アメリカン • リアリズムは、なぜイラストレーションと相性がいいのか、考えてみた。
例えば、エドワード • ホッパーの「深夜の人たち」を見ると、この絵に描かれているストーリーを語ることができる。例えば「昼の仕事に疲れた男女が人通りのなくなった深夜にカフェテリアに立寄りコーヒーを飲んでいる。他の客は一人しかいない。店員は閉店のしたくをしている。暗い街路の中でひとつだけ明るいこの店もすぐに暗くなるだろう。」tといったぐあいに、絵を言葉で説明できる「物語性」があるのがアメリカン • リアリズムの特徴ではないか。
一方イラストレーションは、雑誌などの記事のイメージをより明確に読者に伝えるために文章を視覚化するためのものだから、文章の内容を具体的に表現する「物語性」が必要になる。物語は抽象絵画では伝わらない。リアルな写実絵画が必要になる。このようにアメリカン • リアリズムとイラストレーションに共通しているのは「物語性」だと思う。
ムンクの有名な「叫び」を見ても物語は語れない。生活苦で橋から身を投げようとしているのか、誰かに襲われて恐怖で顔が歪んでいるのか、叫びの具体的な内容は分からない。それは人物や景色が抽象化されていて、これがどんな人間でどんな状況かを特定できないからだ。この抽象化によって逆に、個別の人間の個別の状況の「叫び」ではなく、現代社会の普遍的な苦しみに対する「叫び」というメッセージが伝わってくる。この絵が現代絵画のさきがけとされるのは、物語性と写実主義から離れ、抽象化へ一歩踏み出しているからだろう。
アメリカン • リアリズムは古くさい絵画だとされることもあるのは、そのような意味からだろうと思う。
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2014年6月26日木曜日
アメリカン • リアリズム(3)
アメリカン • リアリズムの画家たちを調べていて、面白いことに気がついた。それは、彼らの多くが画家であると同時にイラストレーターだったか、イラストレーションとの関わりが深かったことだ。
先にあげた4人のうち、例えばフレデリック • レミントンは、有名雑誌の記事に載せる挿絵を描きイラストレーターとして大成功し、高収入を稼いでいた。西部の絵が多いのは、雑誌の取材でたびたび西部へ出張していたからだという。純粋絵画へ転向したのは晩年になってからだった。
エドワード • ホッパーは、イラストレーターとしての経歴はないものの、美術学校で絵画を学ぶ前に、商業美術の学校でイラストレーションを学んでいる。
ノーマン • ロックウェルは有名雑誌の表紙のイラストレーションを永年にわたって描き続け人気作家になった。おおかたの美術評論家からは画家とは認められず、イラストレーターとして扱われ、アメリカ美術史の本にもほとんど名前は出てこない。
アンドリュー • ワイエスは身体が虚弱だったため、学校教育を受けず、まして美術学校で学んだことはない。絵画は有名なイラストレーターだった父親から学んだ。したがって、彼の絵にはイラストレーションの影響があり、それを本人も認めている。
リアリズム絵画とイラストレーションはなぜ結びつきやすいのだろうか。興味がわく。
先にあげた4人のうち、例えばフレデリック • レミントンは、有名雑誌の記事に載せる挿絵を描きイラストレーターとして大成功し、高収入を稼いでいた。西部の絵が多いのは、雑誌の取材でたびたび西部へ出張していたからだという。純粋絵画へ転向したのは晩年になってからだった。
エドワード • ホッパーは、イラストレーターとしての経歴はないものの、美術学校で絵画を学ぶ前に、商業美術の学校でイラストレーションを学んでいる。
ノーマン • ロックウェルは有名雑誌の表紙のイラストレーションを永年にわたって描き続け人気作家になった。おおかたの美術評論家からは画家とは認められず、イラストレーターとして扱われ、アメリカ美術史の本にもほとんど名前は出てこない。
アンドリュー • ワイエスは身体が虚弱だったため、学校教育を受けず、まして美術学校で学んだことはない。絵画は有名なイラストレーターだった父親から学んだ。したがって、彼の絵にはイラストレーションの影響があり、それを本人も認めている。
リアリズム絵画とイラストレーションはなぜ結びつきやすいのだろうか。興味がわく。
アメリカン • リアリズム(2)
先に書いたアメリカの人気作家4人のうち、日本で一番なじみのないのがフレデリック • レミントンだろう。西部開拓時代に活躍した画家で、カウボーイやインディアンなど西部劇でおなじみの題材を多く描いた。
このように、アメリカン • リアリズムの画家たちは、リアリズムの手法が独特なだけでなく、題材自体もアメリカ的な独自性をもっていた。ノーマン • ロックウェルは第二次世界大戦前後のアメリカの庶民の生活を愛情をこめて描いた。エドワード • ホッパーはニューヨークを舞台に都会生活の寂しさや孤独感を描いた。アンドリュー • ワイエスはアメリカの田舎の原風景を描き続けた。題材はいろいろだが、共通しているのは「アメリカン • シーン」を描いたことだ。
フレデリック • レミントン「森へのダッシュ」
このように、アメリカン • リアリズムの画家たちは、リアリズムの手法が独特なだけでなく、題材自体もアメリカ的な独自性をもっていた。ノーマン • ロックウェルは第二次世界大戦前後のアメリカの庶民の生活を愛情をこめて描いた。エドワード • ホッパーはニューヨークを舞台に都会生活の寂しさや孤独感を描いた。アンドリュー • ワイエスはアメリカの田舎の原風景を描き続けた。題材はいろいろだが、共通しているのは「アメリカン • シーン」を描いたことだ。
ノーマン • ロックウェル「婚姻届け」
エドワード • ホッパー「深夜の人たち」
アメリカン • リアリズム(1)
アメリカで活動していた画家の津神久三によると、アメリカの本屋には、日本と違って、画集がたくさん並べられているそうだ。これはプレゼントに画集を贈る人が多いためだという。そのような画集で人気の高いのが、ノーマン • ロックウェル、フレデリック • レミントン、アンドリュー • ワイエス、エドワード • ホッパー、などだという。
これらの作家はすべてリアリズム絵画という点で共通している。イギリスの植民地だった時代にヨーロッパから入ってきた写実的絵画が移植された。それ以降、本家のヨーロッパ絵画のほうはどんどん変化していったのに、アメリカはずっと写実一筋で通してきた国だった。しかもその写実は、本家のヨーロッパより細密描写という点ではさらに徹底していた。ひたすら目前の自然を精密に写し取るという凄まじいまでの入念なリアリズムがアメリカの伝統になった。そしてアメリカ人は写実主義だけを愛する世界でもまれにみる国民だという。それが「アメリカン • リアリズム」だ。
第二次大戦後、アメリカでは、ポロック、ジャスパー • ジョーンズ、アンディ • ウォーホルなど、抽象絵画やポップアートなどのモダンアートで世界の先進国になった。とかくそれらがアメリカ絵画の本流であるように思われがちだが、実はリアリズム絵画の系譜がずっと続いてきて、主流はあくまでもこちらであり続けた。
2014年6月24日火曜日
ワイエスの「写実」(3)
アンドリュー • ワイエスは写実主義の画家だが、彼の写実とは、物や人を見えるまま忠実に描写することではない。彼の内部にある対象に対するイメージを画面上に「組み立てる」あるいは「構成する」という性格が強い。この絵では、窓からの光と影が人体上に投影されてできるパターンの造形的な面白さがすごい。この影は明らかにワイエスが作ったもので、実際のモデルには無かったものだ。実際、この絵のために事前に描かれた鉛筆デッサンには影が無い。しかし彼の写実力がそれを「うそ」に感じさせない。
この絵もとても不思議な感じがする。女性の後ろにある太い木の幹は真っ黒に塗りつぶされている。そして女性の黒い衣服の後ろ半分は木にすっかり溶け込んでいる。さらに女性のシルエットと幹のエッジが一直線になっていて、女性は木の一部になってしまっているように見える。絵のいわゆる「構図」といったありきたりな概念をはるかに越えた面白さがある。
ワイエスの「写実」(2)
ワイエスの言葉。「私は何週間もかけてスケッチや水彩の習作を描く、実際にそれを使うことはないかもしれない。だが私は、スケッチを通して意識下に深くしみこんだ感応が、いつか一枚の絵のなかに結実することを知っている。」下は同一の作品のためのスケッチや習作だが、彼が何をやっているのかがよく分かる。モデルを見ながらスケッチをしてはいるが、描写をしているのではない。彼の言う「意識下にある自分の感応」を手探りしながら見つけ出そうとしている。それはまた、絵をどう組み立てるのかを試行錯誤しながら「一枚の絵として結実」させていく過程でもある。
ワイエスの「写実」(1)
アンドリュー • ワイエスの写実力はすごい。この絵では、肌、髪の毛の一本一本、セーターの編み目、などの質感がきわめてリアルに描出されている。彼がリアリズム絵画の頂点として認められているのは、よく分かる。彼は作品を描き始める前に、ものすごい枚数の予備的な鉛筆デッサンを長い時間をかけて行っている。しかしそれは、ただモデルを丹念に「写生」しているわけではない。それは、対象の見えている姿かたちの向こうにある真実のイメージを探して、それを自分が見えるかたちにしていくためのプロセスとして行っている。だから彼はこう言っている。「私はものごとに対してロマンチックな空想を抱いている。それを私は絵に描くのだが、リアリズムによってそれが可能になるのだ、夢を真実で裏付けなければ、貧弱な作品しか生まれない。」つまり彼のリアリズムは、物自体を本物らしく写生することが目的ではなく、自分の中にある物に対する夢=イメージが真実であることを示すための写実だ、ということを言っている。だから一見写真のような絵でありながら、写真では捉えられないモデルの内面と、それに対する画家自身の思いが伝わってきて見る人の共感を呼ぶ。
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