1 4 世紀にペストが猛威を振るい、人口の半分近くが死んだことが、人々の死生感に大きな影響を与えた。「人は誰もが死すべき運命にあることを自覚して生きよ」という意味の「メメント・モリ」という哲学が生まれた。そしてそれをテーマにした絵画が生まれたが、必ず死の象徴としての骸骨が描かれた。
ペストの恐怖から、人々が集団ヒステリーを起こしている。楽器を奏でながら半狂乱で「死の舞踏」を踊り続けている。それを骸骨が導いてゆき、墓穴へ放り込んでいる。
ブリューゲルの「死の勝利」という恐怖の絵。死がすべての人間を打ち倒す様子を描いている。人々は黒装束の骸骨に襲われ、様々な残虐な方法で処刑されている。
「死の島」で有名なベックリンの「ヴァイオリンを弾く死者のいる自画像」は、近代版「死の舞踏」だろう。
背中に取り付いた骸骨がニタリと笑いながら音楽を奏でている。ベックリンはチフスにかかり九死に一生を得たが、家族を失った。
ベックリンは疫病と戦争によって文明が滅びるだろうというペシミスティックな終末論的世界観を持っていた。やがて実際に第一次世界大戦とスペイン風邪で何千万の人が死ぬことになる。この絵はその予言かもしれない。
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