2024年2月22日木曜日

「内なる画家の眼」

 「Drawing  the Artist Within」

初級者の大学生に美術教育をしている B・エドワーズという人の本「内なる画家の眼」に面白いことがのっている。学生に8つのキーワードを与えて、それぞれに該当する小さな図を鉛筆で描けという課題を出す。条件として具体的な物の形を描いてはいけない。

8つのキーワードは、「怒り」「喜び」「平穏」「静寂」「エネルギー」「女らしさ」「病気」「恐れ」で、学生たちが描いた絵は例えばこんな感じだった。


次にキーワードごとの各学生の絵を集めると、そこには多くの類似性が見られた。例えば「喜び」の場合、曲線が軽くカーブして渦を巻きながら上昇していくような性質の図を描いた学生が多かった。これと同じ性質の絵画を名画の中から探すと、ゴッホの「糸杉」がぴったり一致していて、木の葉が渦巻きながら上昇していくタッチで「喜び」を表現している。


「静寂」のキーワードの場合は、動きのない水平線を重ねた図が多かった。アメリカの原野の郷愁あふれる風景を描いたマーティン・ジョンストン・ヒードの絵はそれに当たる。


キーワード「エネルギー」の場合、中心から外へ向かう放射状の線が描かれていたり、激しい爆発のような図が多い。ロイ・リキテンシュタインの現代絵画「爆発するスケッチ」はまさにそのままだ。


もちろん学生にこれらの名画を事前に見せていたわけではない。人間の感情とそれを表す形の間には一定の関連性があることを気づかせるための課題だという。見たものをそのまま描く「写生」と違って「絵画」は、対象を見て自分が感じたものを表現しなければならない。その時、自分が感じた感情を絵を見る人にも伝えて共感してもらうためのコミュニケーションの道具が必要だが、それが「視覚的な言語」だ。そのことを学生に意識させることがこの課題の目的だと著者は言っている。

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