼は、死と絶望の世界をミステリアスに描いた作家です。

ベクシンスキー

残骸だけが残った難破船は現代作家クレリチの作。核戦争で滅びて人が消えた都市のような、世界の終わりの光景です。日本人は、あの大津波を連想するかもしれません。
クレリチ「太陽の舟」1976年

2014年11月2日日曜日

ワッツ • タワー

「カラーズ、消えた天使の街」という「警察もの」の B 級映画を観ていたら、ワッツ • タワーが登場していたので、この塔を見に行ったときのことを思い出した。「ワッツ • タワー」はロサンジェルスの「ワッツ」というロスでも治安が最悪の地区にある建築物だが、映画は、その地域に巣くうギャングやチンピラたちと警察との闘いの物語だ。

かつて、ワッツ • タワーを見に行くと言ったら、忠告された。車から絶対に外へ出ないこと、運転中も車の窓は閉めてドアは内側からロックをしておくようように、でないと信号待ちのときなにが起るか分からないからと。で、着いても車を止めることもなく、横目で見ながら通り過ぎるだけだった。映画でもこのあたりのそんな危ない雰囲気がたっぷり描かれている。


「ワッツ • タワー」はこの地区に住んでいたサイモン • ロディアという無名の建設労働者が自宅の庭に一人でこつこつと 30 年以上かけて作った塔で、重機や足場など使わず、もちろん設計図面もなく、すべて手作りで完成させた。これを見ると誰でもガウディの「サグラダ • ファミリア」を連想すると思う。形も似ているが、ミクロのディテールをひとつひとつ積み上げていって最終的に巨大なものを作りあげるという、ちょっと気ちがいじみた執念を感じさせる点でも共通性がある。出来立てのころは、価値の分からなかった市当局が撤去しようとしたこともあったそうだが、建築家などの反対で、取り壊しは止めになり、現在は国定歴史建造物に指定されている。映画ではカーチェイスの車が激突して粉々に砕けてしまうが、もちろんこれは CG 映像で、本物は健在だ。

制作中の様子を記録した約 60 年前の貴重な映像