「Tricolor : Blue」
巨匠キェシロフスキー監督の「トリコロール」の3部作は、フランス国旗の、 赤(博愛)、白(平等)、青(自由) をモチーフにした愛の物語で、「トリコロール 青の愛」は、過去の自分から解放されて「自由」を得るまでの女性の物語。
交通事故で夫と娘を亡くし、妻(ジュリエット・ピノシュ)も重傷を負う。家族を失い、彼女の心がポッカリ空白になってしまう。今までの生活を忘れて再出発したくて、住んでいた邸宅を売り払う。しかし一方で、愛していた夫の思い出をとっておきたいという思いで、大事にしていた青いガラスのモビールひとつだけを手元に残して、いつもいつくしむように眺めている。このモビールの「青」が題名の「青の愛」のシンボルになっている。
この映画は、ドラマチックな展開があるわけではなく、主人公の微妙な心の動きをたんたんと描く静かな映画だ。その心の動きをセリフで説明的に描くことはせず、代わりにいろいろな小さいオブジェクトをクローズアップで写して代弁させる。だからストーリーを追う見方をするのは意味がない映画で、キェシロフスキー監督の映画美学が素晴らしい。
カフェでコーヒーを飲むシーンで、角砂糖をゆっくりとコーヒーに浸していく。そのゆっくりとした手の動きが主人公の虚ろな心を表わしている。こういうディテールのアップが映画のあちらこちらに散りばめられている。
曲を完成させた時、夫の思い出との決別をする決心がつく。そして映し出されるのは、アウト・オブ・フォーカスになった青いモビールで、もうこのモビールが眼中にない彼女の視線で撮られている。そしてモビールを置き去りにしたまま、家を出ていく彼女の姿が見える。向かうのは夫が死んでから愛するようになった男の家だ。そして彼女に新しい至福の生活が始まったことが暗示される。
ラストで、彼女が完成させた曲が流れる。愛の至高を荘厳に歌っている合唱付きの協奏曲で、歌詞が字幕で出る。「知識も信仰も道徳もいらない。すべてを乗り越えることができるのは愛の力だけだ」と歌っている。主人公が、過去の思い出という束縛から解放されて「自由」を得たことを意味している。
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